2022.02.10
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年度末総括では組織の健康診断が重要かもしれない

前回まで2回にわたってキャリア教育の実態調査について書いてきました。

一方で教育活動を進めていくことを考えるときに組織のあり方というものは無視できません。今回は組織に注目して書いてみました。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

クライシスマネジメントの本質

『クライシスマネジメントの本質』という本があります。人間科学博士の西條剛央さんが書かれた本で、副題は「本質行動学による3.11大川小学校の事故の研究」です。前文には「本書は東日本大震災後の10年にわたる実践活動-学問的営みを往還する中で、何かに導かれるように書かれ、今こうしてご縁があったみなさんの手の中にある」と書かれています。今後の再発防止や未来の命を守る一助になればという思いで書かれたこの本には、組織のあり方を考える上でヒントになることがたくさん書かれています。

本質行動学とは本質に沿って望ましい状態をなんとか実現してくための実践の学です。本質行動学では、マネジメントの本質は、望ましい状態を何とかして実現していくことと定義されます。望ましい状態を何とかして実現するためにも、組織のあり方が重要になってきます。詳しくは本を読んでもらうとして、今回は特に重要な点を紹介したいと思います。

形式主義の徹底が組織を機能不全にする

第二次世界大戦中にCIA(Central Intelligence Agency)の前身となるOSS(Office of Strategic Services)が組織を機能不全に陥らせるためのマニュアルを作成しています。それは長年極秘資料として非公開でしたが、近年機密が解除され、2015年に解説付きの翻訳本として公刊されました。『クライシスマネジメントの本質』の中で、翻訳本にある「どうすれば組織が回らなくなるか」を西條さんなりにまとめて紹介されています。それによると組織を機能不全に陥らせ、回らなくする方法は次の4つです。

1、「形式主義・手続き主義の徹底」
何事をするにも、決められた手順を踏まなければならないと主張する。必要な手続きと認可を増やす。一人でも十分なことに3人が許可をしなければならないようにする。すべての規則を隅々まで適用する。

2、「会議主義」
重要な仕事をするときは会議をひらく。以前の会議で決議されたことを再び持ち出し、その妥当性をめぐる議論を再開する。

3、「文書主義」
文面による指示を要求する。もっともらしい理由でペーパーワークを増大させる。

4、「本末転倒主義」
ごく些細な不備についても修正するために送り返す。あまり重要ではない生産品に完璧さを求める。非効率な作業員に心地よくし、不相応な昇進をさせる。効率的な作業員を冷遇し、その仕事に対して不条理な文句をつける。

これを読みながら日本の学校のことが書かれているのではないかと思い、怖くなったのが正直なところです。しかし、学校に限らず、多くの日本の大企業や官僚制度が抱える問題の本質を書いているのでしょう。具体的な事例は書きにくいですが、最近何か問題が起こるたびに現場の首を絞めるような対応が要求されるようになるということは、多くの人が感じていることではないでしょうか。結果的に組織がより機能不全になり、回らなくなるということを感じている人も多いのではないでしょうか。

年度末に組織の状態も振り返ることが重要

回らない(機能不全な)組織で新しいことに取り組むと悲惨な結末にしかつながりません。一方で上に書かれた4つの方法について、あるときには重要であることも事実です。たとえば何かを決める手順が明確でなければ、声の大きい人や役職者の独断ですべてが決まるかもしれません。何かを決めるためには会議も必要でしょうし、その際文書に記録として残すことも重要でしょう。何らかの目的を達成するために、実は上に書かれた4つの方法は必要なのです。しかし会議をひらくことが目的になるなど、これら自体が目的となるときに、組織は機能不全になり回らなくなるのです。これはまさに手段の目的化に他なりません。

1年の総括をするにあたって、到達点や課題を明らかにすることは多いと思いますが、組織の状態確認は意外とおろそかにされているように思います。だからこそ総括の際に、自分たちの組織が、組織を機能不全に陥らせる4つの方法にどの程度当てはまっているのかを確認することが重要なのではないでしょうか。それは手段が目的化していないかを確認することに他なりません。

2022年度から高校でも観点別評価が導入されます。観点別評価は生徒の学びと成長や教師の指導改善のためのものです。しかし面白いことに(面白がってはいけないのですが)、多くの学校では観点別評価導入の議論を始めると、観点別評価を実施することが目的になりがちです。おそらくその結果、評価のための課題が増え、観点別評価は実施できても、本来の目的であった生徒の学びと成長や教師の指導改善にはつながらないものになるということが起こるでしょう。
おそらく多くの学校で、その議論はちゃんとした手続きを踏み、会議をひらき、文書で決まったことをまとめ、ごく些細な不備も起こらないように考えているはずなのです。しかしその結果として、仕事ばかりが増え本来の目的を忘れてしまうのならば、組織は機能不全に陥っていて、自分で自分たちの首を絞めてしまっているということになります。観点別評価導入のような新しいことに直面した時に組織の状態が明らかになるのかもしれません。みなさんはどう思われますか?そしてみなさんの所属している組織は回らない(機能不全な)組織にはなっていないでしょうか?

お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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