2022.01.24
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今学校現場に必要なのは当事者意識

キャリア教育の実態調査の結果をよく見ると、今の学校に必要なことも見えてくる気がします。今回はキャリア教育の調査を分析し、そこから今の学校に必要なことについて考えたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

調査結果に存在する不思議な数字の差

キャリア教育の実態調査には、「学校調査」「担任調査」「生徒調査」の3種類があります。学校調査は管理職に、担任調査は最高学年の担任に調査を依頼しています。学校調査と担任調査とで共通する質問もあります。
たとえば「キャリア教育に取組に対して評価を行っている」がそうです。取り組みを行っているかどうかという事実を聞いているので、同じ学校であれば、管理職でも担任でも答えは同じはずです。しかしこの質問に「あてはまる」と答えたのは、学校調査で32.0%、担任調査で10.7%でした。この数字の差はなぜうまれるのでしょうか。管理職は取組をしたつもりになっているけど、それが現場に伝わってなくて、担任の認識としては取組をしていないのかもしれません。実は取組をしているのに担任が気づいてないということも考えられます。理由はわかりませんが、少し興味深い結果です。
他の質問でも学校調査と担任調査の差はあり、たとえば「キャリア教育の評価結果に基づいて取組の改善を行っている」に「その通り」と答えたのは、学校調査で28.8%、担任調査で7.9%でした。「キャリア・パスポートを作成していない」のも学校調査48.0%に対して、担任調査は66.8%です。誤差とは言えない大きな差で、管理職と現場の意識の差を表しているようにも思います。組織として動くことの難しさを表す数字なのかもしれません。
しかし、実は(派手な取り組みをすることだけでなく)、ここにあるような管理職と現場の意識差を小さくすることが学校をよくすることにつながるのかもしれないと思ったりもします。
「カリキュラム・マネジメント」「汎用的能力」など新学習指導要領で重要なのは横のつながりであり、チーム学校です。それは生徒がこれから生きていく未来の社会でも重要であることは間違いありません。みなさんは管理職と現場に差があるという現実をどのように感じられますか?

学校現場の本音?

調査結果から学校現場の本音が見えるように感じるところも少なくありません。たとえば「ホームルームでキャリア教育を適切に行っていく上で今後重要なこと」について、担任調査では多い順に「○○ができるようになるなど具体的な目標を立てること」「キャリア教育担当者に各教員が協力すること」でした。学校として具体的な目標を立てる際には、当然先生間でそれを共有し、目標を共通認識とすることが必要です。この結果から「みんなで協力して教育活動に取り組みたい」という現場の声を感じるのは私だけでしょうか。

担任調査では「ホームルームでキャリア教育を行っていくうえで困ったり悩んだりしていること」という質問項目もあります。その答えは多い順に「十分な時間が確保できない」「キャリア教育についての考え方・思いが教員によって差が大きい」でした。
ここから多くの教員の「みんながもっと協力すればよりよいキャリア教育ができるのに」という思いが見える気がします。なお、これらの次には「キャリア教育と進路指導の違いがわからない」「キャリア教育の評価の仕方がわからない」「キャリア教育に関する指導の内容・方法をどのようにしたらいいかわからない」と、キャリア教育について実践も含めてよくわからないという答えが続きます。
もちろんその背景として調査からも明らかになっている「研修の不足」があることは事実です。しかし、それだけでなく、教員同士でのつながりの希薄さや、お互いに学びあい学んだことをシェアする機会が不足していることもあるように思えてなりません。
いずれにしても「多くの教員はチームで教育活動を進めたいし、目標も共有したい。もっと協力したらいいのにと思っている。しかし現状はそうなっていない」という実態が浮かび上がります。こう書いている自分自身、勤務している学校の状況を考えると、調査結果通りだなあと思ってしまうのも事実です。

今、必要な当事者意識

学校をより良いものにするために今必要なものは何だろう。調査結果から学校の実態を考えれば考えるほどこの問いが頭に浮かびます。

実は実態調査の分析打合せの中で、ある先生は担任調査の回答から見える現状について深く同意された上で、「一方で担任調査の結果は他人事として答えているようにも見える。誰かが何とかしてくれるという思いもあるのかもしれない。」とも言われました。実はこの一言の中にキャリア教育をより充実させ、学校をよりよくするヒントが隠されている気がしてなりません。今、学校に必要なのは当事者意識ではないでしょうか。

キャリア教育をより充実させ、良い学校を創っていくのは誰でしょうか。自分も良い学校を創る当事者の一人である。この感覚こそが今の学校にとって必要なことに思えてなりません。そして「どうすればキャリア教育がより充実し、学校はよりよくなるのか」は私たち教員の探究課題に他ならないのです。探究課題である以上、絶対に正しい答えがあるわけはなく、探究して実践し続けることが大事です。私たちはこの視点に立てているでしょうか。そしてこの視点は今の学校が失おうとしているものかもしれません。

たしかに管理職のリーダーシップや国の教育政策は大事です。しかし、「○○が悪い」と批判をする私たち自身は、いったいどのような取り組みをしているのでしょうか。たとえば管理職が悪かったとしても、目の前に生徒がいて、キャリア教育に取り組む時間はあります。その時間を私たちはどのように活用しているでしょうか。「キャリア教育担当者に各教員が協力することが大事」と答えている私たちは、担当者にどのような協力をしているのでしょうか。実はこうしたことが問われているように思えてなりません。

学校の多忙化が言われ、仕事の削減が言われています。そのことは悪いことではありません。有限な時間の中で何でもかんでもできないのは事実です。だからこそ、「制約のある中で最大限のことができるためにどんな工夫ができるのか」。今、学校に問われているのはこのことではないでしょうか。そして「(SNSなどで発信したり、大きな声で要求したりすれば)誰かがよくしてくれる」という意識からの脱却こそ、今私たち教員に求められていることではないでしょうか。
「自らも学校を構成している一員であり、良い学校を創る当事者の一人である」という当事者意識。学校に今必要なのはこの意識かもしれません。もちろんすべてのことに当事者意識を持ちすぎるとパンクしてしまいます。ある部分では、「評論家になって足を引っ張ることがないよう心がけ、責任者がやりやすいようにできる範囲で協力することを考える」ということも当事者意識に含まれるのかもしれません。みなさんはどう思われますか?(もちろん当事者意識が自然と生まれるような管理職のリーダーシップや国の教育政策は必要ですが)

2022年のはじめの2回を使ってキャリア教育の実態調査について書きました。次回は新年度準備を考えるにあって重要だろう組織のあり方について書きたいと思います。お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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