2021.09.17
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学級経営の基礎・基本

巨人の肩に乗り、そこから見える前後の景色をみなさんと共にする連載「温故知新」の9回目(最終回)です。
今回は『クラスはよみがえる -学校教育に生かすアドラー心理学-』(野田俊作・萩昌子 著)です。アドラー心理学と学級経営を関連させた書籍はたくさんあります。その中でも、この本。1989年が初版になりますが、年々重版を重ね、2014年には23刷になります。
子どもを変えたいと思う先生方が読むと、この本は「害」になる可能性があります。
一方、そうじゃない方が読むと、幸せな教師人生を歩むことができるでしょう。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

源流

驚くことに、「リフレーミング」「iメッセージ」「ピアサポート」「CCQ」「ルールメイキング」「リフレクション」など、今では学級経営で当たり前に使われる考え方が登場します。言葉自体は出てきませんが、書いてある内容は先ほどの考え方の定義そのものです。

例えば、「あなたの頭の中にしかない『理想の子ども』から減点しながら現実の子どもを見ることをやめること」や「『私は』と言うということです。子どもがどうであるかを判断するのではなく、教師自身がどのように感じているかを言うのです」といった言葉が綴られています。今で言う、「リフレーミング」「iメッセージ」になります。
アドラー心理学では、「ほめる」ことは縦の関係を強化するため推奨されていません。その代わりに、「勇気づけ」を勧めています。つまり、ほめて育てられた子どもは、自分の利害にしか関心がなくなってしまいがちなのです。

勇気づけの練習問題

では、「勇気づけ」とは一体どのような行為なのでしょうか。具体な場面で考えてみます。

このような練習問題が記載されています。
「あなたのクラスのある子どもが、たとえば階段の踊り場で、ゴミを拾っているのをたまたま見かけたとしましょう。こういうチャンスを逃してはいけません。さて、どうしますか?」

次の選択肢から選んでみてください。
①何もしない
②えらいね
③学校を清潔にしておくのに協力してくれてありがとう
④ありがとう
⑤その他

本にはこう書かれています。
①と②は落第点。②「えらいね」と言ってしまうとダメだと言っています。自発的にゴミを拾っていたのに、それをほめられたのでは、次からはほめられるために行動する可能性を生んでしまうのです。
では、③と④。これらが「勇気づけ」です。
さらに、⑥番目としてこのように記載されています。少し長いですが、引用します。

「ある人(名前を言ってはいけない)が階段のゴミを拾ってくれていました。とても嬉しく感じました。『ありがとう』と声をかけようかなと思ったのですが、考えてみると、その人だけではなくて、他の人もきっと、学校を清潔に保っておくのに協力してくれているのだろうということに気がつきました。その人の場合は、たまたま私が見かけたのだけれど、私の知らないところでも、多くの人がゴミを拾ったりしてくれているのだろうと思います。ですから、そういう人たち全員にありがとうを言います。いつも学校を清潔にしておくのに協力してくれてありがとう」

このような言葉をかけられた子どもは、誰も見ていなくてもゴミを拾って捨てるようになるのだろうと書いています。

他にも勇気づけの練習問題が多く載っています。筆者自身がよく使っている声がけが、本書では落第点か及第点。短期的に効果のある言葉ではなく、中・長期的な視点で子どもを育てることができる声がけ(=勇気づけ)を学ぶことができます。

感謝

これで全9回の連載「温故知新」は終わりです。いつもお読みいただき誠にありがとうございました。

2学期が始まり、「クラスを立て直したい」「もっとよいクラスに高めたい」と思っている先生方。ここで、一休みして、クラスをよみがえらせましょう。そして、幸せな教師人生を歩み出しましょう。

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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