2021.09.09
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発問を少し変えるだけで探究的な授業を作る方法 ~数学の授業作りを考える~

普段の授業を少し探究的にする。
そんなことをテーマに書いてみました。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

探究的な学び=大がかりなもの?

いきなりですが、質問です。
「バスの運転手さんは、どんな仕事をしていますか?」
みなさんならどう答えますか?

では次の質問はどうでしょう?
「バスの運転手さんは、どこを見て運転していますか?」

後者は有田和正先生が小学校の授業でされた発問ですが、前者と比べていろいろなことを思考したのではないでしょうか。「どんな仕事?」と聞かれても「運転する」以外のことを考えるのは難しいですが、「どこを見て運転していますか?」と聞かれると、バスの前の道路や車、バスの後ろや横のこと、次の停留所や現在の時間などいろいろなことを思考します。これは生徒(児童)も同じでしょう。つまりこの発問によって、生徒はバスの運転手の仕事について、自ら探究していくようになるのです。このように授業では聞き方ひとつで生徒の頭の動き方が変わり、探究的になります。

探究的な学びの重要性が言われ、高校生の探究の成果がいろんなところでクローズアップされる中で、生徒があるテーマに対して長い時間かけて取り組んだ成果こそが探究的な学習の成果だという誤解も広がっているように思えてなりません。自分の専門の数学で考えても、スーパーサイエンスハイスクールで取り組まれるような数学をテーマにした立派な課題研究は確かに探究的な学びだと思います。しかしそれだけが探究的な学びだとなると、実施へのハードルは一気に上がります。日常の数学の授業を探究的にすることも重要な取り組みで、これはどこの学校でも実施可能です。

日常の授業を探究的にというと、反転学習、ICTを使った(華やかな)授業などをイメージされることも少なくないように思いますし、これらも大事な取り組みです。ただ今回は、誰でもどこでもすぐにできるという点を重視して、教科書を使ったごく普通の授業を探究的にする方法について考えたいと思います。

数学の授業を探究的にする3つの発問

教科書を使った授業を探究的にして、生徒が自ら考え発見できる授業にする。これができるかどうかは教材研究や生徒理解ができているかどうかで決まり、教師の腕が問われるところです。ただそう言ってしまうと名人芸になってしまいます。ここでは自分なりに考えた「数学の授業を探究的にする3つの発問」を紹介します。

1「何が成り立つでしょうか?」

中学校の証明分野を思い浮かべてください。教科書では「・・・のとき***が成り立つことを証明しなさい」という記述がされ、多くは三角形の合同を使って証明がされます。しかし何が成り立つかを考えることこそが数学の面白いところです。教科書を閉じ、条件などを示したうえで上の発問をすればどうでしょうか。生徒の頭が動き出すように思います。また自分が成り立つだろうと考えたことが本当に成り立つことを説明することは証明に他なりません。生徒が予想すると、証明する必然性も生まれるのです。

2「どうしたらいい?」

たとえばたすきがけによる因数分解を扱うときに、前時の復習をしたうえで、x^2の係数が1でない式を示し、「どうしたら因数分解できる?」と聞くだけでも、生徒にとっては解決したい課題が明確になります。数分の時間をとれば自分なりに試行錯誤することも可能でしょう。このちょっとした問いかけの工夫があるかどうかで、授業は大きく変わります。

3「なぜこうするのですか?」

たとえば三角比で正弦定理や余弦定理を使って辺の長さや角の大きさを求める問題があります。これについて「なぜこの問題では余弦定理(正弦定理)を使うのですか?」と聞くのはどうでしょうか。生徒は定理を使える状況について探究するでしょう。その結果理解は深まり、新しい問題への対応力もつきます。

日々の探究的な授業の積み重ねが、生徒の探究的な力を育てる

有田和正先生は元小学校教諭で、授業名人として語り継がれている先生です。有田先生の明言は数多くあるのですが、その中に「追究の鬼を育てる」「スイカはおいしいところから食べる。授業もまた同じ。」などがあります。生徒が探究することの大切さ、最も大事なところを生徒が発見することの大切さを有田先生は40年以上前に言われていたのです。探究が言われる今こそ、授業作りを考える際に有田先生から学べることは多いと思います。

先ほど紹介した3つの発問はすぐできるものではありますが、探究的な学習とは言えない面もあります。先ほどの例では教員が課題を与えていますが、本当の探究は生徒が自ら課題を設定するところにあるからです。しかし、生徒が自ら課題を設定できるようになるためにも、そして自ら設定した課題を解決する力を育てるためにも、普段の授業を探究的にすることは大事です。『生徒の頭に「なぜ?」「解決したい!」という気持ちが芽生える授業』と言ってもいいかもしれません。こうした授業の積み重ねこそが、探究的な力を育てます。そしてそれは教員が一方的に教えこむだけの授業では実現しないのです。

今回は授業に絞って書きました。正直もっともっと書きたいことはありますし、自分の書いた方法が完璧だとも思いません。まだまだ不十分だと思いつつ、こうして書くことで多くの方からもっといいアイデアをいただけると期待して書きました。

もちろん日々の授業改善だけでは十分ではありません。自分の人生のテーマともいえる課題を発見し探究する「総合的な探究の時間」の充実は大切です。こうした様々な探究を教育課程の中でマネジメントすることが、カリキュラムマネジメントに」他ならないのでしょう。とはいえ生徒が学校生活で一番多くの時間を費やすのは授業で、(管理職などごく一部の先生を除く)すべての先生が実施するもの授業です。授業改善について、もっともっと高校でも話題になればと思っての文章でした。お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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