2021.08.10
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廊下はじょうずに走ろう

巨人の肩に乗り、そこから見える前後の景色をみなさんと共にする連載。
「温故知新」の7回目です。
今回は野口芳宏先生。氏の豊富な実践例から
現代の教育課題のヒントを探っていきましょう。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

廊下はじょうずに走ろう

さて、タイトルの「廊下はじょうずに走ろう」。どのような意味なのでしょうか。
どの学校にも廊下に関するポスターがあります。本校にもありますし、これまで勤務した学校全てにありました。
ポスター掲示の目的は、注意喚起と行動変容を促すことだと思います。
では、そのポスターにはどんな言葉が書かれているでしょうか。

1. 廊下は走らない!
2. 廊下は歩きましょう
3. 廊下は上手に歩きましょう
4. 廊下は上手に走りましょう

1は否定の表現。
2は歩く行為をアピールした「走る」の代替表現。
3は「上手に」と抽象的ではあるが「子どもが考える余地がある」表現。
4は「上手に」しかも「走りましょう」と走ることを推奨している表現です。

4の言葉が生まれた文脈がこう書かれていました。
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ある学校では、いくら注意しても子供が廊下を走るのを止めないので、校長先生が朝の集会で「廊下は走ってもいいから、人に迷惑をかけたり、けがをしたりしないようにじょうずに走ることにしましょう」と話し、廊下の端に、「廊下は上手に走りましょう」という掲示をしたところ、子供たちが廊下をむやみに走らなくなったということです。
『言葉で子供がこんなに変わる』野口芳宏著、明治図書(初版1988年)
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この事例からは子どもは月並みのありふれた言葉よりもユニークな表現に心が動かされたことが分かります。
なかなか上記のような言葉は思いつかないでしょうし、思いついても実際には書かないでしょう。
しかし、子どもの立場に立ち、心を込めた言葉で伝えることができれば、子どもの心に響くポスター掲示が可能なことも感じさせてくれます。
教師の言葉選びの態度が、子どもの言語感覚を刺激するのです。

協力し、静かにしゃべらず授業を受ける!

先日、ある学校に訪問すると、このような言葉が黒板の上にどかんと書かれていました。

「協力し、静かにしゃべらず授業を受ける!」

いかがですか。
思わず突っ込みたくなったと思います。
「受ける」って、授業はもはや受け身の時間なの?
「協力し、静かにしゃべらず」って、無言で協力するってこと?
主体的で対話的で深い学びと言われている今でも、このような言葉が、子どもをコントロールしているのです。

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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