「国語授業」の説明書~素材研究を知っていますか?
授業をするうえで、素材研究は欠かすことができません。それは、一体何なのでしょうか。それは、どのように行えばよいのでしょうか。今回は「素材研究」に焦点をあててお話しします。
木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴
【教師面をせずに読む】
こんにちは。前回は「発問」について私の考えを書かせていただきました。そして最後に発問作りには素材研究が重要ですということまでお伝えしました。教材研究という言葉はよく耳にすると思いますが、素材研究というのはご存じですか。
そもそも「素材」とはなんでしょうか。広辞苑には次のような記載があります。
「もととなる材料、原料」です。
つまり「授業の原料に対する研究」と言えそうです。
私の師である植草学園名誉教授の野口芳宏先生は素材研究をとても大切にされます。「教材研究の殆どは、素材研究である」と仰っております。では、教材研究とどこが違うのでしょうか。野口先生は素材研究について次のように述べています。
「作品を教師面をせずに読むことだ。教えると思って読むのではなく、一読者として読むのだ」
私たち教師は、作品を初めから「教材」として扱っています。ですから、教えるためにはどうすればよいか、どう発問すればよいかと考えながら読んでしまいがちです。しかし、その前に一つの文学作品として純粋に読み込むべきです。
【3つの分類】
素材研究について、もう少し詳しく見てみましょう。東京未来大学非常勤講師の山中伸之先生は教材研究を3つに分類しています。
<教材研究の分類>
1.素材研究
2.指導事項研究
3.指導法研究
つまり、素材研究とは、教材研究の一部であるということです。それぞれ簡単に説明していきます。
〇素材研究
純粋に作品と向き合い、読み込んでいく作業です。教材研究の根底となる部分です。
〇指導事項研究
その単元で指導する教科内容について考える作業です。例えば、比喩、心情、情景など、学習用語を使用して教えるべき内容を研究します。
〇指導法研究
指導展開、発問などの授業のやり方について考える作業です。素材研究、指導事項研究を十分に行ったうえで、それをどのように教えればよいか研究します。
御覧になれば分かる通り、最も重要な部分は素材研究です。しかしながら、学校現場の教材研究というと指導法研究が殆どではないでしょうか。
学校の先生方は本当に毎日忙しいです。作品を読み込む時間などないのかもしれません。ですが、作品と向き合う時間を作ることで、作品の魅力に気付き、授業をやりたくなると思います。
【語彙と文脈】
では、素材研究はどのようにすればよいのでしょうか。結論から言います。
「言葉を調べる」
「文脈を論理的に読み解く」
の2つであると私は考えます。6年生『海の命』を例に挙げて、それぞれ解説していきます。
〇言葉を調べる
作品の中で「だれにも、もぐれない瀬」という言葉が出てきます。「瀬」とはなんでしょうか。日常の中で聞くことはありますが、瀬の定義を答えることはできますか。このように思ったら、辞書で言葉を調べます。広辞苑には4つの意味が載っています。
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<瀬>
1.川などの浅くて徒歩で渡れるところ。
2.水流の急なところ。
3.事に出あう時。
4.その場所。立場。
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なるほど。多様な意味がありますが、ここでは「だれにも、もぐれない」と言っているので2の意味で使われていることが分かります。そのような場所を早瀬といいます。瀬のつく言葉は他にもあります。例えば「浅瀬」、「逢瀬」、「瀬戸」、「早瀬」、「瀬戸際」、「瀬戸物」、「高瀬舟」、「浅瀬仇波」などです。
このように、読んでいて分からなかったことや、不思議に思ったこと、知りたくなったことなどを調べておくことによって、より深く作品を味わうことができます。
〇文脈を論理的に読み解く
主人公の太一は、漁師の師である与吉じいさに、ある日言われます。
「自分では気づかないだろうが、お前は村一番の漁師だよ」
村一番の漁師とはどのような状態を指しているのでしょうか。これを表面だけで読み取ると「村で一番漁が上手い」「どんな魚でも取ることができる」というように解釈してしまいます。しかし、それではこの作品の深い部分まで読み取れたとは言えないでしょう。では、どうすればよいのか。文脈を論理的に読んでみましょう。
与吉じいさは太一が未熟なときに、独り言のように次の言葉を語っています。
「千びきに一ぴきでいいんだ。千びきいるうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていけるよ」
このことから与吉じいさは「欲をかいて取りすぎない。必要な分だけ取る」ことが良い漁師の条件であることを伝えています。また、最後に「太一は瀬の主を殺さないで済んだのだ」とあります。太一が瀬の主を殺そうとしたのは私怨です。これは村一番の漁師と相反する行動です。
以上のことから、村一番の漁師とは「海の命を大切にする漁師」だと言えます。このように、文脈を論理的に読み解くことで、深い部分まで理解することができます。
【My教科書のススメ】
ここまで素材研究について述べてきました。素材研究をすることで、指導者自身が作品を好きになります。そして、授業をするのが楽しくなります。しかし、ここまでやるのには時間と労力がかかります。素材研究は簡単にできるものではありません。そこで、モチベーションを上げる秘訣をお教えします。
多くの先生は、学校から貸与されている教科書を使っていると思います。ですが、それでは素材研究したことを書き込むことができません。書き込む場合にはコピーをとらねばならず、大変です。それでは、素材研究をするのも億劫になってしまいます。
そこで、自分の教科書を購入することをお勧めします。教科書は一部の書店でしか取り扱いがありません。しかし、広島教科書販売という会社ならば、教科書をネットで購入することができます。しかも、一冊あたり数百円です。こんなに安い買い物はありません。
自分の教科書ならば、書き込み放題です。赤線引き放題です。初めは指導書の内容をそのまま書き込んでも良いと思います。使っているうちにもっともっと素材研究がしたくなってきます。是非、お試しください。
というわけで、今回は素材研究についてお話ししました。次回は「対話」についてお話します。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
山本 裕貴(やまもと ゆうき)
木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属
高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。
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