2021.05.11
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総合的な探究の時間でこそ伸びる力

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

総合的な探究の時間で伸びる力は何?

数学の時間で数学の力が伸び、音楽の時間で音楽の力が伸びる。あまりに当たり前すぎることかもしれません。もちろん、一口に数学の力が伸びると言っても、どんな授業をするのか、どのような課題に取り組むのか、テストで何を問うのかなどの積み重ねで伸びる力は授業者によって(学校によって?)異なるということはあります。しかし、たとえば数学の時間で結果的に我慢する力が伸びたとしても、それはあくまでも数学の教材・数学のコンテンツを通して伸びた力です。また本当に我慢する力を育てることだけにフォーカスしたいならば、必ずしも数学というコンテンツを使う必要はありません。

このように考えた時に、総合的な探究の時間で伸びる力は何なのでしょうか?総合的な探究の時間について考える時に、地域連携や課題研究などのコンテンツだけを考えがちです。各教科と違い、決められた教材(コンテンツ)はないのでそうなるのも無理はないのかもしれません。しかし育てたい力があって、次にそれを実現するための教材があるという順番を忘れてはいけません。

改めて問います。総合的な探究の時間を通じて育てるべき力は何なのでしょうか?この問いは総合的な探究の時間の存在意義にも関わります。そしてこの問いを考える時に、学力の3要素が役に立ちます。

改めて学力の3要素を考える

学力の3要素とは生徒が新しい社会を生き抜くために育てるべき力と新学習指導要領で定められています。3つの要素は「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力」で、これらを総合して「生きる力」と規定されています。新学習指導要領では、各教科・科目だけでなく、総合や特別活動まですべてにおいて、目標が学力の3要素で貫かれていることが大きな特徴です。数学も国語も体育も特別活動も、それぞれの教科等の目標が「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力」の3つで書かれているのです。

たとえば特別活動を考えます。特別活動は一般的には「ホームルーム」「学校行事」などのイメージが強いかもしれませんが、新学習指導要領ではキャリア教育の中核となる時間と位置づきました。
目標も「知識・技能」は“多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や活動を行う上で必要となることについて理解し,行動の仕方を身に付ける”ことが、「思考力・判断力・表現力」は“集団や自己の生活,人間関係の課題を見いだし,解決するために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したりすることができる”ということが、「学びに向かう力」は“自主的,実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして,主体的に集団や社会に参画し,生活及び人間関係をよりよく形成するとともに,人間としての在り方生き方についての自覚を深め,自己実現を図ろうとする態度を養うこと”と定められています。
ここで注意すべきことは、3つの要素はすべて大事だが、おそらく強調するものがあるだろうということです。先の特別活動の例で言えば、たしかに3つの目標(要素)すべてが大事です。しかし特別活動の特徴から「学びに向かう力」こそが重視されるべきものでしょうし、実際学校でもそうなっていることでしょう。

では総合的な探究の時間ではどれが重視されるべきなのでしょうか。総合的な探究の時間でこそ育つ力を考えた時に、学力の3要素と、3要素の特にどれを重視するのかということを考えると、整理しやすいようにも思います。

総合的な探究の時間で育つ力

扇の図

立命館宇治高校では、2018年度より文科省の指定を受けながら、カリキュラムの核として、キャリア教育の要素を十分に含んだ総合的な探究の時間を先行実施してきました。3年間の取り組みが終わり、改めて気づいたことがあります。それは「総合的な探究の時間でこそ“思考力・判断力・表現力”が育つ」ということです。

生徒の感想をテキストマイニングにかけても、生徒にどんな力がついたのか質問しても、探究の授業を通じてついた力は「考える力」「問いを立てる力」「課題を解決する力」など、“思考力・判断力・表現力”に分類されるものでした。
高校1年生では1単位分キャリア教育授業を実施していますが、そこでついた力は「自分と向き合う力」「人生の目標を設定する力」など、“学びに向かう力”に分類されるもので、当然と言えば当然ですが、キャリア教育授業と探究の授業で育った力は違うと生徒は感じていました。これは教員の感覚とも一致しています。実際、学びみらいPASSというテストからも、探究やキャリア教育の授業(総合的な探究の時間のことです)を通じて「思考力・判断力・表現力」や「学びに向かう力」が育っていることが明らかになりました。

この結果は、学力の3要素・カリキュラムマネジメントが重要であることを示しています。各教科には教科固有の知識・技能があります。もちろん教科の授業を通じて、「思考力・判断力・表現力」や「学びに向かう力」を育てることは重要ですが、それは教科固有の見方・考え方を通して育ちます。

教科固有の「知識・技能」を統合し、「思考力・判断力・表現力」を育てることができるのは総合的な探究の時間に他なりません。そしてその土台には生徒のモチベーションや将来への見通しなど、キャリア教育・特別活動でこそ育てることができる「学びに向かう力」があるのです。これらをバラバラにすることなく、学校の教育活動全体で育てようと考えたときに、必然的にカリキュラムマネジメントの重要性が明らかになります。

おそらくこれをたとえるのは扇でしょう。扇面として各教科の授業があり、それらを統合するものとして、総合的な探究の時間がある。そして要となるのはキャリア教育が位置づいた特別活動。これらが一体となった時に立派な扇が完成し、そのとき学校の教育活動全体で学力の3要素もバランスよく育てることができるようになるのでしょう。

ここに書いたことは「言うは易し行うは、、」です。しかし、総合的な探究の時間を考える際に、地域連携や論文などのコンテンツだけを考えるのではなく、目の前の生徒たちの「思考力・判断力・表現力を育てること」を意識することはできるのではないでしょうか。特別活動・キャリア教育を要と考えて、「学びに向かう力を育てる」ことを意識していろいろな取り組みを考えることもできるのではないでしょうか。これらが実現すると、自然と各教科の取り組みも、単なる「知識・技能」を育てるだけのものから脱却し、いろいろな教育活動とつながっていくのではないでしょうか。カリキュラムマネジメントは一部の先生が対外的に提出するための書類を仕上げることが大事なのではなく、誰か(多くは管理職や教務主任)がまとめた(カリキュラムマネジメントの)書類を参考に、現場で事例を積み重ねて共有していくことが大事だと思います。


お読みいただきありがとうございました。自分でもまだまだ整理できていないところがあるようにも思うのですが、総合的な探究の時間やキャリア教育の取り組んできたことで、少なくとも自分の中ではカリキュラムマネジメントについての重要性や必要性を感じています。感想などお寄せいただいたらうれしいです。今後ともよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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