2021.03.25
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コア探究の成果?~私たちは評価についてもっと学ぶ必要があるのかもしれない~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

探究の成果を「学びみらいPASS」で検証する

「学びみらいPASS」とはこれからの社会で求められる力を測定するために河合塾が開発したテストです。「知識を活用して問題を解決する力(リテラシー)」と「人と自分にベストな関係をもたらそうとする力(コンピテンシー)」を測定するテストで、大学でも広く実施されていることから、大学生との比較もでます。リテラシーは学力の3要素でいえば、「思考力・判断力・表現力」を、コンピテンシーは「主体性・多様性・協働性」を測定しようとしています(いわゆる入試に向けての模試は主に「知識・技能」を測定しています)。

本校では(主に知識・技能の力を測定する)模擬テストでは測定が難しい力についてのアセスメントの一つとして、2017年度入学生より学びみらいPASSを実施することになりました。当面の間は高1の4月末(入学時)と高3の12月(卒業直前)に実施します。似たようなテストで、たとえばベネッセの「GPSアカデミック」など他にもテストはありますので、何を利用するのかも今後検討が必要だとは思います。 

2017年度の結果から、「本校の生徒は入学時に、コンピテンシー(人と自分にベストな関係をもたらそうとする力≒学びに向かう力)は高いが、リテラシー(知識を活用して問題を解決する力≒思考力・判断力・表現力)に課題を抱えていること」が明らかになりました。また2018年度の結果から、入学時のリテラシー・コンピテンシーの数字はこの2年間ほぼ同じだということがわかりました。本校では2018年度よりコア探究を核とした新カリキュラムを実施しています。この仮カリキュラム改革は実は授業時間減を伴うものでしたが、

結果的にこの2つの学年が、高3の12月でどうなっているのかは、新カリキュラムの、そしてコア探究の成果を測るものとなりました。

確実に力をつけている生徒たち

2020年2月。コロナが徐々に広がり始めていたころに。2017年度入学生が高3卒業時にどうなっているのかの結果が出ました。幸い高校生活を通じてコンピテンシーは高いままで、リテラシーが向上していることが明らかになりました。

2021年2月。コア探究1期生の学びみらいPASSの結果が返ってきました。その結果、前年度の同じ時期と比較すると、コンピテンシーもリテラシーも上昇しており、特にコンピテンシー全般や、リテラシーの「情報収集」「構想」などは大幅に向上していました。

本校は新カリキュラムに伴って、総合(探究)の授業時間は3年間で3単位→5単位に上昇しましたが、1週間の総授業時間を減らしていました。この結果は総合を核としたカリキュラムでむしろ生徒の「思考力・判断力・総合力」や「学びに向かう力」が伸びたということを示しています。現在大学の先生のお力をお借りしながら、生徒の成果物の評価から、カリキュラムの評価を行っています。今後は個人ごとの分析も必要だと感じています。

学びを評価する軸の議論が必要!

ここまで学びみらいPASSでの結果をお伝えしました。こうしたことは文科省など対外的に取り組みを説明する際に求められるものであることは事実です。そして数字が向上したという事実は喜ばしいことなのでしょう。「今年の高3はこの時期例年より頑張っている」「今年の高3はこんな取り組みを頑張っている生徒が増えた」こうした声はその教員の主観でしかありません。テストによって数値化されることで、それが実証されたような感覚になることは事実です。しかし数字に一喜一憂することに大きな意味は感じていないというのが正直なところです。

たしかに日本の高校を評価する軸として難関大学への合格実績があることは事実です。合格実績を高めるに、模試などで定期的に偏差値を測定しながら目標達成に向けて頑張る。こうした実態があることはよくわかります。しかし、一方で探究やキャリア教育の取り組みをする際にも、その成果として、いわゆる偏差値が高い難関大学の合格実績を求められる現状もあります。それは果たしてどうなのだろうかと思うときもあります。たしかにキャリア教育で目標を見つけ、人生への意欲が向上すれば、それは学習という行動につながり、その結果いわゆる難関大学に合格するかもしれません。探究で教科横断型の思考力を伸ばすことができれば、結果的に各教科の偏差値が向上することもあるでしょう。でもそれは結果であり、探究やキャリア教育の目標ではないはずです。探究やキャリア教育の成果として難関大学への合格実績を求めることは、クラブに例えるなら、野球部に入部した生徒に、卒業時バレーボールがうまくなっていることを求めているようなことと同じではないかとさえ思います。 

おそらく評価ということについて、日本はまだまだ習熟していなくて、学力テストなど数値化されたものを重視しすぎているのでしょう。その点で学びみらいPASSやGPSアカデミックなど新たな学力指標を測定するテストが広がる意味はあります。また、マイプロジェクトアワードのように、生徒のプロジェクトを評価する大きな学びの場が広がることも重要なことでしょう。こうした動きは大切だと思います。ただこうしたものが広がっているからこそ、私たち学校現場が、テストの数字向上やプロジェクトでの受賞は目的でなく結果でしかないこと、そしてどんな形で評価しても、それはある部分しか測定できないということをもっと知っておくべきだと思います。

多様な評価がより学校現場に導入されること、評価の限界について学校現場が理解すること、これらが今大切なのだと思います。

そもそも学校全体でのカリキュラムマネジメントができてないから、わかりやすい数字に頼るしかないという現状があるということは事実でしょう。何をもって生徒が成長したと言えるのか、その評価軸をつくるということについて、私たちは生徒たちを見ながら、もっと議論して作っていくことが必要で、評価についてもっと学ばないといけないのでしょう。探究に取り組んできて、わかりやすい成果が少し見えた時に気づいたのはこのことでした。

久しぶりに執筆メンバーに入れていただきましたが、今期の連載はこれで最後になります。しかし、探究授業の成果や気づきについて、そして新学習指導要領とのかかわりについてなど、もっと書くべきことがいっぱいあったのに書けないまま今期が終わってしまいました。今期はこれで終わりますが、もし許されるなら次期も継続して執筆したいと思っています。お読みいただきありがとうございました。そして引き続きよろしくお願いします。

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酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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