2021.03.05
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大学入試で終わる学び、大学入学後に爆発する学び ~未来社会を共創する主体を育む学びへ~

今回は少し挑戦的なタイトルかもしれません。これは1月23日に本校WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)公開研究報告会で行われたパネルディスカッションのテーマです。パネリストは教員以外の方が、ベネッセ教育総合研究所の小村俊平氏、リクルート進学総研の山下真司氏、タイガーモブ株式会社の菊池恵理子氏。教員は愛媛県立三崎高等学校の河野雄太先生、本校の水口貴之先生。かなり濃密なメンバーで2時間のパネルディスカッションを行いました。みなさんはタイトルの答え、どのように思われますか。今回はパネルディスカッションの内容を紹介しながら、このテーマについて考えたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

日本の学校教育の現状はどうなのか?

冒頭小村氏から、OECD(経済協力開発機構)の調査などを引用しながら、「基礎学力が高いのに、学ぶことへの興味関心が低く、将来に悲観的で希望がない」という日本の生徒たちの実態が紹介されました。小村氏は「この10年でいわゆる課題研究やプロジェクトに取り組む生徒は増え、質もかなり向上している」と、最近感じる可能性についても言及されました。

山下氏からはコロナ禍でいろんなアクションを起こした高校生の様子が紹介され、一方で何もできなかった高校生もいて、その差がコロナ禍でできてしまったかもしれないという報告もありました。様々な環境が整い、いろんなことに挑戦できる一方で、消費者としてお客様状態でも快適に過ごせる今の社会の中で、興味関心を持ち自ら動ける生徒と、ただ受け身な生徒との差が広がっている。こうした現状はあるのかもしれません。一方で、お二人の言われている「差が広がった」ということは、大人にも共通しているようにも感じます。コロナ禍はパンドラの箱を開けてしまい、それを可視化したのかもしれません。

「社会が求める人材を育てるのではなく、未来社会を創造できる主体を育むことが重要」。山下氏が最後に言われたことです。その通りだと思います。だからこそ、小村氏が指摘された「どうすればより多くの生徒の心に火がつくのか?」「(一部の生徒の取り組みと見られていることを)どうすれば学校全体の取り組みとして推進できるのか?」という問いがこれからますます大事になるのでしょう。

大学入学後に爆発する学びとは?

「見る前に跳べ」「人は思考の産物にすぎない」。長期的実践的な海外でのインターンシップなどを企画されているタイガーモブ株式会社CEO菊池氏の報告は刺激的なキーワードの連続でした。「カオスに飛び込むことで課題設定せざるを得ない」「お祭り状態を作る」。コロナ禍で海外事業が全STOPする中、「やっぱり自分たちは次世代リーダーを育成したい」と、新しいことに次々と挑戦されている菊池氏の言葉には説得力がありました。同時に、ここに大学入学後に爆発する学びヒントがあるようにも思えます。

愛媛県立三崎高等学校で、高校生×地域住民の「せんたんプロジェクト」に取り組まれている河野先生の報告は、文科省から地域魅力化型の指定を受けるだけのことがあると思わされるものでしたが、その中で「時代や環境に言い訳しない生徒を育てる」という思いが語られました。本校の水口先生からも企業の方がメンターに付いてプロジェクトを進めていくFOCUSの取り組みなどが紹介されましたが、そこでも「オンラインだからこそ広がった」という発言がありました。公立と私学、都市部と地方、置かれている状況も取り組みも全く違いますが、周囲のせいにせず今ある環境の中で挑戦するという共通のものを感じました。

「困難を楽しめる力」「まずやってみる」というマインドセット。大学入学後に爆発する学びの根底にはこうしたことがあるのではないか。そのようなことを感じる時間でした。

「小さなチャレンジを繰り返す」。本校卒業生が中学3年生への講演の中で繰り返し伝えたことです。何が小さなチャレンジなのかは、人によって異なるでしょう。でも自分から小さなチャレンジをできるかどうか。もしかしたら鍵はこうしたところにあるのかもしれません。

学校の丁寧な指導が進む中で、より多くのものを与えていくという風潮も生まれつつあります。しかし実は大学入学後のことを考えると、丁寧すぎる指導は生徒を受け身にしてしまい、自らチャレンジできない、大学入学までで終わる学びを生み出してしまうのかもしれません。

現実は甘くない~“should”から”would like”へ~

パネルディスカッションで「コロナはパンドラの箱を開けた。社会が変化することを実証した。コロナでいろいろなことが明らかになった」という話がでました。一方、学校現場ではいわゆる従来の受験教育、知識重視の流れが無くなるわけはなく、生徒が大きなプロジェクトを動かしたくても受験があれば難しいという事実があります。社会も教育も大きく変わると言われていても、このコロナ禍の状況を見てもわかるように、すべての学校や教員が変われるわけではありません。こうした現実は、教育をよりよいものに変えていこうとする私たちに何を問いかけているのでしょうか。

「人は変化に対して3つにわかれる。起こす人・見てる人・わからない人の3つだ」。ファシリテーターの浮田先生が言われたことです。そして、振り返って思うのは、質疑応答の中で北海道の先生がつぶやかれた「変化を楽しむ人(起こす人)が、そうでない人を巻き込んで新しい世界を創っていく」という言葉がすべてだということです。

パネルディスカッションの中では、「大人が実践者である大切さ」「まず問題を明らかにすることが重要」「いろんな大人に出会う」「将来のために現在を犠牲にするという考えからの脱却が必要」など大切にしたいキーワードがたくさん飛び交いました。一方で目の前の現実は甘くなく、思うようにならないことも多いでしょう。そんな状況でも小さなチャレンジを繰り返し、新しい世界を共につくっていくというマインドを持ち続けることができる生徒。こういう生徒は大学入学後も爆発するだろうな、とも思います。そしてこれは大人にもあてはまるのだと思います。

このようなマインドを持ち続けるために大切なキーワードは「“should”から”would like”へ」ではないでしょうか。「should」は一歩間違うと対立になります。一方、やりたいという思いを大切にしながら、仲間を増やしてそれを形にしていくとき、周りで見ている人はその人のことを爆発的に成長したと言うでしょう。菊池氏は「コロナは集まる意味を変えた。集まるのは議論するためだけでなく、越境体験をともに経験するという意味がある」と、指摘されました。菊池氏が言われる意味で人が「集まる」とき、新しい世界が創られていくのかもしれないと思います。

お読みいただきありがとうございました。書き終えて、濃いパネルディスカッションをかなり圧縮して書いてしまった感は否めませんが、少しでも伝われば幸いです。

本校では2018年度から開発してきた探究のカリキュラムが一応1サイクルしました。次回はその成果や、カリキュラム開発で見えてきたことについて書きたいと思います。
次回もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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