2021.01.05
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海外で 俳句を学ぶ 難しさ?

俳句で四季を味わったり、短歌で自分の心情を表す......日本の文化や文学に触れるいい機会です。こういう極めて日本的な単元を海外で学ぶにはどうしたらいいでしょうか。

ユタ日本語補習校 小学部担任 笠井 縁

通年での取り組み

家庭学習用のプリント

四季のはっきりした日本らしく、国語科では季節を感じ表現する小単元が組み込まれていることが多いですね。また小学校の高学年になると俳句や短歌など古典(近代)文学に触れる事を目的とした単元もよく見られます。

さてアメリカに住んでいる子どもたちに教えるにはこういう単元をどう扱ったらいいのだろうかと、補習校で教え始めてからずっと考えています。

初めの頃は、優先順位を考えれば現代国語の長いお話や説明文をしっかりと理解できる事が大事だと考えそのように学習計画を立てた事もありました。

低学年を受け持っていた頃は古典文学的要素がなかったので、四季を感じ表現する事ができればよし、としていました。それでも「春=菜の花」「夏=セミ」「秋=イチョウ」など日本では文字通り「身の回りにある」季節を感じるものがこちらでは見られない場合もあるので、そういった季節の風物詩の紹介には補習校特有の意義があります。

高学年(6年生)担当になり季節を扱う単元内で俳句や短歌が紹介されるようになってきて、また考えました。1年間に4回、代表的な季節の俳句を読み、また一つの単元で短歌詠みに挑戦するだけでいいのかな?もったいないなぁ。そこで通年で挑戦してみることにしました。

毎週発行している家庭学習用のプリント(写真を参照)の中に「今週の五七五(七七)」というコーナーを作り、毎週一つ俳句か短歌か川柳か駄洒落を書いてもらう事にしたのです。初年度は駄洒落を入れていませんでした。その場合思いつかないと何も書かない児童もいましたし、駄洒落は一見敷居が低いですが、実は同音異義語を知らないと作れない言葉遊びでもあるので、補習校の子どもたちにはそれもいいだろうと思ったのです。今年度の子どもたちがこういう「お遊び」が好きなクラスという事もあります。何も思いつかない時、忙しくて時間がとれなかった週は「ナイスな椅子」「イルカはいるか」のようにどこかで聞いた単純な駄洒落でお茶を濁す子もいますが、それもいいでしょう。

続けたら見えたこと

続けてみて見えてきたのは、やはり文章表現というのはたくさん書いていく内にこなれていくという事です。どの児童も、その時々で感じたことを何とか五七調のリズムにはめるのが上手くなってきました。

ずっと駄洒落を提出していた児童がいます。なかなか凝った駄洒落なので感心するのですが、その子だけではなく駄洒落か川柳だけに偏りがちという事もあり、ある週は「みんなで短歌に挑戦!」と指示してみました。駄洒落が得意なこの児童は、真剣に取り組みすぎたのか「どんなに考えても何も思いつかなかった」と。お母さんからも泣いてしまう位考えても何も出ませんでした、と連絡が……。そんな子も、またしばらくしてから「また全員で短歌に挑戦!」としてみるとちゃんと詠めました。続けるってすごい事ですね。

同じ五七五で表現されていても、これは季節を表現しているから俳句、そうではないから川柳のように、違いについても毎週の繰り返しでいつの間にか分かってきたようです。

また卒業文集に向けて春からの作品を振り返っている今になると、6年生なりにその時々の心情が表現されている事にも気づきます。一文日記や「今週あったことや感じたことを書きましょう」のように単調になることなく、五七調にはめるという言葉遊び的要素が入る事で、かえって素直に彼らがその週に感じていたことが見えてくるのです。

やっぱり自己表現

書いてもらった作品は、毎週の朝の会で面白かったものを選んで発表します。その時に誰の作品かは言わずに「これは誰のかな?」と子どもたちに考えさせると、これがまた面白い!宿題がギリギリまで終わらなくてヤバかった!ゲームのし過ぎで禁止になったというような川柳は笑いながら誰のかな~とか、逆に上手く季節や心情を表現した俳句や短歌には、感心しながら「〇〇さんだと思う」と比較的よくできると認識されている児童の名前が挙がりますが、時には「え、この子が?」という意外な(というと失礼ですが)児童の作品だったり。児童同士で新たな一面を発見しあっています。

自分の作品を読み上げられている児童の顔にも注目。ニヤニヤしたり、恥ずかしそうにしたり、駄洒落がウケた時や「おぉ~」と感心の声が上がると嬉しそうだったり。

また今年度の前半はコロナに関する不満や不安を詠んだものも見られましたが後半に入るとそれもだいぶ薄れ、最近では雪が降るのを心待ちにしている様子やクリスマスへの期待を表現したものも見られます。2020年度という今年の世相を表しているとも言えますね。

まとめ

小6というと、思春期の入り口に差しかかり自分の気持ちを素直に表現するのが少し照れくさいという児童もいます。しかし五七調といういわゆる「縛り」があることで、彼らの今の瞬間が上手く切り取られる気がします。

また自分がくり返し取り組むことで、俳句や短歌は古臭いものではなく、昔の人たちも同じように季節を感じ気持ちを表現してきたのだと身近に感じられる効果もあるようです。

よく言われる事ですが、小さなことの積み重ねで見えてくるものがあります。補習校は週に1回の学校で時間に制限がありますが、こんな工夫でサラッと通り過ぎてしまいがちの小単元にも細く長く取り組んでいけると面白い発見や学びがあります。


笠井 縁(かさい ゆかり)

ユタ日本語補習校 小学部担任


アメリカの小さな補習校で多文化の中で成長する子どもたちと一緒に学んでいます。アメリカの現地小学校でも非常勤で子どもたちと接し、日本との違いに驚くこともありますが、子どもたちの学びの過程には共通する部分も多いのではないかと思っています。

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