2020.11.20
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Intervention(介入しての学習活動)とは?

現地の小学校での私の仕事はインターベンショニスト(interventionist)と呼ばれます。毎日30分ずつ、4~5人ほどの小グループで英語リーディング(読み)の練習をするお手伝い 。インターベンションとは介入、間に入る事、また教育活動と訳される事もあります。今回はその仕事についてお話します。

ユタ日本語補習校 小学部担任 笠井 縁

統一テストから小グループへ

ユタ州では8月の後半に新年度が始まります。久しぶりの学校に慣れて9月に入った頃、英語と算数の統一テストがあり、その結果で児童が振り分けられます。算数は基本技能の確認で筆記テストですが、英語テストはいくつか種類あり中心になるのは一人ずつ受ける口頭でのテスト。英語では、やはりまず口頭でのコミュニケーションが重視されるという事でしょうか。

英語のテストは規定の文章を1分間読み上げ、間違いを除いて合計何語正しく読めたかではかります。また今読んだ文章をもう一度言ってみて(retell)という段階で理解度をはかります。1分間に読むべき単語の数と retell で何語使えたかの目標設定が学年ごとに決まっていて、その数値に達しない児童は、もう1~2段階のレベルチェックを経て習熟度で再度細かくグループ分けされ、いよいよ私たちインターベンショニストとの学習を始めます。

毎日30分のこの時間帯は全体授業を進めるのではなく、学年レベルに達している児童は担任から出された課題(復習中心)に個別に取り組むことが多いようです。今の学校ではこういう児童を independent learner(インディペンデント・ラーナー=独立した学習者)と呼び、担任や私たちインターベンショニストと学ぶグループをSBI グループ(Skill-Based Instruction=技能別教育)と呼んでいます(学校により呼び方や設定は変わります)。児童はレベル別に分かれるので、クラスをまたいだグループになります。

英語のリーディング練習というのは、日本でいえば漢字学習に当たるかなと私は感じています。日常会話に不便はなく生活言語は身についていても、書いてある言葉や学習言語を読む力がないという事ですね。

英語の場合はフォニックスとスペリングの関係をつかむための練習が中心になります。高学年では 多音節語(multi-syllable words)や読解の練習になる場合もあります。文字を見ても読めない。でも読んでもらったりして音にすればわかるという子が、自分で文字と音を結び付けられるようにするのが目標です。漢字学習に置き換えれば、部首や部分に分けて考えパターンを見つける作業に似ているかもしれません。

SBIグループの運営

グループで使う教材は決まっていますが、運営方法はほぼ担当者の自由裁量です。私が自分のグループの初日ですることは、お互いを知るための簡単な活動とグループでの約束の確認です。

くわしい自己紹介の前に “I like ~. I can ~.” と書いた紙を渡し「好きな事、できる(得意)事を書いてね。まだ誰にも言っていないような、みんなが聞いてびっくりするような事がいいな」と伝えます。それから書いた紙を集めて袋に入れたら1枚ずつ引いて読み上げ、これは誰の事かな?と当てっこします。お互いを知る楽しさの他に、サラサラっと書く子、考えるのに時間がかかる子、丁寧に字を書く子、スペリングが不安定な子…など学習に関する傾向についてもいろいろな情報が得られます。私は見た目からして異質のアジア人なので、”I can speak Japanese.” が定番で、だいたいそこで子どもたちの心と関心をつかめるという外国人ならではの利点があります。

その後で「このグループでは4つ約束してもらいたいんだけど、できるかな?」と次の活動に移ります。

  1. お互いを尊重する(I will be respectful to each other.)
  2. 誰かが話している時は黙って聞く(I will listen when someone is talking.)
  3. 先生にずっと目を向ける(I will keep my eyes on the teacher.)
  4. ベストを尽くす(I will do my best!)

私の経験では、学年に関わらずこの4つが守れれば、だいたいグループ運営はうまく行きます。「ルール(きまり)」というと大人からの命令のような一方的な印象を受けるので、私は「約束」として “I will…” と児童が主語の文を使っています。

PBISで約束を徹底

ポイント(イニシャル)記入表とご褒美。番号が引かれた児童は一つ好きなご褒美を選べる。

これは日本ではまずありえないことですが、アメリカの学校では小さなおもちゃや文房具、またはおやつがご褒美として児童に渡されることが少なくないです。私も最初は抵抗がありましたが、今はなるべく節度を保ちながら採用しています。PBIS(Positive Behavior Interventions and Supports ポジティブな行動介入と支援)という考え方に則って、とにかく最初の数回はこの4つの約束が守れている児童を見つけてその都度褒めてポイントを与えていきます。「私はこんな学習態度を望んでいるよ」と肯定的な例を徹底的に示すのです。

守れない子の問題行動は、よほどの危険がない限り基本的に無視します(よそを向いて話を聞いていない、次の活動の準備ができていない等)。どの児童もできた時だけ望ましい行動を具体的に声に出して褒めポイントを与えます(写真のイニシャルがポイント)。そして25個の空欄が全て埋まったら1~25の番号くじを引いて2~3名の児童がご褒美を選べます。つまり望ましい態度で参加している児童はくじで引かれる可能性が高くなります。

ポイントやご褒美に関しては賛否両論あるとは思いますが、SBIグループは短時間の勝負ですしアメリカの児童はご褒美をもらうことが日常化しているので、目に見える報酬を準備しています。

まとめ(内的動機と外的動機、プロアクティブとリアクティブ)

PBISの報酬は、目に見えるご褒美だけとは限りません。事実、日本語補習校で私が担任しているクラスでは、言葉で褒める、目を合わせてうなずく、微笑む等の「ご褒美」だけでもクラス運営ができます。ポイントすら必要ありません。アメリカの学校でも、約束が定着してきて児童が学習活動そのものに興味や手ごたえを感じ始めたら(内的な動機が育ってきたら)、「外的な動機=ご褒美」の頻度はだんだん減らしていくというさじ加減も。もちろん言葉がけや目線でのコミュニケーションは続けていきます。

実感としては、問題行動が起こってから注意する(reactive)よりも、望ましい行動を具体的に褒めてクラスやグループ全体に示す方がポジティブな雰囲気になりやすく効果も高いように思います。また初日にクラスの約束(きまり)を明確にしておくこと(proactive)。問題が起こってから矯正するのはなかなか大変です。こんな感じで30分×6グループを渡り歩くのが私の毎日の仕事です。

笠井 縁(かさい ゆかり)

ユタ日本語補習校 小学部担任


アメリカの小さな補習校で多文化の中で成長する子どもたちと一緒に学んでいます。アメリカの現地小学校でも非常勤で子どもたちと接し、日本との違いに驚くこともありますが、子どもたちの学びの過程には共通する部分も多いのではないかと思っています。

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