2020.10.21
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

涙をこらえるきみのための学級づくり教室~ピアサポートの重要性「○○くんの姿勢がいいです!(^o^)」~(2)

ふと思うことがある。

何度も何度も言っているのに、子どもに響かない。
なぜか、届かない。
難しいことを言っているわけじゃないのに。
なぜ?

視覚的に働きかけようと思い、教室掲示をしてみる。
毎日、朝の会でクラス全員で声に出して確認する。
でも、子どもに変化はない。
なぜ??

そう思ったことはないだろうか?
わたしは、ある。
初めて低学年の担任をした数年前に痛感した。

そこで学んだことは、ピアサポートの重要性である。
ピアサポートとは、同じような立場の人によるサポートのこと。教育や福祉、医療の世界でよく使われている。
教育でいうと、子ども同士のサポートということになる。

本稿では、子どもの「姿勢」がガラッとよくなるピアサポートの方法を紹介する。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

episode2.〜ピアサポートの重要性〜

涙をこらえるきみのための学級づくり教室(2)

──涙を流した日から数日後
わたしは、夜風に吹かれながら星を眺めていた。夏場とはいえ、足首はひんやりと冷たい。次々と街の明かりが消え、星の輝きは力を増していく。はるか上空には、赤いライトが点滅して、静かにどこかへ向かっている。
「はぁ、一体どこへ向かっているのだろう?」と思わず深いため息をつく。そのときだった。
「もも、悩みごとを聞いてやってもいいぞ」と半径3メートル以内から、はっきりと声がする。聞き覚えのある声だ。でも、姿は見えない。
「オラだよ、オラ。マ・ナザシだよ!」
「あぁ、こんばんは。ナザシ」
「どうして、驚かないんだ!?」
「真っ暗闇に真っ黒な体で見えなかったー!っとでも、言うと思ってた?」
「よく分かったな。てっきりそう言うと思ってたぞ。それにしても今日のももの声はいつもと違って穏やかだな」
「そうかもね。自分でもよく分からないけど、風と星が気持ちよくて」
そう言いながら、わたしはナザシに今の悩みごとを打ち開けた。

「子どもたちの姿勢の悪さで悩んでいる」

ナザシは、あっという間に、わたしの悩みごとの内容と背景を理解したようだった。そして、口を開いてこう言った。
「なるほどね。姿勢をよくしましょうと何度も言っても、ポスターを貼っても、なかなか良くならないんだね?」
「うん」
「ももの言葉が子どもたちに響いていないと感じたことはあるか?」
「ある」
「だったら、ピアサポートを取り入れたらどうかな?」
「ピアサポート!!??」
「そう。同じ立場にいる人同士のサポートのことだ。子どもが子どもに声をかけるってことだな」

たったそれだけ

ナザシが教えてくれたことは、簡単に言うとこういうことだった。

日直の子どもが前に立ち、姿勢のいい子を見つける。そして、その子の名前を呼んで、「○○くんの姿勢がいいですっ」と言う。

たったこれだけで、学級の子どもたちの姿勢がガラッと良くなる。褒められた子ども以外の周りの子どもの姿勢もシャンシャンっと良くなっていくそうだ。さらにこう続ける。
「これを毎時間、毎日続けていくと子どもが使う言葉に変化が起きる。今までは『○○くんの姿勢がいいです!』とだけだったのが、『○○さんの脚の姿勢がいいです!』や、『○○くんの目の姿勢もいいです!』、さらに驚くことに、『○○さんの姿勢がもうすぐよくなります!』と言い出して来る。子どもってすごいだろ?」
「確かに、それが本当ならすごいね。でも、本当にそうなるの?」
「ももが疑心暗鬼なのは、よーく分かる。でも、やってみる価値はあると思うぞ。前に住んでた縁側でアラフォー教師がうれしそうに誰かに話していたから、実際にうまくいくこともあるんじゃないか」
「分かった。やってみる」
わたしは意外にもナザシの提案をすんなりと受け入れてしまった。前もこうだった。ナザシの眼差しを目の当たりにすると、なぜが受け入れてしまうのだ。
──つづく
(次回:episode3.〜おもしろいことが起きた〜)

*登場する人物や団体、名称は架空のものです

捉え直し

応援していただき、ありがとうございます。
小鳥ももとマ・ナザシの学級経営物語をよろしくお願いします。半年間の連載です。
読んでくださる先生方やその近くにいる人が、疲弊しないように。後ろ向きになってしまった気持ちが、1ミリちょっとでも前を向くように。

「教師がしっかり伝えないと子どもには伝わらない」ではなく、「子どもには子どもの言葉が響く」と捉え直してみると、日々の指導方法の改善アイデアはどんどん出てきそうですね。

EVISBEATSとPUNCH&MIGHTYの『夜風に吹かれて』を聴きながら

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop