2020.09.15
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問い返し発問の効果(発問研究 Vol.9)

授業中、我々教師は子どもの発言に対して問い返すことがある。教師の問い返しの有無やその内容によって、授業の良し悪しが決まることだって大いにある。だからこそ、肩こりを和らげるツボのようにズッキューンと一発で〝効く〟問い返し発問を行いたい。そう思ってしまう。本稿では、問い返し発問の〝効き目〟を紹介する。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

問い返されると人はどうなる?

人は問い返されるとどうなるのか。なにげない日常会話を例に考えてみよう。

[好きな果物をテーマにしたふたりの会話]
A:ねえ、好きな果物は何?
B:ミカン。
A:どうして?
B:甘くて美味しいから。
A:イチゴじゃだめなの?
B:えっ!?...だめじゃないけど、ミカンの方が食べやすい。だって、ミカンは机にそのまま置いておけるけど、イチゴはパックに入れて冷やしておかないといけないから。
A:なるほど。

さて、問い返し発問はどれだろうか?ここでの問い返し発問は、「イチゴじゃだめなの?」にあたる。では、この一連のやりとりをもう少し詳しくみてみよう。Aが発問する人、Bが応答する人になる。

A:ねえ、好きな果物は何?[質問]
B:ミカン。[答え]
A:どうして?[発問]
B:甘くて美味しいから。[根拠]
A:イチゴじゃだめなの?[問い返し発問]
B:えっ!?...だめじゃないけど、ミカンの方が食べやすい。だって、ミカンは机にそのまま置いておけるけど、イチゴはパックに入れて冷やしておかないといけないから。[より明確な根拠]
A:なるほど。[納得感]

問い返し発問によって引き出された言葉をみてみる。すると、より明確な根拠が出てきたのがわかる。甘くて美味しいといった根拠だけでなく、食べやすさや保存方法といった新たな見方で根拠が引き出されている。

このように、人は問い返されると、一瞬とまどい、「なぜそれでよいのか」とさらに考えてしまうのだ。

授業事例 3年算数「10000より大きい数を調べよう」

「発問」によって引き出された子どもの発言

では、実際の授業を例にあげて「問い返し発問」の効果を述べる。第3学年の算数、単元名「10000より大きい数を調べよう」の導入場面。授業者の願いは、ふだんなにげなく見聞きする数の読み方・唱え方を見つめ直し、日本の命数法のよさに気づいてほしいということ。具体的には、「一、十、百、千」の4桁をまとまりとして繰り返し、その下に「万、億、兆...」を付ける数の唱え方の仕組みについてのよさである。それを子ども自らの手で発見できるようにしたい。そのためにどのような問い返し発問を行ったのか。その結果、子どもからどのような言葉が引き出されたのか。

T:238342を漢字で書こう。[問題提示]
C:楽勝〜!『二十三万八千三百四十二』。[答え]
T:みんな同じ答えだけど、先生と違うね。[ゆさぶり]
C:えっ、うそ?[立ち止まり]
T:先生は、『二十万三万八千三百四十二』と書きたいな。先生の気持ちがわかるかな?[発問]
C:わからないよ。変だな...そんなの聞いたことないよ![根拠]
T:でも、先生はこれまで通りのやり方で読んだんだよ。それぞれの位ごと分けて読むと、『二十万 | 三万 | 八千 | 三百 | 四十 | 二』にならない?[問い返し発問]
C:...ん、確かに...べつにありかも...[迷い・思考のはじまり]

万万万万って万がいっぱい

「問い返し発問」によって引き出された子どもの発言

その後、子どもたちは、十万の位→百万の位→千万の位とひとつずつ位を上げて読み方を比較していく。千万の位での比較は以下の通りになった。
『54238342』の読み方
先生の読み方 :五千万四百万二十万三万八千三百四十二
みんなの読み方:五千四百二十三万八千三百四十二

C:先生の言い方は、万万万万って万がいっぱいあってややこしい。万は1回でいい。[より明確な根拠]
C:先生のは長くて読みにくい。[より明確な根拠]
C:「一、十、百、千」の繰り返しになっていることを3年生になって初めて気づいた![より明確な根拠への気づき始め]
C:「一、十、百、千」をまとめて読んで、その後に万を付けてるんだ。[より明確な根拠]

命数法のよさへの気づき

再構築された位取り盤を前にした子どもたちは...

このように、命数法のよさに気づいた(あるいは気づき始めた)発言が問い返し発問よって引き出されたことがわかる。「変だ、聞いたことがないから」といった根拠から、「万は1回でよい」「一、十、百、千のまとまりで読んでいる」などといったより明確な根拠、つまり「これがよいと言える根拠」が引き出されたのである。

次時、再構築された「位取り盤」を目のあたりにした子どもたちは、しばらく無言だった。その後、「昔の人ってすごい!」と口をそろえた。

問い返し発問の効果とは、「これがよいと言える」より明確な根拠を子どもから引き出せることにある。

はじめて子どもに問いかけたときのように

全9回にわたる【発問研究】の連載はこれで終了。これまで読んでくださった先生方に感謝したい。ふと気になる記事はあったであろうか。

発問を巡ってメリーゴーランドみたいにぐるぐると思い続けてきた。発問を中心に授業を振り返ったり、計画したりすることができたことは、わたしにとって貴重な経験となった。発問は教師が行う指導上の技術において最も重要なもののひとつである。そう強く思えるようになった。

しかし一方で、はじめて子どもに問いかけたときのように、ただ素直に好奇心のおもむくままに発問ができたらとも思う。あなたはどう思う?

月の明かりがまぶしい夏の夜に──。

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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