2020.08.05
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やさしい算数(発問研究 Vol.7)

あなたは算数の授業中に、子どもの答えを聞いて「やさしいなぁ」と思わずつぶやいたことがあるだろうか?
「すごい」「おもしろい」と思うことはあるけれど、答えにやさしさを感じることは稀だと思う。

「でも、ちょっと待って」
「算数の問題でやさしさ?」
「やさしい答えってどういうこと?」

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

あまった2人だけで船に乗るのは、さみしい

3年生の「あまりのあるわり算」の文章題の授業である。

[問題]
A小学校のみんなで船乗り体験に行きます。船は5人乗りです。全員が同時に乗るためには、船は何隻いるでしょうか。

子どもたちは、まずA小学校の全校児童は35名であることを知る。次に、意気揚々と立式し一気に答えまで導いていく。

[式]
35÷5=7
[答え]
7隻

もちろんここまでは既習である。ここから授業は突然展開していく。

教師は無言で、問題の続きを黒板に書いていく。

[問題の続き]
ところが、当日3人休みました。さあ、船は何隻いるでしょうか。

子どもたちは大騒ぎ。問題を書き終える前から「ワー」「キャー」。ここで教師は子どもが試行錯誤できる時間を設ける。
──
数分後、子どもたちは立式し各々の答えを導いてきた。

[式]
35−3=32
32÷5=6あまり2

ここまでは全員一致。しかし答えが違う。困っている者も多くいる状況。
この問題の問いは「船は何隻いるでしょうか」であり、式の答えがそのまま問題の答えにはならない。だから子どもは困る。だから考える。文脈に戻って考えられる時間。
もちろん、算数的な答えは7隻である。あまった2人を乗せる船がいるから6隻+1隻=7隻となる。一連の流れをまとめる。

[式]
35−3=32
32÷5=6あまり2
6+1=7
[答え]
7隻

ここまではよくある教科書の解答例と同じ流れ。やさしい答えではない。

やさしい答えはおそるおそるやってきた。ある子どもが、「これちょっと反則かもしれんけど……」と恥ずかしそうにつぶやいている。その考えが実にやさしかった。その子は、32÷4=8と立式し、答えは8隻だと言った。まとめる。

[式]
32÷4=8
[答え]
8隻

その子の考えがわかるだろうか?

その子は、「あまった2人がなんかさみしそう。みんな5人ずつ乗っているのに、2人だけって……」とあまった2人の気持ちになって考えていた。続けて、「だったら、乗る人数を変えて4人乗りにしたらいい。そしたら、すべての船に4人ずつ乗れる」と言ったのだった。

「やさしいなぁ」

文脈で際立つ問い

上の事例をどのように解釈できるか。わたしは、本当にやさしい答えだと思う。思い出しながら書いている今もその思いは色褪せることはない。一般的に、算数的な答えとしては7隻だ。しかし、よく考えてみると5人乗りだから、4人で乗ることもできる。田舎を走る25人乗りの路面バスは全席埋まってなくても走っているよね。そう考えると、問題の条件を満たしている答えといえる。船を借りる料金や船の在庫の設定は今回は入れてない。

子どもにとってこの問題はいつもとは違った。突然、「ところが〜」で問題の続きが現れた。しかも、子どもたちが学校行事で体験する話題だった。つまり、問題場面に鮮明な文脈が生まれたのだ。話の前後が生まれることで、問いが際立ち、持続したのだろう。

「ずっと気になって考えてしまった」
「反則だけど、こんな答えもありかな……」
「だってさみしいのは嫌だよね」

今の世の中に必要なもの

子どもにやさしさの必要性を教わった授業であった。今の世の中にはやさしさが足りないような気がする。もうちょっとやさしさがあればいいのにと思う。一つの言葉や一瞬の行動をその人のすべてと捉え、攻撃してしまう前に──。

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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