2020.05.28
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授業動画だからできることはなんだ!?

週に1回の登校日。久しぶりに会う子どもたちが「動画が面白かったよ!」と言って、授業動画を話題にして子どもとたわむれるのが楽しい時間です。まさに「昨日のドラマ見た?」という最近ではあまり聞かなくなった会話かもしれません。私の地域では学校がもうすぐ再開しそうですが、いつかまた休校になっても、子どもの学びの手助けができるように、前回に引き続いて授業動画作りのコツをまとめておきたいと思います。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

今回の記事は、前回の「YouTuberになろう!授業動画配信にチャレンジ」の
【目からウロコの授業動画を作る時のコツ】
①動画に入れる内容を考える
②授業後の課題と一体的に考える
③動画の構成をユニット型で考える
④使用メディアを考える
の続きです。

⑤動画を作成する

人気YouTuberの「動画の作り方」などを見ていると、結局は、テレビを参考にしているのだろうなと思います。音声で効果的に意識づけを図ったり、視覚に訴えたりするという意味でも「テロップ」や「効果音」は有効な手段だと思います。また、凝ってくるとオープニングやエンディング、BGMもあるテレビ番組風にしたくなってしまうものです。そう思うとテレビ番組やYouTubeの人気動画は、視聴者を最後まで飽きさせずに、印象に残るような番組作りをしていて凄いなと思います。慣れない作業で、私たちも初めは大変ですが、慣れてくれば作成も効率的にできるようになってくるものです。

⑥自分流でいい

見栄えや分かりやすさも大事な要素だとは思いますが、結局は、普段の授業デザインの考え方と同じなのだと思います。どうすれば、目の前の子どもが「面白い!」と思って熱中して学びに向かうのか。たとえ一方向の授業動画だとしても、自分の考える教育の在り方のエッセンスは少しずつでも込められるように思います。ちなみに、私は3年生の社会科の動画を作ろうとしていたら、「引っ越してきて浜松のことをよく知らない先生に、まずは学校の周りのことを教えてあげよう」というように、いつの間にかPBLのプロジェクト型学習にしてしまっていました。自分がいつも外国語の授業で設定する「困っている外国の人を助けるプロジェクト」というシチュエーションと同じです。やはり、その学習内容の本質や教師の哲学が最も大事なのだと思います。表面だけ整えてあったり、学習内容をただ教え込むだけだったりして、その授業動画に込められた教師の思いや哲学がなければ、画面から伝わってくるものは意味のない音声や記号の羅列で終わってしまうかもしれません。教育の本質を大事にしなければいけません。

ツマラナイ授業動画にしないために

①早口でテンションを上げて、間を空けないで話す

人気YouTuberの動画作成のポイントを見ると、「できるだけ早口で話す」「間をあけない」と言っているではありませんか!現に機関銃のように喋りまくっている動画が多いこと、多いこと。しかも、間なんてものはほとんどありません!今までの学校教育で言っていたことと正反対です。

確かに「ゆっくり」「間をあけて」話している授業動画は、あまりのテンポの遅さに眠くなったり、「なんか暗い感じがするなあ」とか、「もうだいたい内容は分かったから、見るのやめよっかな」とか、思ってしまったりすることが多いものです。YouTubeなどの動画では、「早口で」テンポよく、「間がなくて」勢いのある話し方でも、視聴者はいつでも動画を止めて、見直すことができます。しかも、音声を補助するテロップも入れられるので、視覚にも訴えることができるのです。だから、内容の密度が濃くて、「早口で」「間がない」説明でも視聴者に理解してもらえるのだと思います。これは、まるで最近のバラエティ番組のようです。もちろん、ノリが良すぎたり、テロップが多すぎたりするのもなんかゲンナリしてしまうのは、誰もが体験済みなことだと思います。

「早口で」「間がない」喋りなんてできないよ!とだいたいの方が思いますよね?もちろん、私もそうです。そんなのムリです!しかし、授業動画は、何度でも取り直しや編集ができるのです。人気YouTuberの動画を見ていると、一見、同一のカットのように見えて、間に何回もカットが入っていることが多いです。ビデオで撮る時には、動画のカメラを回しながら何度も言い直して撮影しておき、後で編集すれば何回間違っても全然OK!また不思議なことに自分が話している動画を1.2〜1.5倍速にしてみると意外とちょうど良いスピードに感じられるものです。

②できるだけ顔が見えるように

いざ自分が授業動画を作ってみると、NHK for Schoolの授業動画はさすがにすごい出来だと思いますが、やはり子どもにとっては自分がよく知っている担任の先生が画面に出てくる動画の方が学習意欲が高まるのではないでしょうか。学習内容を子どもに伝えるのに、Power Pointなどのプレゼンソフトを使うのが作りやすいでしょう。教師は、プレゼンソフトなら使い慣れているので、それを使いながら、子どもにレクチャーするいつもの授業や講義のスタイルを「スライドショーの記録」を使って録画すれば、もう授業動画ができてしまいます。Power Pointなら教師が話している様子も一緒に動画に取り込めるので、顔が見える授業動画が簡単にできてしまいます。(バージョンやOSによっては、カメラが使えないのもあるようです。そのときは、Zoomの「画面共有」を使って取り込む方法があります)

③著作権に気を付ける

法改正により、今なら教科書を撮影して動画に取り込んで使用してもよくなったようですが、その他のイラストや音楽の使用については、インターネット上や自分のパソコンに入れてあるものでも使用にはかなりの注意が必要です。自分で撮影したものなら大丈夫でしょうが、他人が写っているとなるとやはり注意が必要です。

④視聴者は最初から最後まで見ていません!

人気YouTuberが動画の出来栄えを気にする指標に「視聴回数」とともに、「平均再生率」というものがあります。「平均再生率」とは、1本の動画を何割くらい再生したかということです。例えば、5分の動画で「平均再生率」が100%なら、最初から最後まで動画を見たことになりますが、これが20%ならば1分しか見ていない人がほとんどということになります。YouTubeなら「面白い」とか「ためになる」とかいう基準で動画を長く見るのか、ツマラナイので「やーめた」となるのかが分かれるかと思います。授業動画でも、最後まで子どもたちを飽きさせない構成を考えるのも大事です。これは、まさに授業デザインと同じなのです。また、YouTubeの編集画面であるYouTube Studioで、「アナリティクス」を見るといろんな情報が分かります。「視聴回数」「平均視聴時間」「平均再生率」「視聴者の使用端末」「視聴者の使用OS」など実に豊富です。ただ、あまり気にしすぎると株価指数を気にするのと同じくらい、いつもアナリティクスチャートを見てしまいますので、最後まで子どもが見たくなるような動画を作りたいなあと思っているくらいでいいですよね。

授業動画やオンライン授業をこれまでの授業の劣化版にしない

最近、あるお家の方に、「久しぶりの登校日の後の子どもの表情が全然違っていました」と言ってもらいました。きっと下校後の子どもの様子から、学校での仲間や教師との関わりが子どもに与えたプラスの効果を感じてくれたのだと思います。そして、今まさに、学校や学びの意味が問い直されていると感じています。本当に時代にあった学校教育に生まれ変わらないといけないのではないでしょうか。会社で「なんだ。テレワークでいいじゃん」と思った大人がいたように、「なんだ。学校に行かなくてもいいじゃん」と思った子どもや大人も相当数いたはずです。ICTを活用した授業動画やオンライン授業がこれまでの授業の劣化版なのではなく、授業動画やオンライン授業だからできることを意識して、ICTを有効に活用してさらに多様な学びを実現した教育を目指すべきだと考えています。そして今、学校教育に新たな価値を生み出すような、旧来の教育システムにとらわれない柔軟な発想や行動が求められているのです。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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