2020.04.06
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「通級による指導」で大切なこと<1> エビデンスに基づく実践(evidence-based practice)を心がけよう!

 エビデンスに基づく実践という考え方は、通級による指導では特に重要です。特別支援で個別指導を行う方、ぜひご一読ください。

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士 髙橋 三郎

エビデンスに基づく実践(evidence-based practice)とは

 もともとは医学の領域において、エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine)という用語として使われていました。それが、コメディカルや教育の領域でも、エビデンスに基づく実践(Evidence-based Practice)と名前を変えて使われることになりました。エビデンスとは「根拠」「証拠」という意味であり、簡単に言うと「なんとなく思い付きで指導するのではなくて、ちゃんと信頼性のある根拠に基づいた指導をしましょうねー」ということです。

通級による指導では、とても大切な考え方です。

 通級による指導では自立活動が行われますが、自立活動には基本、教科書がありません。なので、それぞれの教員が指導内容を自分たちで考え、実施します。そのため、残念なことに「なぜそれをやってるの?」と首をかしげるものも、時々あります。そういった実践は、たいてい、指導者の思い付きに基づいていて科学的根拠に乏しかったり、十分に児童をアセスメントしていないために児童の実態には合っていなかったりしています。

3種類のエビデンス

 じゃあ、何がエビデンスなのか、という点ですが、ASHA(American Speech-Language-Hearing Association)のウェブサイトによると、エビデンスには

  • 臨床的な専門的技術(Clinical expertise)
  • 科学的根拠(External scientific evidence)
  • クライエントの観点(Client perspectives)


の3つの種類があるそうです。

 「臨床的な専門技術」は、普段の先生方の実践の中から生まれてきた現場のノウハウやハウツーに相当します。これが大切なことは言うまでもありませんね。

 「科学的根拠」は、これまでに蓄積されてきた科学的な根拠のことです。ある指導法が効果的なのかどうか、あるいはなぜ効くのかに関する科学的な知見を指します。

 「クライエントの観点」は、ちょっと難しい方ですが、「子供の実態」と言葉を置き換えても良いと思います(ASHAのウェブサイトでは話を教育だけに限っていないため、クライエントという言葉を使っていますが、我々の業界では子供と置き換えてよいです)。これは、普段の行動観察からの情報や心理アセスメントの結果なども含まれます。子供の好きな事、苦手な事といったこともここに入ってくると思います。WISC-IVなどの発達検査の結果も個々に含まれます。

エビデンスに基づく実践をしよう!

 以上の3つの種類のエビデンスに基づいて、エビデンスに基づく実践を行うことが大切です。自分にとって、どれが一番足りないのかを改めて考えてみると良いかもしれません。

 「クライエントの観点」について一番大切なのは、しっかりとしたアセスメントです。行動観察に加えて、適切なアセスメントを行う必要があります。たとえば、読み書きが苦手という児童が入級してきたとしたら、なんとなく「漢字を書く練習をする」のではなく、各種のアセスメントを用いて、読み書きの中でも何ができて何が困難なのかをしっかり整理しておくことが大切です(たとえば、読み書きでしたら「STRAW-R」や「特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン」などがあります)。

 また、「科学的根拠」については日進月歩であり、絶えず進化しています。10年前まで当たり前だった考え方が今では通用しない…といったことや、今までなかった新しい考え方が出てきたりといったことも少なくありません。そういった、最新の科学的な知見を知るためには、やはり学会誌を読んで、最近の考え方をおさえておくことはとても大切です。

 特別支援教育関連だと特殊教育学研究、言語障害関連だと音声言語医学コミュニケーション障害学あたりがおすすめです。また、google scholarを使って、知りたい言葉を検索し論文を見つけるのも良いです。フリーで読めるものも多くあるため、おすすめです。私は知らない言葉や知りたいことがあるとだいたいgoogle scholarで検索します。ぜひ試してみてください。

髙橋 三郎(たかはし さぶろう)

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
大学院で博士号を取得し、現在はことばの教室で子供達と向き合う日々を過ごしています。言語障害や発達障害に関する知見や指導方法を様々な先生方と共有できたらと思います。

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