2020.02.21
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身近なところに英語の波が ―少年野球編―

最近,休日に少年野球のお手伝いをしています。その中で,「こんなところに英語の波が!」と感じることがあります。英語の波は,学校の中だけではありません。学校の外でも英語が必要になってきています。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

ここ数年,少年野球のお手伝いを少しずつさせてもらっています。お手伝いの中には,グラウンド作り,練習の手伝い,試合の審判などがあります。しかし,素人の私が試合を見ていて,審判のジャッジについて頭の中が「???」となることがあります。

少年野球のアウトは,「OUT!」とは言わない

私が住む地域の少年野球では,試合の審判は,対戦している両チームのお父さんが分担してやることがほとんどです。お手伝いを始めるようになった頃,お父さん審判が何を言っているのか分かりませんでした。
どういうことかと言うと……
ボールを打った打者が1塁に向かって走るものの,タイミングはアウトです。私はてっきり審判が「アウト!」と言うのかと思ったら,何やら違う言葉を叫んでいます。
お父さん審判「ゴニョゴニョ アウト!」
「今,なんて言ったのかなあ」と,私は,そのお父さん審判がコールした言葉も意味も分からなくて,近くのチームのお父さんに尋ねました。
私「今,あの審判は何て言ったんですか?」
チームのお父さん「ああ,あれはね。『ヒーズアウト!』って言ってるんですよ」
私「なんですか。そのヒーズアウトって?」
チームのお父さん「ヒーズアウトは,He is out.のことらしいですよ」
私「えー!?そんなの『アウト!』でいいじゃないですかー!」

『ヒーズアウト!』って言ってるんです

私が子どもの頃の野球の審判のイメージなら,もちろん「アウト!」だけです。しかし,同じような場面で,今は,「He’s out.」と言うらしいのです。
お父さん審判なんて,アウトかセーフかも迷って,内心「どうしよう。どうしよう」と心配で仕方がないのに,さらにそれを英語の文で言わなければならないなんて,びっくりです。
最近は,少年野球に女の子も入っているチームも珍しくありません。だから,「走ってくる子が女の子だったらなんて言うんだろう?」と思って,

女の子だったら,やっぱりShe’s out.ですよね!

私「女の子だったら,やっぱりShe’s out.ですよね!」
と聞くと,
チームのお父さん「それは,He’s out.でいいらしいよ。」
と言うではありませんか。
それを聞いて,私は,「『Out!』じゃなくて,『He’s out!』って言わすくらいなら,女の子には『She’s out!』って言わないとダメじゃないかー!」と声高に叫んでしまいました。もっと言うと,「打者が男の子か,女の子か分からない時は,なんて言うんだろう」とか,「ダブルプレーの時は,本当は『They are out!』って言わないといけないのかな。一人ずつ指でも差しながら,『こっちの子は,He’s out. あっちの子はShe’s out.』って言うのかな」と,もはやどうでもいいことまで考えると,お父さん審判に課せられた英語力は,なかなかハードルが高いと言えます。

デッドボールは,Hit by pitch!

他にもいくつもあるようです。
デッドボール→Hit by pitch.
ボーク→That’s a balk.
タッチプレイの時のアウト→On the tag, he’s out.
ただでさえ,アウトとセーフのどっちだろうと思考する場面などで,さらにどんな英語表現を使えばいいんだろうと,見方・考え方を働かせて,英語表現を選んでコールしないといけません。
実際は,「He’s out!」と言わないで,「Out!」だけでも誰も怒りません。もともと素人のお父さんたちがボランティアでやっているのですから,それはそうですよね。そんなことで怒られたら,誰も審判をやってくれません。

地道に即興性を磨く

外国語が教科化される小学校現場だけでなく,学校外でも,少年野球の審判でさえも英語を文で言わなければいけない時代になっているようです。そして,お父さん審判に迫られる英語力も高まっています。英語表現自体は,中学生レベルの簡単なものであっても,それを即興で使いこなすというのは,口で言うほど簡単なことではありません。学校の中でも,外でも英語の波に流されないように,地道に経験を積んでいくしかないですよね。
次回も英語にまつわる身近な話題を取り上げていきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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