小学校英語を本物のコミュニケーションの場にする!
英語を学習していて,楽しさや嬉しさを感じるのは相手と英語でコミュニケーションできたときですよね。小学校英語で子どもの学習意欲を高めるには,いかにも反復練習をしているように思える活動ばかりではなく,授業が本物のコミュニケーションの場になっているかどうかが大切です。
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司
「授業を本物のコミュニケーションの場にする!」
私の尊敬するI先生が研修会で教えてくれたキャッチフレーズです。
その先生の話は,軽妙な語り口の中に子どもと英語教育への愛情が溢れ出ていて,何度聞いても感心させられるばかりか,笑いが止まりません。このキャッチフレーズを初めて聞いた時に,英語授業の本質に触れた気がしました。
子どもに表現を定着させようとするあまり,授業が子どもの心のこもっていないやり取りの練習に終始していたり,すでに分かり切ったことを聞き合ったりするような活動ばかりでは,いくらゲーム性の高い活動をしていたとしても,すぐに形式的な取り組みになってしまって表現の定着は図れません。
子どもの発話意欲を高める!Willing to communicate!
だから子どもが本当に英語で話したいと思うには,やはり授業を本物のコミュニケーションの場にしてあげたいものです。
しかし,全く反復練習をしないで本物のコミュニケーションをできるはずがありません。
だから,子どもたちにとっては本物のコミュニケーションをしているのだけれど,結果としてそれが表現の反復練習になっていれば,子どもは楽しみながら表現を定着させていきます。
小学校英語を本物のコミュニケーションの場にするには
コミュニケーションが成立するのは,基本的には自分と相手との間にインフォメーションギャップがあることが前提です。相手の好きな動物を知らないから,What animal do you like?という表現を使ったコミュニケーションが成立するのです。すでに相手の好きな動物を知っているのに,What animal do you like?なんて聞いても,
「どうせ知ってるし!」と子どもは思うでしょう。
これではインフォメーションギャップがないので,コミュニケーションになりません。単なるコミュニケーションごっこになってしまいます。同じ相手と何度も同じやり取りをしていたり,予定調和のやり取りをしていたりすると,子どもにとっては慣れているので話しやすいのですが,外国語によるコミュニケーションの資質・能力は育ちません。だから以下のような手立てで授業を本物のコミュニケーションの場にします。
防災英語の実践を例にして
これまでに私は,もしも地震が起こったらどんな危険が起こり得るかという危険予測について英語で話し合う実践を行いました。その時の授業を本物のコミュニケーションの場にしながらも,表現の定着を少しずつ図っていった実践例を紹介します。
①相手を変える
タブレット端末で職員室の画像を見ながら,地震が起こった時の危険予測を話し合うために,What’s dangerous?と聞きます。相手の子どもは壁に掛けてある時計を見つけて,This is a clock on the wall.と危険予測をして答えます。そのようなやり取りを1〜2分した後に,相手を変えて同じようなやり取りをするのです。相手が変われば見つけるものが違うので,毎回が本物のコミュニケーションになります。
②場面や状況を変える
しかし,たった1〜2分のやり取りを2〜3人と行ったくらいでは,新しい表現は身につきません。始めは子どもが話す英語がたどたどしくて当たり前です。そこで,次は場面や状況を変えるのです。前回は,職員室の画像を見てやり取りをしましたが,次は校長室に変えるのです。子どもたちにとっての校長室はまさに秘密の部屋です。まれに入ることがあっても,何かをしでかして謝りに行く時だから,部屋の中なんてじっくりと見たことがありません。子どもたちは食い入るように校長室の写真を見ながら危険予測をしていきます。
「うわっ!この金庫なに!?」なんて声が聞こえるときも。
場所が違うのでこれもまた本物のコミュニケーションになるのですが,実はきちんと反復練習にもなっているので,表現が少しずつ身に付いていきます。こうして,学校のいろいろな部屋の画像を見て,楽しみながら表現を定着させていきました。
次回も英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。
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