2019.12.02
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子どもが英語絵本を「読む」には

小学校英語の授業で,子どもたちに大人気なのが英語絵本の読み聞かせですね。小学校では,高学年でさえもお話の世界に入り込んで楽しむ姿が見られます。この活動をさらに発展させて,子どもたち同士の読み聞かせ会を開くのもとても楽しいものです。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

5年生が2年生に英語絵本の読み聞かせをする実践

これまでに私が行った実践で,5年生が2年生に一対一で英語絵本の読み聞かせ会を行う学習をしました。一冊は5年生全員が共通で「No, David! By David Shannon」の本を読みます。英語表現もシンプルで可愛いイラストもあるので,小学校低学年でも理解しやすいでしょう。

さらにもう一冊,私が自分で購入した135冊の英語絵本の中から,自分で自由に選ばせます。これらの本は,本校に赴任して以来,毎月のように少しずつ集めた本です。バリエーションに富んだこれだけの数の本があると,子どもたちは目をキラキラと輝かせて,本選びに夢中になります。

見覚えのない文字をどう読むのか?

自分で好きな本を選べるのですが,あるグループが一冊の本をめくりながら,楽しそうに読んでいました。「Ketchup on your cornflakes? By Nick Sharratt」という本でした。これまた子どもたちに大人気の仕掛け絵本です。基本フレーズは「Do you like ~ on(in) your ~?」という言葉の繰り返しなのですが,本のページが上下に分割されていて,上から入れる物とのせられる物の組み合わせの珍妙さが,子どもたちのツボにはまるようで,毎回,爆笑が起こる絵本です。この絵本の「Do you like ~?」の部分は,高学年の子どもたちにとっては,すでにイヤと言うほど聞き覚えがあり,見覚えもある表現なので,さすがにほとんどの子が読めますが,問題は,その後に続く見覚えのない表現です。

「Custard」の読み方が分からない!

私は,子どもたちに「読み方が分からない言葉があったら,聞いてね!」と話してあったので,その子たちが「先生!この英語なんて読むの?」と聞いてきました。
挿絵は,アップルパイの上のカップから黄色いソースみたいなものが,今にもこぼれそうになっています。そして,そこにはこう書いてありました。
「Do you like custard on your apple pie?」
子どもたちはその中の「custard」を指差しています。

英語を読んでいた子どもたち!

①手がかりはフォニックス(英語の音)

そこで私はこう言いました。「フォニックスの音で一文字ずつ読んでごらん」
すると,「シー・ユー・エス・ティー・エイ・アール・ディー」というアルファベットの名前ではない,「クッ・ア・ス・トゥ・ル・ドゥ」という「フォニックス」と言われるアルファベットの音を口に出していきました。

②英語の音をブレンディングして読む

私が「一文字ずつをもっと速く読んでごらん」というと「クア・ス・トゥル・ドゥ」「あっ!カスタードだ!」と気づきました。一文字ずつを速く読むと音がブレンディングされて,1つの単語に聞こえてきて,カップからこぼれそうになっている黄色いソースの挿絵と「クア・ス・トゥル・ドゥ」という音が連想ゲームのようになって「カスタード」という意味と結びついたのでしょう。

普段の授業の中でフォニックスソングというフォニックスの音を覚える歌やそれに関連したゲームを帯活動で行っていたので,子どもたちは自分の力で初めて見た英語表現を読み,その意味もつかめたのです。

私が「custard」の読み方を聞かれて,それは「カスタードだよ」と教えてしまっては,子どもたちは自分で読めるようにはならなかったでしょう。フォニックスの音に十分に慣れ親しんでいた土壌があって,一文字ずつ読みながら,文字と音をつなげていった結果,単語を読むことができたのです。

そのグループの子たちは,その後に,初めて見る英語を自分たちでどんどん読んでいきました。自分の力で文字を読めるようになったと実感した子どもたちにとって,読み聞かせの活動はそれまでの何倍も楽しい活動になったのは言うまでもありませんね!

③読めれば,書ける

英語が読めるようになれば,シメたものです。読む過程を反対に考えればいいだけですから。「カスタード」→「クア・ス・トゥル・ドゥ」→「クッ・ア・ス・トゥ・ル・ドゥ」→「c・u・s・t・a・r・d」と逆に考えればスペルも書けるのです。英単語もぼやっとした塊でしか覚えていないと書けませんが,フォニックスの音をよりどころにしていると細かいスペルも間違えずに書けるようになります。

④ローマ字読みでは音が違う

ここで,子どもたちが英語の文字を「読む」手がかりにしたのが,子どもたちが小学校3年生から慣れ親しんでいるローマ字読みではないというのが,ポイントです。私は,英語の文字を「読む」時にローマ字を手がかりにしないほうがよいと考えています。ローマ字は,日本語の音にアルファベットを当てはめたものなので,手がかりにはなりますが,本来の英語の音とは異なりますし,基本的に子音と母音の2文字で1音のセットですので,1音では読めません。小学校3年生でローマ字読みを習ったばかりですし,中学校英語で本格的にフォニックスを学ぶ事になるので,あまり焦ってフォニックスを指導する必要はないのかも知れませんが,私は,小学校高学年からはローマ字の音よりもフォニックスの音を手がかりに文字を読む方が,英語の正確な音を身に付けやすいのではないかと考えています。

夢中になる

ラグビーワールドカップを機に,休み時間の外遊びで流行っていたラグビー。たまたま小さなゴム製のラグビーボールを自分で持っていたので,子どもたちに貸してあげました。休み時間ごとに,校庭にマーカーを置いて,その上にラグビーボールをのせてコンバージョンキックをしたり,スクラムをしたりして熱中して遊んでいました。人が何かに夢中になっている時というのは,とても輝いて見えるものです。子どもが夢中になる瞬間をできるだけたくさん作り出してあげたいと思っています。
次回も英語にまつわる身近な出来事を話題にしていきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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