2019.10.03
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

小学校英語で「ゴール」を設定していますか

小学校英語での「ゴール」にあたる学習の「めあて」を設定して授業に取り組んでいるでしょうか。小学校英語では,ただ何となくゲームを繰り返したり,いくつかの活動を組み合わせたりするだけで,授業時間が終わってしまうことがありませんか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

子どもたちが大好きな教育実習生

今年だけは,例年よりも1回多い1年間に4回の教育実習の指導をしています。9月は,その3回目の2週間に及ぶ教育実習がありました。実習生の指導は,確かに大変な面もありますが,授業や指導についての多くの気づきを与えてくれる面もあります。
毎回,実習の最終日に,実習生に向かって,
「きみたちのお陰で,自分の勉強にもなっています。ありがとう」
などと何となくカッコよく言っていますが,
本当は,まさに「人の振り見て我が振り直せ」の言葉のまま,普段の自分の指導を振り返って反省してしまうことしきりです。

「どうせ来年もいるんでしょう?」

また子どもたちにとっても,優しくて,一生懸命に関わってくれる実習生はいつも大人気!実習生との別れの会では,毎回,子どもたちは別れを惜しんで号泣するくらいです。
学級担任の私との1年間の別れの時でさえ,「どうせ来年もいるんでしょう?」というしたり顔で,そこまで泣きません。だから本当に羨ましいくらいです。

どこをどれだけドリブルするの?

その実習生が実習授業前日に,模擬授業をしていました。体育館での体育のボールを使った体作り運動の授業を想定していました。
実習生が
「2人一組になって,一人がドリブルをしてください。」
という指示を出しました。その指示に対して,
「どこを,どれだけドリブルするの?」
と私は言いました。
実習生は,たぶん,一人が見ている横をその場で多少疲れるまでドリブルを続けて,頃合いを見て笛を吹いて交代させようと思っていたのでしょう。しかし,これでは,子どもたちはどうしたらよいのか分からずに混乱してしまいます。

ゴールを決めずには走り出せない

例えば運動場で,突然,
「走ってください。」
と指示を出したとしたらどうでしょう?子どもたちは,
「えっ?どこから,どこまで?」
と困惑するでしょう。スタートとゴールを明確にしないければ,何のために,どのくらいのペースで,どんな走り方をすれば良いか分かりません。
ゴールを決めなければ走り出せないのです。それは,もちろん他教科・領域だけでなく,小学校英語でもまた同じことです。毎時間の授業では,「めあて」をもたせて,「ゴール」を意識させましょう。

めあてのもたせ方

①めあては日本語でいい

本時の授業が何のためのものなのかを理解できなければ,スタートで躓いてしまいます。
英語で全員の子どもが完全に理解できていれば,それでもいいのかもしれませんが,週に1~2時間程度の授業時数しか確保できないのなら,それも難しいものです。
オールイングリッシュに拘らないで,日本語でしっかりと確認すればいいことです。その方が子どもも安心して,授業に入っていけます。

②一人ひとりが違うめあてでいい

子どもは本来個人差があって当たり前です。それなら,それぞれにゴールの位置が違ってもいいはずです。
私は,学級全体でおさえたいめあては,
「Today’s goal: スポーツの秋について話し合おう」
などと設定します。子どもたちには
「自分だけのめあてにして,ワークシートに書いてごらん」
と言って書かせると,
「My goal: 好きなスポーツについて話し合う」とか「スポーツの秋についてたくさん話し合う」などと自分なりのめあてにしていきます。

③めあては「◯◯について話し合う」という形にする

活動あって学びなしにしない

授業は,ただ英語表現を覚えるためにゲームばかりしていたり,無目的にチャンツをエンドレスで流し続けたり,We Canのデジタル教科書についている動画の音声を聞き取れたかどうかをチェックしたりするのが小学校英語の授業ではありません。

自分の本当の気持ちや考え,経験を仲間と伝え合い,話し合うコミュニケーション(これを言語活動と言います)の中で,自然と英語表現を身に付けていく授業にしたいものです。そのために,教師側のおさえとしては,「この新出表現を身に付けさせたい」というのは授業ですから,当然のことながら存在します。

より詳しく,分かりやすく伝えるために,新しい表現を使いたくさせる

しかし,子どもたちには,第一義的に「とにかくこの表現を使えるようになればいい」と思わせるのではなく,
「とにかく自分の考えを伝え合えるようになればいい」と思わせたいものです。
子どもが「伝え合いたい」という思いを抜きにして英語表現を覚えたとしても,場面や状況に応じて社会で生きて働くような資質・能力が身についたとは言えないのではないでしょうか。子どもたちが,自分の考えをより詳しく,分かりやすく伝えるために,新しい表現を使いたくなるというのが大切です。

言語形式のみにフォーカスさせない

だから,めあては「What 〇〇 do you like?を使おう」というような言語形式のみにフォーカスしたものではなく,「仲間と◯◯について話し合おう」や「◯◯のためにガイドブックを作ろう」や「〇〇のクイズ大会をしよう」というものになっていくのが良いと考えています。

そのようなめあてにしたとしても,子どもはやはり小学校英語の授業なので,自然と新しい表現を覚えて身につけようとしていきます。教師は,そこはあえて強調しなくてもよいのです。
もしも,表現を身につけることを強調した授業を続けていると,子どもは次第に,仲間とのコミュニケーションをする必要性を感じなくなり,授業自体がつまらない,形骸化したものになっていってしまいます。相手の「ゴール」にシュートしたつもりが,自分の「ゴール」にシュートしてしまうようなオウンゴールになりかねません。

子どもは,面白い話が大好き!

たまに他学級の教員が出張等で不在の時に,自習監督として色々な学級に行きます。
その時に,「きちんと自習できていたら,先生が最後に面白い話をしてあげるからね」と言うと,子どもたちはみんな大喜びです。
特に子どもたちから人気があるのが,私がアフリカで死にそうになった話。
しかも,死にそうになった話は3つもあるので,そのどれもが大人気で,子どもたちはいつもゲタゲタ笑いながら話を聞いてくれます。「サバンナの真ん中で車が横転したときの話」「野生のチンパンジーを見に人食いヒョウのいる山に登った話」「サバンナの真ん中でキャンプ中にゾウに踏み潰されそうになった話」の3つです。
子どもたちに人気な理由は,どんな言葉を使うかというよりも,話の内容が面白いということだと思います。もちろん,内容の面白さが伝わるような表現方法の工夫は自然としているつもりですが,表現方法が最も大切なのではなく,
話の内容や思いが伝わるかどうかが1番大切なのですよね。
次回も英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop