2019.09.12
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小学校英語で言いたかったけど言えなかった言葉を考えさせる

小学校英語の授業の中での対話活動であるSmall Talk。このSmall Talkの合間に「言いたかったけど,言えなかった言葉」を考えさせることで,子どもの発話の即興性を高めることができます。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

英語が得意な人ほど,難しい単語を使おうとする

以前,自治体の英語教員養成に関する海外研修プログラムに参加した時のことです。一ヶ月間,多国籍の留学生が集まる大学寮に寝泊まりし,マレーシアの大学に通って英語教授法を学んだのは忘れられないとてもよい経験でした。一緒に学んだ日本人やマレーシア人の教師は一生の仲間です。

大学の講義は,私たち日本から来た小学校教師だけを対象としたスペシャルクラスでした。毎回,熱心でプロフェッショナルなマレーシア人の大学教師から様々な質問をされて,みんなが額に冷たい汗をかきながらも,一生懸命に英語で回答していたのを思い出します。

ところが,仲間たちの講義中の様子を見ていてあることに気づきました。ある課題について「あなたはどう思うの?」と,突然,大学教師から指名されて,大学で英語を専門に学んできた人は,しどろもどろで自分が言いたい英語が口から出てこなくて,沈黙してしまうことが少なくありませんでした。

しかし,「自分の考えをノートに書いていいよ」と言われた時は,理路整然とした英語をスラスラと書いていて,同じ人間なのかと疑ってしまうくらいのギャップにびっくりしました。まさに,本領発揮とはこのことでしょう。

それに対して,大学で英語を専門に学んでいなかった人はどうだったのでしょうか。もちろん,英語を話すのも書くのもしどろもどろなのですが,簡単な英語を少しずつでも絞り出して自分の思いを伝えてきます。下手な英語だったかも知れませんが,海外旅行が好きな人などは,意外とポンポンと英語を使っていてすごいなと思って見ていました。

自分が言いたいことを余すところなく伝えようと思うなら,難易度の高い豊富な語彙は必要ですが,それらの難易度が高く,レアな語彙を脳の中の分厚くて小さい字で書かれた小難しい辞書から探し出して,その用例に照らし合わせて口から出すのはなかなかに大変な作業です。

しかし,そこまで難しい語彙を使わなくても,簡単で汎用性の高い語彙の組み合わせで自分の思いや考えの多くは伝えられるのではないでしょうか。それはまるで中学生用の薄くて文字の大きな辞書から必要な語彙を探すことのようです。同じような語彙を薄くて文字の大きな辞書から何度も探し出すので,辞書は折り目がついて引きやすくなっているはずです。それは取りも直さず,言いたいことが即興で口から出やすくなっているということなのです。まずは,これまでに学習した英単語を組み合わせて意思の疎通ができることが重要です。

Sharing Timeで「言いたかったけど言えなかった言葉」を考えさせる

英語で外国人と話した時に,「言いたかったけど言えなかった言葉」がいくつもある経験は誰にでもあることだと思います。それは,もちろん子どもも同じです。1分や2分のSmall Talkの最中に子どもの近くに行って聞き耳を立てていると,「え~?『獣医』って何て言うのかな?」などという会話が聞こえるものです。

しかし,この時に,教師が「それは,veterinarianだよ。さあ,みんなで言ってみよう。さんハイ!veterinarian!」と言っていていいのでしょうか。そんな時に,子どもたちに「Any questions so far?」とか「言いたかったけど,言えなかった言葉はあったかな?英語で何て言ったらいいかな?」と聞くのです。それはなぜでしょうか。

最も効率の良い学習方法は「テスト」

少し前の教育セミナーで脳科学者の東京大学の池谷裕二先生が講演で「残念ながら,テストに勝る勉強法はありません。」と言っていました。これまでに幾多の教師が効率のよい勉強法を考えてきているにも関わらず,昔からある詰め込み教育のシンボルのような「テスト」が最も効率的な勉強法だなんてまさに「残念だな」と思いましたが,確かに自分のこれまでの教師経験でも,毎日の自主勉強で教科書の復習をノートにまとめただけだった子が,復習に練習問題を取り入れたことで学力を伸ばしたことがあり,池谷先生の話に妙に納得したものです。

池谷先生はその講演の中で,テストというとイメージが悪いから,「子どもに想起させればよい」と付け加えていました。この「想起させる」というのが,「言いたかったけど,言えなかった言葉はあったかな?英語で何て言ったらいいかな?」というのと同じことなのです。

これまでに学習した英語を「想起させ」て,その英語を組み合わせて新しい語彙の言い方を見つけるのがSharing Timeなのです。要するに,すぐに教えないで思い出させることが大切だということです。

簡単な英語がポンポンと口から出てくるようにする

ですから,子どもが「獣医って何て言うの?」と聞いてきても,すぐに「veterinarian だよ!」と初発の語彙を教えてはテストにはなりませし,すぐには使えるようになりません。

これまでの学習内容を子どもに想起させて,組み合わせて意味が伝わる言葉にするために,「英語で何て言ったらいいかな?」と聞くのです。そして,「獣医さんって,動物のお医者さんだよね?動物は英語で何て言うの?」と聞くと,子どもは「animal!」と言うでしょう。すかさず「お医者さんは?」と聞けば,「doctor!」と言うでしょう。そして「それじゃあ,動物のお医者さんは?」と聞くと,「animal doctorだ!」となるわけです。

animal doctorは厳密には「動物の医者」であり,「獣医」とは若干違うようなのですが,小学校英語ではこれでも十分意味が通じます。だから,最後に「そうだね。獣医はanimal doctorでもいいよ。ちゃんとした言い方だとveterinarianというんだよ」と言うと,子どもに想起させて,既習語彙を組み合わせて考えさせた上に,新出語彙にも触れることができるので一石二鳥です。

このようなSharing Timeでの既習語彙を想起させて組み合わせて新出語彙を作ることを繰り返すことで,簡単な英語がポンポンと口から出てくるようになり,発話の即興性が磨かれていくのです。だから,子ども同士のSmall Talkは,「AペアとのSmall Talk」+「Sharing Time」+「BペアとのSmall Talk」のサンドイッチで行うのが学習効果が高いのです。

10月10日(木)の本校の公開授業研究会に向けて単元デザインを練っています。今回は,「ユニバーサルツーリズム」を教材化したプロジェクトベースのCLIL型学習を提案します。4年生のすっごく可愛い子どもたちとともに,ユニバーサルツーリズムについて英語で話し合う授業を楽しみたいと思います。お時間のある方は,浜松のウナギを食べがてらに,ぜひ授業を見にいらしてください。

次回も英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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