2019.08.16
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

夏休みに入る生徒への声かけ―心理学の知見を使って

1学期の終業式の前後に,高等学校では1学期の成績をもとに,成績が振るわなかった生徒に対して指導をしていきます。
2学期の学習につなげる指導をしていかなければなりませんが,生徒たちにとって,夏休み,やっと授業から解放されたのに......とぼやきが聞こえてきそうです。

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭 藤井 三和子

「自己効力感」を高めるために

どこかの教育目標に出てきそうな文言ですが,「自己効力感」について考えたいと思います。
そもそも,「自己効力感」というのは,カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラが提唱したもので,英語ではself-efficacy と言います。
自己効力感とは,ざっくり言うと,「自分ってイケてる」とか「ある課題があるとして,それをうまくできるだろう」と思える自信や感覚のことです。少し,言葉からイメージすることがずれるかもしれません。心理学で出てくる概念をあらわす様々な用語は,専門家による定義と言葉が示すイメージから,こちらが認識する意味がずれることがあります。正確に意味を理解することは大切なことだと思います。

さて,この「自分ってイケてる」と感じることができる自己効力感ですが,これを生み出す基礎となるのは,様々な専門書に同様のことが書かれていますが,フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』から引用すると次のようになります。

  1.  達成経験(もっとも重要な要因で,自分自身が何かを達成したり,成功したりした経験)
  2.  代理経験(自分以外の他人が何かを達成したり成功したりすることを観察すること)
  3.  言語的説得(自分に能力があることを言語的に説明されること,言語的な励まし)
  4.  生理的情緒的高揚(酒などの薬物やその他の要因について気分が高揚すること)
  5.  創造的体験(自己や他者の成功経験を想像すること)

また,自己効力感のタイプとしては,次の3つがあります。

  1.  自己統制的自己効力感
  2.  社会的自己効力感
  3.  学業的自己効力感

成績が振るわなかった生徒に対して,どう接するべきでしょうか?

1学期の成績が振るわなかった生徒に対しては,3の学業的自己効力感を高めることを意識した言葉かけを心がけたいと常に思っています。何より,学業が振るわなかったことは「悪」ではありません。

私は英語を担当しています。高校で英語が苦手である生徒は,中学の時につまずいており,アルファベットが完全に覚えきっていない,単語の綴りを書くのに苦戦する,英語と日本語の語順の違いが理解できていないなど様々です。共通しているのは,「英語?無理やねん」という諦めと拒絶でしょうか。しかし,「無理やねん」で3年間過ごされても困ります。

今回,苦戦していた生徒を数名の教員で分担して担当しました。2学期以降関わる生徒を中心に夏休みに課題を出し,補習をするのですが,私は一人づつ話を聞くことにしました。「英語やるんちゃの?」と生徒は戸惑っていましたが,7月の終わりに数時間英語に取り組ませるよりも,「学習に対する拒絶の心」を少しでも広げて,ラポールを生徒と築き2学期につなげる選択を選びました。なぜ不振に終わってしまったかを一緒に考え,2学期に向けて何をすべきかを考えます。答えは生徒が持っています。それを引き出すのが教師の仕事でしょう。

原因帰属―失敗や成功の原因がどこにあるかを考えること

米国の心理学者ワイナーは成功への意欲がある人とない人の違いを達成動機づけの「原因帰属理論」を提唱しました。それは次のようなものです。

  1. 達成動機の高い人は成功したら,それは自分の能力や努力のせいであると考え,失敗したら,それは努力が足りなかったと考える傾向がある。
  2. 達成動機の低い人は成功したら,それは運がよかったり課題が易しかったと考え,失敗したら,自分に能力がないのだと考える傾向がある。

この原因帰属の理論を応用し,生徒に努力することを求めます。やはり,能力ではなく,努力!話しているうちにやる気になりますが,8月末の登校日にもう一度,2学期が始まる前に念押しをして,提出物の提出から,努力してもらいます。みんなと同じことならできるでしょうと,スモールステップを重ねる指導を続けます。
生徒に指導する時に,個人の人間性に迫るのではなく,行動を指摘してあげることは効果があるようです。そして,感情的な要素を抜きにする。指導に熱が入りすぎて,「人間的にどうなんだ」と迫る指導を見聞きすることがありますが,私たちは「教師―生徒」の関係性の中にあります。個に迫りすぎず,行動を生徒自身が見直す力を引き出してあげるのが教育の目的でもあると感じます。

今回は「自分ってイケてる」「やればできる」という自己効力感から能力ではなく努力であるという原因帰属の理論の話題に触れました。教育現場になじみのある心理学の理論は多いです。

藤井 三和子(ふじい さわこ)

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 専門職学位課程 教育実践高度化専攻 グローバル化推進教育リーダーコース 在籍
生徒の心の成長を促す存在でありたいと,教育の力を信じて,工業高校で英語を教えています。大学院での学びと学校現場での実践で感じたことを紹介していきたいと思っています。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop