2019.08.02
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小学校英語で「考える防災」を学ぶ

小学校高学年になっても,いつまでも「好きな○○はなに?」というやり取りばかりでは,子どもたちの発達段階に合った学習をしているとは言えません。新学習指導要領では他教科・領域との横断的な学びが求められています。英語の知識・技能を育みながら,他教科・領域の内容を統合的に学ぶことで学びの相乗効果を得られるのではないかと考えています。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

「災害大国」日本

東日本大震災が起こった時,私は上海の日本人学校に勤務していました。ちょうど3学期の終了式の日でした。仕事を終えて,当時住んでいた35階建てのマンションにタクシーで帰宅する途中,タクシーの運転手が「きみは日本人だろう?大丈夫か。福島が大変なことになっているぞ」というようなことを話してきました。「何のことだろう?」とマンションの部屋に帰ってNHKの国際放送をつけると,そこには信じられない光景が広がっていました。「もしもこの上海で地震が起こったら,このマンションはどうなってしまうのだろう」と恐ろしくなりました。そして,映画ではない事実の光景を遠く離れた異国でただ呆然と見つめるしかない自分の無力さを感じました。中国では,情報統制の関係でNHKは3秒遅れで放送されると言われていました。その3秒のタイムラグがより一層日本との距離を感じさせたものです。それからしばらくの間,学校から帰宅する時に乗ったタクシーでは,運転手たちがみな一様に日本の心配をしてくれました。自然災害では,人種や国籍のちょっとした枠なんて簡単に飛び越えて,助け合おうとする姿が生まれるものなんです。

世界の地震分布図を見る

東京大学の地震研究所から出版されている世界の地震分布図を見ると,やはり大陸プレート同士の境界に地震が多く発生していることが分かります。特に日本近辺の地震の回数はひどく多いものです。しかし,その反対に,世界にはほとんど地震が発生していない地域があることも分かります。大陸プレートの境界に位置していない場所です。アメリカ大陸の内陸部やユーラシア大陸のロシアやヨーロッパなども,ほとんど地震が起こっていないことが分かります。私が住んでいた上海も地震がない土地でした。だから,日本以上に高層ビルが乱立できるのです。しかし,そのような地震が起こらない地域から日本に来た外国人が大地震に遭遇したら,どうしていいか本当に分からないのではないでしょうか。外国人旅行者が年間四千万人になろうかというこの時代では,そのような人々はすでに身近にたくさんいるのです。

防災について知らない外国人とその対策を話し合う学習

昨年度から,地震や日本特有の災害を知らない外国人とその対策を英語で話し合うプロジェクト学習をデザインした実践をしています。そのうちの1つとして今年度に4年生と「We Can!1 Unit7 Where is the treasure? 位置と場所」と防災教育を関連させた学習をしました。子どもたちは仲間や留学生と防災対策について話し合い,最後には防災劇を見せて留学生に防災に対する理解を深めてもらいました。

前置詞を使って部屋の中の危険について話し合う

「We Can!1 Unit7 Where is the treasure? 位置と場所」の中に出てくる部屋のイラスト。部屋の中に子どもたちの身近にあるものが乱雑に放置されています。このイラストを使って,地震が起こったときに危険になるものを考えさせる「危険予知」をさせるのです。寝ているときに窓ガラスが地震で割れると,真っ暗闇の中を裸足で逃げようと思ってもガラスで足の踏み場もなくなり危険なことはこの上ないです。ベッドの横の壁にはフォトフレームが飾られています。落ちてきたらこれまた危険です。「何が危ないの?」と聞けば,「It’s a photo frame on the wall.」となる訳です。実際の部屋や学校内の部屋の写真を使えば,身近な物の英語表現を学びながら,子どもたちにとって他教科・領域の見方・考え方を働かせた「考える防災」が自分ごとの学びになっていくのです。そして,仲間同士や地震を知らない留学生と話し合うことで,思考を働かせながら英語表現の定着と共に防災に関する知識・理解が深まっていきます。

夏休み明けに楽しみなこと

1学期に校内でいつまでも続いていた1年生の「先生と握手大作戦」。1年生の可愛い子どもたちが休み時間のたびに私のところに何人も来てくれました。私に向かって「先生の名前を教えて下さい」と言うので,「先生の名前を知らないの?」と聞くと,「じょうなせんせい。」と言うではありませんか。内心,知ってるなら聞かないでね!と思っていますが,「違います。チョコレート先生です」とふざけて言っていました。それを聞いて,子どもたちはみなニコニコします。なにしろチョコレートは子どもたちに大人気のお菓子ですからね。それからは,私が1年生の教室前の廊下を通りがかるたびに「チョコレート先生!」と親しみを込めて子どもたちが声を掛けてくれます。そんな子どもたちとも夏休みの間しばらく会えません。夏休み明けに,子どもたちが私のことを何と呼ぶのかがまた楽しみです。

次回も英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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