2019.07.17
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小学校英語で教えるのは英語表現ではない

小学校英語の授業で英語表現を教えようとするあまり,場面や状況をよく考えずに子どもたちにウソを教えてしまった私の失敗談です。私たち教師は,子どもたちを英語ができるようにさせればいい訳ではありません。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

6月は研究シーズン

6月は研究・研修シーズンです。春の運動会を終えて,どこの学校でも校内での研究授業が盛んに行われている時期ではないでしょうか。研究発表会や学会なども多くあるのがこの季節です。この時期に研究発表会を行って下さる先生方には本当に頭が下がります。私自身は学会とセミナーで発表させて頂く機会を頂きました。ありがたいことです。本校では運動会,そして5週間に及ぶ教育実習が終わり,6月から7月にかけて研究授業が毎日のように行われていました。私は,6月から7月にかけて4年生の子どもたちとともに,南海トラフ巨大地震の対策を留学生と話し合ったり,防災劇で防災・減災について教えたりする単元の学習を行いました。留学生と笑顔で話し合ったり,防災劇を見て笑ってもらったりして,子どもたちは自分の思いが伝わっている実感を得ていました。

日本人学校で教えるということ

今回の話題は,私が10年ほど前に勤務していた中国の日本人学校での失敗談です。

当時,世界最大の児童数を誇る日本人学校に勤務していました。その学校では,日本中から多士済々な教師が集まり,個性豊かな実践で凌ぎを削る日々でした。まさに「時にはライバル。時には仲間。」のような関係で,学校内でも外でも刺激に満ちていました。

その学校の2年目。私は3年生の担任と研修主任を任されていました。そして,その年の2学期に,日本から文部科学省の視学官の先生が視察で来校するとのことで,私が中心授業者として英語の授業を公開することになりました。

サバンナにいる動物を探すという小学校英語授業

私の授業はこんな内容でした。アフリカのサバンナの草むらに隠れた動物(ライオン,キリン,シマウマ,ゾウ,クマなどの馴染みのある動物)を探して動物の名前を確認した後に,それらの動物カードをサバンナを歩きながら仲間と交換し合うという活動でした。とっても可愛い3年生の子どもたちと楽しくて学びのある英語の授業をやるぞと気合い満々で準備をしていました。

その授業に向けて,動物カードを入れる箱を学級の子どもたちの人数分作りました。ちょうどいい大きさの箱に入ったお菓子を35個買って,その周りに綺麗な色紙を貼りました。サバンナでの探険の雰囲気が出るように,トイレットペーパーの芯を2つくっつけてひもを通した双眼鏡を35個作りました。

作りながら,子どもたちが意気揚々とサファリに出かけて,動物カードを交換しながら英語表現を自在に使っていく姿を想像して,きっと楽しい授業になるだろうなと一人でニヤニヤしたものです。

本番の授業では,子どもたちは私の想定通りに楽しんでいて,英語をたくさん使った授業になりました。私も大好きな子どもたちとの英語の授業をすごく楽しむことができて,大満足な授業になりました。

事後検討会で気づかされた

授業後の事後検討会で,私は満足のいく授業ができたので鼻高々です。しかし,検討会が始まって開口一番。視学官の先生に言われたのは次の言葉でした。

「アフリカにクマはいるのか?」

答えはもちろん,「いません」です。クマはアメリカ大陸やユーラシア大陸,日本や台湾にはいますが,アフリカ大陸には生息していません。アフリカのサバンナに動物を探しに行くのに,クマを探しに行くというのはありえないことなのです。私は,ただ動物のクマを表す単語を子どもに覚えさせればいいと思っていたのです。場面や状況を考えずにアフリカに,さもクマがいるかのような授業を展開していた私は,結果的に子どもにウソを教えていたことになってしまいました。そのことに気づかされた私は,自分の浅はかさに顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしました。よい授業ができたと独りよがりをして自己満足をしていた私の鼻がへし折られた瞬間です。ただ子どもが楽しんで授業をしていればいいとか,ただ子どもが英語表現を覚えればいいという驕った気持ちが心のどこかにあったのかもしれません。私たちは小学校英語の授業を通して,子どもに英語表現やコミュニケーションの仕方を教えながら,世の中の事象や人間の本質に気づかせることが大切なのだと思います。ただ単に英語が使えるだけの人間を育てるのではなく,場面や状況に応じて臨機応変に言葉を使えるような力を子どもたちに育てていくべきなのだと思います。

それから数年経っても,変わった実践ばかりしようとする私は,ベテランの先生方から「お願いだから,子どもにウソは教えないでね」と口酸っぱく言われ続けたものです。それも自分がベテランと言われる年齢になったつい最近までなんですけどね。恥ずかしながら。

いよいよ夏本番ですね。この夏も10月の公開研に向けて授業の構想を練ろうと思います。場面や状況に応じて自分の気持ちや考えを伝えられるような楽しくて学びがある授業で子どもとともに楽しめるように。次回もよろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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