2019.07.05
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高校「探究」事情ーこれからはじまる「探究」とは

平成30年告示の高等学校学習指導要領では「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」になりました。学習から探究に代わった意義は大きいです。その目標には,
「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」
とあります。「探究」とはどういうものなのかを考えたいと思います。

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭 藤井 三和子

探究と探求はどう違うか?

せっかく,総合的な「学習」の時間から,総合的な「探究」の時間に代わったので,横断的・総合的な「学習」を通して・・・と,「学習」にこだわってしまっては残念です。
探究の定義がここでなされてないので,学校や教員はその定義をまずどこに置くのかを考えてから,内容を考えていくという手順がいいのではないでしょうか?
文章をパソコンで作成している時にもよく間違ってしまうのですが,「探究」と「探求」はどう違うのでしょうか? これは文字通りに考えるとわかりやすいです。
「探究」は探して究めるですね。何かわからないことをその本質がなんであるかを調べること,明らかにすることです。研究という言葉にもつながります。一方,「探求」はあるものを探し求めることです。見つけることが目的になります。このようなことを見ていくと,総合的な「探究」の時間に納得してしまいます。

高等学校のさまざまな探究―課題研究

現在は「総合的な探究の時間」が実践される前なので,探究活動は,SGH(スーパーグローバルハイスクール)・SSH(スーパーサイエンスハイスクール)校や総合学科など特別な科を有する学校が中心です。主に行われている探究活動は以下の2パターンに分けられます。

①それぞれの生徒が課題を見つけ,自分なりに調べ,途中に発表会などを行いながら,成果をまとめていく。担当の先生がおり,先生と相談しながら進めていく。テーマはほんとうに多岐にわたる。

②SGH・SSH校によくあるパターンで,課題研究と海外研修をミックスさせているもの。外部機関との連携の上,実施することが前提となるのではないかと思います。大学・国際機関・企業と多岐に渡る提携の中での学びで,生徒の世界は広がります。

2つの公立学校の取り組みを紹介します。

①A高等学校の取り組み

この学校は専門学科高校であり,一学年の生徒数が280名。その全員が海外フィールドワークに行きます。この時点で,公立学校としては,すべての学校が真似できるものではありませんが,生徒の学びや実施内容から,縮小しても取り入れられることは多くあると感じます。

行先は東南アジア中心です。海外フィールドワークに,7か国に分かれるのですが,毎年訪問国は同じで(現在),前年度の生徒の発表などを聞き,どのコースにするかを決めています。各コースには生徒のコース長がおり,引率教員や生徒とのパイプ役にもなり,リーダーシップを発揮します。フィールドワーク後の報告会でも報告をします。

行き先が決まると,その中でグループに分かれ,「何を研究テーマ」とするかを話し合います。「話し合い」が大切な時間となります。学校では授業は50分なり60分なりで決められており,一日の時間割も決まっています。フィールドワークのことだけに時間を取ることができません。その状況の中で,いかに「話し合い」の時間を取ることができるかが,しっかりした「テーマ決め」に必要です。例えば,ベトナムならば「平和問題」や「食文化」など,具体的にはもっと絞り込んで決めています。

テーマが決まれば,事前の調査で文献を調べて,フィールドワークに備えます。現地でどんなところで,何を調査するのか,「話し合います」。
フィールドワークの成果は「発表会」として,校内外に発信します。ポスターを英文で作成することで,難易度があがっています。しかし,ポスターのフォーマットが工夫されており,「タイトル」「Methods(方法)」「Results(結果)」「Discussion(考察)」「Conclusion(結論)」「Changes in Ourselves(自己変容)」となっています。これに基づいて,書いているので,見る側にとってはわかりやすく,作成する側も,書くことで整理されます。

特筆すべきは,最後の「Changes in Ourselves(自己変容)」です。ここで各自が,フィールドワークを通して「自分の中で変わったこと」を通して,「学び」が語られます。少し紹介します。

「英語を話すことは,不安と恐怖があるが楽しい。知らなかったことの扉を開く鍵が英語を話すことだった」

「異文化を受け入れるのは単純で難しい。受け入れるか否かで,言うのは簡単,でも行うのが難しい」

この学校の生徒たちは「深い」学びをしています。 

A高等学校の理念として,グローバルリーダーとなるべき学生を教育していく方法はいくつもありますが,まず海外に出てみる。これを高校生の時に経験させたいというものがあります。海外という場での他者との出会いで,変わる自己を探究することも求めているのです。

②B高等学校の取り組み

B高等学校は,全日制普通科で1クラス40名が探究類型コースに在籍し,教育課程はほぼ同じですが,単独クラスとしての3年間です。
このクラスの探究活動は,基本的に生徒たちが自主的に「話し合い」の中で進めていきます。ここでは,A高等学校のような海外フィールドワークと結び付けるというのではなく,テーマを考えて,3~5人のグループで,理系グループは実験や観察を伴うテーマで,文系グループは文献調査やアンケート調査をもとに探究活動をしていきます。

基本的な私見として

私は,高校生の課題研究としての探究活動は大学レベルの論文作成に基づくような型を教えて,高大接続の視点からも,大学でも通用する論理的思考力,論文作成を目指すべきと考えています。高校生のレベルはかなり幅広く十分できる層にはさらに伸ばしていくのがいいと考えています。でも,B高等学校の生徒の様子を見ていると,自主性に任せて,あまり指導しすぎないこともありだなと感じました。

B高等学校は学力的には非常にレベルが高い学校です。ここでは,特に型にはめるのではなく,生徒の自主性から出てくる「問題意識」を大切にしているように感じました。A高等学校同様,「話し合い」は時間がかかります。お互いの意見を出して,相違点が出てきた時に,どんな着地点におさめるのか,思いや考えを引いたり,出したりすることによって試行錯誤し,大人が考えないような発想を思いつきます。そして,持ち前の行動力と理解力で,自ら学び,成果を出しています。もちろん前提としての,担当教員のサポートや大学教員の特別講演や外部施設・大学研究室訪問などにより,どのように研究を進めるかをレクチャーされます。

こんな探求指導やってみたい!

B高等学校での探究の授業を見学させていただいていた時,1つのグループが,テーマについて調べようと,コンピューターに集まって調べていました。ご存知のようにコンピューターで何かを検索するには,キーワードを入れないといけません。調べなくては,情報が集まりません。でもその情報を得る手段をうまく使いこなしていくことが難しいのです。

見学中,たまりかねて,いろいろキーワードを挙げて,これで検索してみたらと提案すると,「なんで,そんなキーワードが出てくるのですか?」と聞かれました。これは,教師としてハッとすることでした。これを教えるのは難しい。難しいですよね。「問いを作る力」といえるでしょう。

「問いをつくる」ことに関して,参考となる本につぎのようなものがあります。
ダン・ロスステイン,ルース・サンタナ著 吉田新一郎訳『たった一つをかえるだけ クラスも教師も自立する「質問作り」』(新評論/2015)

問いを作る力をつけてあげることに特化するだけでも「探究活動」は成り立ちます。これは「問題意識」を固めていく,明確にしていく作業で不可欠のものです。

大学・大学院の論文で一番中心になるのは「問題意識」というものです。なぜそれを問題とするのか。問いの立て方は,興味があるからだけでは,探究活動の問いとしては十分ではないでしょう。その問題に,先行研究はどんなものがあるのか,はたして,問うだけの意味があるのか。そういうことを突き詰めていのが「問題意識」を作る作業です。大学の先生方の講演では,研究でどのようなことが明らかにされたかに重点が置かれることが多いかもしれません。少なくとも,ご自身の研究の「問題意識」をかみ砕いては教えてくれないでしょう。これは研究者が自分自身の問題として書き上げていくものだからです。

そして,問いを作る力の始まりはB高等学校でのエピソードでいうと,「どんなキーワード」を考えるかになります。これは,「問いの立て方」っていう講義を聞いてもすぐ身につくものではありません。メンターとなるべき存在を含めて(教員でも)問答を繰り返すことが必要だと思います。そして,この「問いを作る力」というのは今はやりの「AI に使われるのではなくAIを使いこなす人材」につながるのではないでしょうか。

また,A高等学校のポスター発表の「Changes in Ourselves(自己変容)」ですが,これは各自が書いたもので,それについての話し合う時間はとっていなかったということでした。時間をかけたフィールドワークですから,そこまでの時間はないでしょう。しかし,「問題意識」という点ではあのChanges in Ourselves(自己変容)」が大きなポイントになりうると私は考えます。どの国へ行って,何をテーマにしたのかは調査研究という点では必要ですが,そこで「あなたが何を考え,どんな自己変容があり,それをどう今後に活かすのか」に焦点をあてたいのです。「探究」であり「探求」であるかもしれません。ここでは,メンターとなるべき教員や生徒間での問答が必要になってくると思います。そんなことが可能になる「探究活動」は本当に魅力的です。

そんな問答をしながら次のステージに通用する「問題意識」を作り上げる「探究活動」を新学習指導要領のもとでやってみたいと,日々考えています。
今回は新学習指導要領で新たに出てくる「総合的な探究の時間」の「探究活動」についてお話ししました。教科の枠を超えた分野にもなりますが,やり方によっては,とても楽しみな学びになると思います。

藤井 三和子(ふじい さわこ)

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 専門職学位課程 教育実践高度化専攻 グローバル化推進教育リーダーコース 在籍
生徒の心の成長を促す存在でありたいと,教育の力を信じて,工業高校で英語を教えています。大学院での学びと学校現場での実践で感じたことを紹介していきたいと思っています。

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