2019.06.11
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外国語とプログラミングは統合できるのか

新しい小学校学習指導要領の中で,"活動"から教科化された外国語教育とあらたに学習が必須となったプログラミング教育を1つの文脈の中で学習できるのでしょうか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

リアルを求める外国語とモデルを求めるプログラミング

外国語学習の基本は,人と人とのリアルなコミュニケーションです。自分の本当の思いや考えを相手と伝え合うことにその醍醐味や喜びがあるものです。お互いに共通の話題の下で,自分とは違う考えの相手と交流すること。新しい価値観を知り,相手と仲良くなることで,コミュニケーションや外国語の必要性を実感するものです。疑似体験やごっこ遊びでは,本当の気持ちをなかなか話す気持ちにはならないのではないでしょうか。ごっこ遊びなら,やはりなりきった役の考えや言葉でしかなく,話者本来の本当の気持ちという訳ではないのです。

それに対してプログラミングはどうでしょうか。現在,学校教育の場で行われ始めているプログラミングは,基本的には私たちの身近にある現実世界をモデル化する学習が多いのが特徴だと捉えています。現実世界のものをモデル化したロボットやアニメーションにアルゴリズムを作ることで学んでいくものです。それはあくまで現実のリアルなものをモデル化したものなので,外国語に必要なリアルなコミュニケーションとプログラミングは統合させづらいのではないかと考えています。それでは,外国語とプログラミングの統合型学習は成立しないのでしょうか。

道案内とプログラミング的思考

これまでの小学校外国語の教材「Hi friends!」や「We Can!」の中で取り上げられてきた道案内の学習。友達を目的地まで「Go straight.」とか「Turn right.」とか言って道案内する学習です。これまでは,自分たちが海外旅行に行ったときに,道案内をしてもらうために使えるなと思っていました。

以前,京都に修学旅行の下見に行ったときに,何度も外国人観光客に道を尋ねられました。二条城の近くの交差点で信号待ちをしていたら,インド系の外国人観光客に「バスで京都駅まで行きたいんだけど」と話しかけられました。ちょうど自分が地下鉄で京都駅から二条城まで来たので,「地下鉄に乗って駅まで行くといいよ」と言って,「Go straight.」などと順を追って説明していたそばから,目の前を京都駅行きのバスが通ったので,一言「That one!」と言って追い掛けさせました。道案内の表現が役には立ちかけただけでしたが,きっと,来年の東京オリンピックでは大活躍する英語表現かもしれません。この目的地までの手順を示す英語表現はまさに,プログラミング的思考そのものだと言えるでしょう。道が分からない外国人に少ない表現で順を追って行き方を説明しなければ,たどり着けません。それはまさに論理的思考の1つであるプログラミング的思考なのです。

外国語とプログラミングを統合した学習にするには

時々見かける学校や民間企業による外国語とプログラミングの統合型学習には,外国人教師が英語を使ってプログラミングを教えるというものがあります。それも1つの手法なのかなとは思いますが,私は日本人なのでその手は使えません。使おうと思えば使えるかもしれませんが,「日本語の方がプログラミングの学習の仕方がよく分かるんじゃないの?」と言われれば,「That’s right!」と答えるしかありません。そこで,その他の方法で外国語のプログラミングを統合した私の実践について紹介します。

①発表の手立てとしてプログラミング教材を使う

単元のゴールに留学生との交流会やALTなどの外国人に教えるという言語活動を設定し,その教える手段として「スクラッチ」などのプログラミング教材を使うのです。私は,防災について留学生に教えるために「スクラッチ」を使った防災プレゼンを作らせるという実践を行いました。「スクラッチ」の中のキャラクターに動きとともに外国語によるメッセージを埋め込むことで留学生に防災について教えることができます。もちろん,プログラミング学習までに防災に関する表現を学んでおかなければ,外国語学習としての質は保てません。

②英語を使う文脈(ストーリー)の中にプログラミングを埋め込む

もう1つは,外国語を使うことが当たり前だという文脈を作ることです。これまでに「Build a Robot 宇宙ゴミを処理するロボットを作ろう」という実践をしました。宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(以下,ISSと略す)でできることは地球上でできることと同じなのかという問いについて考えさせました。その宇宙飛行士が滞在するISSの中での使用言語はもちろん英語です。なぜなら宇宙飛行士は多国籍だからです。ですから,英語を使う文脈がある訳です。そのISSが秒速8Kmの弾丸よりも速い速度で飛び回っている使用済みロケットや人工衛星などの宇宙ゴミ(スペースデブリ)の脅威にさらされているのです。そして,その宇宙ゴミを処理するロボットを作って,その機能を英語で説明するという学習をしました。子どもたちは,LEGOのプログラミングロボットの動きをプログラムに合わせて,1つずつ順を追って英語で説明する動画を作りました。外国語とプログラミングを統合させた学習が成立したのです。学習を終えた子どもが振り返りにこんな言葉を残していました。「いつかぼくが考えたロボットが本当に宇宙に飛び立って,宇宙ゴミをつかまえてくれることを期待しています」充実した学習ができたという思いがこの言葉に凝縮されていたように思います。

5週間にわたって,3人の教育実習生が私の教室に来てくれていました。子どもたちとともに頑張ってきた教育実習生とももうすぐお別れかと思うと淋しいものです。夢に向かって感謝と努力を忘れずに頑張って欲しいと思います。

次回も英語にまつわる身近な話題や実践についてお話していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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