2019.04.10
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簡単な英語でも英語に聞こえない時がある

3月末に2020年度から小学校で使用される5・6年生の英語教科書の教科書検定がありました。「聞く」「話す」を重視した内容であるものの,発音やアクセントに関する説明を求められたようです。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

鉄道内での英語の車内放送

最近,電車に乗っていて思ったのですが,以前よりも英語での車内放送が長くなったように思います。

The next station is ~. The doors on the left side will open. Please change here for …….

というようなものです。一昔前の事前に録音された音声が流れるのではなくて,その時に乗車している車掌さんが自分で話している放送をよく耳にします。英語の得手不得手とは関係なく,鉄道会社の方たちも英語の研修をして放送をしているんだなと思います。また,中国系の観光客が多い路線では,その英語での車内放送の後に中国語の放送まである場合があります。英語は世界共通語のような側面をもっていますが,英語だけを学んでいればそれでいいのかというと,そういう訳でもないのかもしれません。そして,そんなところにまで国際化の影響が現れていると感じるものです。

同じ路線の電車に乗れば,基本的には車内放送の内容はほとんど同じなのだと思いますが,英語で放送されているはずなのに,英語に聞こえる場合と,なんだか英語に聞こえない場合があります。それはなぜなのでしょうか。

英語が英語に聞こえない場面

私は,英語が英語に聞こえないのには,2つのケースがあると考えています。

①相手の話の内容が想定外の時

以下は,よくある教室での対話例です。

A: Hello.
B: Hello.
A: What animal do you like?
B: I like lions. How about you? What animal do you like?
A: I like elephants.
B: It’s nice.

これを日本語に直すと,

A: こんにちは。
B: こんにちは。
A: 何の動物が好き?
B: 僕はライオンが好きだよ。あなたは? 何の動物が好きなの?
A: 私はゾウが好きだよ。
B: それはいいね。

この対話は何か変じゃないですか?教室では,その表現を使用する単元を学習しているので,なんとかこの対話も通じるかもしれません。しかし,教室から出て,友達の外国人と一緒にレストランで食事をすることになったとします。その時に同じ対話をしようとしてみてください。これは明らかに変です。なぜなら,「こんにちは」と言った後に,いきなり「何の動物が好き?」と聞いています。何の文脈もないままに,レストランで挨拶を交わした後に,「何の動物が好き?」と聞かれたら,「え?好きな肉の種類のことなのかな?肉の種類なら,やっぱりチキンかな。ヘルシーだから」(子どもがこんな対話をしていたら,それはそれですごく怖いですが)と面食らってしまいます。前置きなしで何の脈絡もなく,唐突に聞かれても困惑してしまうものです。人は誰かと対話をする時には,話の内容から次の相手の反応を予測しているものです。ですから,そもそもの文脈がなかったり,こちらの想定した予測の範囲を大幅に超えていたりした場合には,何と言ったのかが咄嗟に分からないという状態になるのです。すなわち,相手が英語を話しているのに,英語に聞こえないということです。

上記の対話で想定外を防ぐためには,文脈や言葉を足す必要があります。

A: Hello.
B: Hello.
A’: I am going to a zoo on this weekend.
B’: Oh, let’s talk about animal.
A: What animal do you like?
B: I like lions. How about you? What animal do you like?
A: I like elephants.
B: It’s nice.
A: I want to see elephants on this weekend.

A’B’のように文脈と話題提示の表現を足すといいのです。こうして対話と対話が結びついて1つの大きな内容になったものを「談話」と言います。サッカーで言うと文脈や話題提示がないただの対話は,1対1でのパス練習です。しかし,そこに文脈や話題提示の言葉などがあると,キックオフから仲間とパス交換をしてゴールを目指すような「談話」になるのです。ですから,子ども同士の対話を単なるパス練習で終わらせるのではなく,明確なゴールに向かうようなものにさせていきたいのです。そのためには,対話をする場面や状況を無視してはいけません。難しいことですが,小学校英語の指導者は,そのような意識をもっているべきではないかと考えています。

少し話が長くなってしまったので,私が考える「英語が英語に聞こえない場合」の2つ目は,次回にしたいと思います。

いよいよ新学期が始まりました。気持ちを新たに目の前の子どもたちと共に,楽しみながら英語の研究をしていきます。御意見,御感想をお待ちしています。今期も引き続きよろしくお願い致します。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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