2019.03.26
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荒れた学級でもできる!専科の小学校英語授業

文部科学省の施策で今年度は小学校での英語専科教師が全国で1000人増員されました。これまでの小学校英語では,学級担任が指導するのを前提としてきましたが,英語専科教師が増えているのはなぜでしょうか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

小学校英語で求められる教師の英語力

小学校英語では,教師と子どもとの結びつきが強く,担任以外の教師の授業では同じように展開できない場合が多々あるものです。ですから小学校英語の授業では,学級担任が英語の授業をするのがもっとも良いと言われてきました。しかし移行期に入り,これまでの外国語に慣れ親しむゲームなどの活動を中心とした「外国語活動」から,5・6年生では教科書があり,評価の必要性が出てくる教科としての「外国語科」になってきています。授業中,Small Talkの後で,「言いたかったけれど,英語で言えなかった言葉はあったかな?」と子どもに聞いて,みんなでアイデアを出し合ったけれど,間違った文法が使われた中間言語が生まれることがよくあります。これからは,その間違った表現を文法的にも語彙的にも正しい英語に直して発話できるだけの英語運用能力が小学校英語の指導者には求められています。しかも,各地の英語教育に関する研究会などで有識者が言うには,小学校教師でも英検2級程度の英語力,せめて中学3年生のスピーキング力が欲しいという声を聞きます。もちろん,もともと英検2級というのは,高校卒業段階レベルで設定されているというのは,横に置いておきますが,小学校教師で「そんなのムリ!」という人がいて当然です。ですから,より専門性の高い英語専科教師を増員してきているのです。

アフリカの補習校に通う子どもたち

アフリカに住んでいた時,私は準全日制の補習授業校に勤務していました。そこに通う子どもたちは,午前中はインターナショナルスクール(以下,インターと略す)での英語環境で勉強してきて,午後には,日本語を自由に使える補習校で2時間程度学習していました。毎日,昼過ぎから夕方まで子どもたちと勉強し,インド洋に沈む夕日を見ながら,みんなでサッカーやバドミントンをして親の迎えを待っていたのは懐かしい思い出です。しかし補習校に通う子どもたちは,補習校ではどの子も元気いっぱい,笑顔いっぱいでしたが,インターでは英語で不自由することが多く,肩身の狭い思いをしていた子が多かったようです。

血の滲むような努力をして英語を身につける子どもたち

その中に,外交官のお父さんをもつ子がいました。その子のお母さんと帰りがけにした会話がいまだに忘れられません。「先生あのね,海外に出れば英語が簡単に話せるようになるなんて,嘘です。子どもたちは,英語を身につけるために血の滲むような努力をしているんです」と言っていました。シャイで英語が話せない日本人はインターでもすぐにみんなと馴染める訳ではありません。インターのプロジェクトベースでレポート形式の大量の宿題を毎晩12時まで母子で取り組んでいると言っていました。子どもと同様に,お母さんもまた血の滲むような努力と心配をされていたはずです。私自身もアフリカで,中国で,日本で英語学習を続けてきましたが,少しは口から英語が飛び出てくるようになったと思えるようになったのは,つい最近のことです。もちろん,空気を吸うように自然と英語を身につけてしまうような人もいるのかもしれませんが,多くの場合は英語は簡単には口から出てきません。

学級担任に,たとえ中学3年生の語彙レベルでもいいから,口から瞬時に英語が出てくるぐらいの英語運用能力を身につけさせるのは,難しくて当たり前です。だから英語専科教師に,その血の滲むような努力をして身につけた力を貸して欲しいのです。しかし・・・。

英語専科は大変!

なぜなら小学校英語では,他教科以上に(ちょっと語弊があるかもしれません。ごめんなさい)黙って椅子に座っているだけでは済まされないからです。聞く・話すといったコミュニケーション主体の学習では,子どもたちは,黙って椅子に座って教師や仲間の話を聞いているだけでは済まされません。隣の子とSmall Talkをしたり,グループでクイズをしたりするコミュニケーション活動をしないではいられません。しかし,子どもも人間です。友達とケンカをしたり,嫌なことがあったりして,黙って一人でムスッとしていたい時もあるでしょう。いつも話を聞いてもらっている学級担任ならば,それでも「頑張ろうかな」と思ってやってくれるかもしれませんが,専科ではそうはいきません。ですから,専科で小学校英語の授業をするときには,多面的に英語と触れられるユニット型の授業デザインをすると良いと考えています。ユニット型の授業デザインとは,いくつかのパーツを組み合わせて1時間を構成することです。しかも,その時のパーツは,1人で活動するようなものも取り入れるといいのです。そうすれば,荒れた学級に専科で入っても授業が成立します。

荒れた学級でもできるユニット型授業デザイン

私のいつもの授業デザインは以下の通りです。いくつかのパーツを組み合わせています。

①あいさつ

あいさつは,私と子どもたち全員で行いますが,あいさつ自体は一人一人が自分のことをぶつぶつと言いますので,子どもたちは小さな声でも大丈夫!

②歌

英語の歌は,音源に合わせてみんなで歌いますが,歌うのは個人です。誰かと関わらなくても大丈夫!

③絵本の読み聞かせ

基本は子どもたちと挿絵を使ってやりとりしながら読みますが,黙って聞いているだけでも大丈夫!

④帯活動で語彙の習熟を図るペアゲーム/音と文字を結び付けるワーク

ここは,ペアでの活動を基本にしたいところですが,教師と子どもでのやりとりでもOKです。英語の音と文字を結び付けるワーク(フォニックスなど)も,CDなどを使って,個別に活動できるので大丈夫!

⑤Small Talk

ここもペアでの活動を基本にしたいところですが,Small Talkは子ども同士の対話ではなく,教師と学級全体の子どもとの対話でもいいので大丈夫!

⑥コミュニケーション活動/メインのアクティビティ

ここもペアでの活動を基本にしますが,文部科学省から出ている「We can」にもある「Let’s Watch and Think」などを有効に使いながら,教師と子どもとの対話にすればいいから大丈夫!

⑦振り返り

振り返りカードに1人で振り返りを書くので,子どもも落ち着いて取り組むから大丈夫!

ポイント

これでも授業が成立しないのなら,他の教科の授業も成立していないはずなので,くよくよせずに気長に子どもの成長を見守りましょう。英語を身につける上で,仲間や教師とのやり取りは必須なので,ペアや子ども同士のグループワークは,多い方がいいとは言えますが,1時間に1回でも大丈夫!大切なことは欲張らないことです。

小学校英語の聞く・話す力は,子ども同士や教師と子どもとのやりとりの中で育んでいくものだと考えています。聞いたり,話したりする力は,聞いたり,話したりする経験なくして育まれることはありません。しかし,教育は人と人が協力して作り出すものです。相手あっての教育です。教師は,子どもの目先の活動にとらわれずに,長い目で子どもの成長を見守る忍耐強さを大事にしたいですよね。

今期の連載はこれで最後になります。拙い文章だったと思いますが,このような場をお借りして自分の考えを整理したり,御意見を頂けたりする良い機会をもらえたことに感謝致します。今後も小学校英語の研究を続け,少しでも人々の役に立てるように頑張っていきます。半年間ありがとうございました。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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