2019.02.18
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小学校中学年から英語を始めると高学年で英語学習に飽きてしまう

もうすでに学習指導要領の移行期として,3・4年生から英語を学び始めています。これまでよりも一層,小学校英語の開始時期を下げていくのです。しかし,ただ英語教育の開始時期を早めれば,子どもたちの英語力は向上するのでしょうか。"英語嫌い"になってしまうことはないのでしょうか。その小学校英語教育の指導の際に,幼児期から英語を学べる英会話教室で起こっていることを念頭に置いておく必要があると思います。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

小学校高学年で英会話教室を辞めた

以前,担任をしていた子どもにこんな子がいました。バスケットボールが好きな元気がいい女の子でしたが,ふと放課後に話をしていて,こんなことを漏らしていました。「私は,幼稚園の頃から英会話を習っていたんだけど,5年の時に辞めたんだ」というのです。まずは,運動大好きで,勉強なんて大嫌い!というような子が,幼児期から英会話教室に通っていたことにびっくり!そして,中学年までやってきて,高学年で辞めたことにさらにびっくりしました。当時は,小学校での英語は5年生からだったので,やっと学校での学習が始まったのに,辞めた理由はなんなのだろうと思って,その理由を聞くと,「全然話せるようにならなかった」と,子どもながらに夢が破れたのでしょうか。吐き捨てるように言いました。そして,続けて「英語なんてね。話せなくたって全然大丈夫だよ!ここは日本なんだから,外国人も日本語を話せばいいんだよ!」よくある理屈ですね。これは,この子が特別なケースという訳ではなく,同じようなケースをいくつも聞いたことがありました。子どもだって,本当は英語を話せるようになりたいんです!

英語が話せるという状態

どんな場面や状況でも,どんな外国人とでも英語で意思疎通が図れるというのは,英語のネイティブでない限りは果てしなく困難なことではないかと思います。親自身もこれまでの自分の小・中・高・大の学校教育での英語学習の経験から,英語はそう簡単には使えるようにならないことは分かっています。だから,多くは望んではいないことが多いのです。

しかし,この話題なら話せるなとか,このまま英語学習を続けていけば,将来自分が思い描くような英会話をしている自分になれそうだという夢や希望はもたせたいものです。

親が子どもを英会話教室に行かせる理由

①せめて英語の音に耳が慣れて欲しい
②せめて外国人と会った時に隠れないで欲しい
③せめて英語を好きでいて欲しい
④あわよくば英語を少しくらい話せるようになって欲しい

①と②は,幼児期から英会話教室で英語を習っていると,外国人のフランクな人柄と相まって多くの子どもたちがクリアしているのではないかと思います。

しかし,問題は③の「せめて英語を好きでいて欲しい」です。幼児期から小学校高学年になっても「英語を好きでい続ける」ことは案外と難しいものです。なぜなら,長く習っていればいるほど,ただゲームをしたり,知的レベルよりも簡単な内容の身の回りの英語を学び続けたりすることに,興味関心が維持できなくなります。

結局は児童期の英語の学習では,音声だけで語彙や表現を徐々に蓄積して定着させていかなければならず,週に1〜1.5時間のレッスンだけでは定着させることは難しいものです。そのために定期的に授業内に「プレゼン」などの課題を設けたり,英検受験を勧めたりして,家庭学習で語彙や表現を覚えてこさせるようにすることが多いようです。

しかし,学年が上がれば上がるほど,新しく覚えなければいけない語彙や表現が加速度的に増えるだけでなく,以前に使った語彙や表現も定期的に復習しないと忘れるので覚えきれないのです。英語の語彙や表現は,国語の漢字の学習のように,定期的に読んだり,書いたりする機会が多いものではありません。むしろほぼないと言ってもいいかもしれません。意図的にカリキュラムの中に既習表現を組み込まないと,一度も復習することなく小学校を卒業してしまうこともありえるのです。既習表現の復習と新しい語彙と表現を学ぶ学習ペースについていけなくなるか,遅いペースに合わせて何度も同じことを学習するうちにつまらなくなり,子どもたちや親は「英語ができるようにならない。」と英語学習への興味を失っていくのです。結局は,語彙や表現を「覚えきれない」という壁にぶつかるのです。

週に1〜1.5時間で,語彙や表現を定着させるのは難しい

言語学では,生まれてから3歳までの間のおよそ1万時間を母語に触れていると爆発的に母語を話し出すということが起こると言われています。いわゆる「言語爆発」というものです。第2言語習得は,母語習得とは習得過程が同じではありませんが,1つの言語を身に付けるにはおよそ1万時間はかかると考えると,多目に見積もって週に2コマの英語の授業があったとしても,1年間で70コマ。小学校3〜6年では,280コマで126時間にしかなりません。1万時間のゴールは遥か彼方で,ゴールラインすら見えません。まして,日本では普段から英語に触れることがほとんどないような日常ですから,英語を身に付けるには学校教育だけでなく,自分で授業以外にも英語を学び続けることが必要であり,英語を学習し続けたいと思う学習意欲の維持・向上が大切なのです。

小学校高学年でも英語への学習意欲を維持・向上させる方法

①コミュニケーションの目的を作る

子どもたちが英語の語彙や表現を使いたくなるような,実生活と結び付いて,社会に働き掛けるような本物の文脈を単元デザインの中に位置付けたいですね。子どもたちの自分ごとからは離れてしまうような疑似体験やごっこ遊びのようなものではなく,本物の文脈やパフォーマンス課題を取り入れることで,プロジェクトベース(プロブレムベース)のデザインにするといいと私は考えています。ただ言わされているだけの学習では,何も定着しません。伝えたい内容があって,それを伝えたいと思うから必死になって語彙を覚えようとするものです。
例)

  • ALT,留学生,地域に住む外国人に日本のことを教える。
  • 外国の小学校と交流して,お互いの考えを知る。
  • 英語を使って,友達と考えや経験を交流する。
  • ビデオレターやムービーを作って,外国の人に日本の良さを紹介する。

②英語ができると思わせる

子どもたちが,単元を越えて自然と繰り返し使いたくなるようなトピックを設定したSmall Talkを毎回の活動の中に,帯活動として取り入れます。その時に,既習の汎用的に使える表現をスパイラルに繰り返し使わせて定着させるカリキュラムにします。「What do you want?」と言う表現も,「クリスマスプレゼント」「防災バッグに入れたいもの」などとトピックを変えれば,汎用的に使用させることができます。そして,以前に学習した内容が確実に定着していけば,子どもたちも「英語が話せる!」と自信をもてるようになるものです。

もうすぐ1年も終わりですね。息も絶え絶えで立っているのがやっとですが,最後にリングに立っていた人が勝ちだと思うので,あと少し頑張ります!次回も身近な英語教育に関する話題を読者の皆様に提供したいと思います。よろしくお願い致します。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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