2019.01.29
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

英語の発音は綺麗でなくてはならないという幻想

誰もが一度は憧れるネイティブのような綺麗な発音の英語。中学校の教師に「あなたは発音が綺麗ね。」と褒められて英語教師を目指したという逸話をよく聞きます。英語の発音が綺麗というのは,それほど大切なことなのでしょうか。あなたは英語の発音が綺麗ですか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

英語のネイティブって誰のこと?

誰もが一度は憧れる英語のネイティブのような綺麗な発音。発音が綺麗かどうかは英語を話す上ですごく大きなことなのでしょうか。外国人の中に入って話すときはいいのだけれど,同じ日本人の前だと,発音や文法が気になって英語で話すのが恥ずかしいと思ったことはありませんか。私もありましたが,最近は気にならなくなってきました。今日は,そんな話題について自分の体験を交えて書いてみたいと思います。

英語のネイティブとは,英語を母語(幼少期から自然に習得する言語)として話す人たちのことと言えます。一般的には英語のネイティブは,アメリカ・カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランドの人たちを言うことが多いと思います。しかし,英語を日常的に使っている国は他にはないのでしょうか。

英語が公用語の国はたくさんある

英語が公用語(公の場において用いることを正式に規定された言語)の国は,英語を日常的に使っていて,旅行をしていても英語がよく通じるのであまり困ることはありません。インド・ケニア・タンザニア・ザンビア・ジンバブエ・シンガポール・南アフリカ・フィリピンなど50カ国以上もあります。例としてここに挙げた国に私は行ったことがありますが,街角の小さなお店の店員から,バスで隣り合わせた人まで,どの国でもよく英語が通じました。もちろん,片言の英語しか話せない人もたくさんいましたが,全く話せないという人はあまりいなかったように思います。大学生の時に,初めて一人で海外旅行に行ったのがインドでした。当時は,大きなリュックを背負って,海外の安宿を泊まり歩く「バックパッカー」と言われる旅行スタイルが流行っていました。英語もほとんど話せず,街角の露店で「サモサ」と言われる1つ5円くらいのインド版揚げ餃子を買う時に,「How much is this?」でさえ恥ずかしくてなかなか言えなかったことを思い出します。今の小学生にこんな話をしたら鼻で笑われそうですが,私が子どもの頃は誰も英語を話せませんでした。

自分の英語「My English」でいい理由

発音が綺麗に越したことはないし,発音を綺麗にしたいという目標をもつのは良いことですが,発音を気にし過ぎて,話すことを恥ずかしがっていては本末転倒です。私は,自分が身につけた自分だけの英語「My English」を自信をもって話す子どもに育てたいと思っています。「自信をもって」というと,ちょっと目標が高過ぎるかもしれません。「気にせずに」話す子どもには育てたいと思っています。

①英語を話す人は,ネイティブの方が圧倒的に少ない

英語を話す人々は全世界に18億人程度と言われています。そのうちネイティブと言われる人たちは4億人もいません。ネイティブと言われる人たち以外がおよそ14億人になるので,ネイティブではない英語話者が圧倒的に多いのです。私たちが出会う英語話者は,1:3から1:4の割合でネイティブ以外が多数になる計算です。一昔前は,外国人と言えば,欧米人を指していましたが,今はそうとは言えませんね。

②どの国の英語にも訛りがある

実はインドの公用語はもう1つあります。ヒンディー語です。ですから,インドの人々が英語,ヒンディー語,それ以外に自分の民族の言語と合わせて3ヶ国語を話しているのを目の当たりにした時に,世界では,「母語以外に,英語くらいは話せて当たり前なんだ」と思い知らされました。若い頃の私は,インドで大きな刺激を受けて,英語くらいは身につけようと固く決心しました。そして,これまでに英語を教わったのは,タンザニアに住んでいた時は,タンザニア人のお兄さんとインド人のおばあさんから。上海に住んでいた時は,カナダ人とドイツ人のお兄さんから。日本に帰国してからは,オンライン英会話でフィリピン人のお姉さんに英語を教えてもらっていました。そして,最近,ようやく英語が口からポンポンと出てくるようになってきました。

教えてくれた先生たちは,みんなそれぞれの国の訛りがありました。特に,インド人のおばあさんは,インド訛りの巻き舌の英語だった上に,おばあさん過ぎて,声がシワがれて聞き取りづらくて仕方ないというハイレベルな先生で,リスニングと聞き返しのフレーズが強化されました。そんな先生たちとのおしゃべりで身につけた私の英語は,全ての国の訛りが混じって,いかにもへんてこりんな英語かもしれませんが,先生たちが話していた英語の訛りを含んでいるので,逆にどこの国の人と英語で話しても通じる気がします。

③英語はWorld Englishes!

街で見かける外国人はアジア系の人が多く,本校に招いて英語の交流会をしている留学生の人たちも,中国,マレーシア,インド,インドネシアなどのアジアの国の人々がほとんどです。ネイティブが話す英語だけが英語なのではありません。英語はWorld Englishesと呼ばれ,世界中のみんなのものです。todayをトゥダイと言い,Aの発音が特徴的なオーストラリアやシングリッシュと呼ばれて,英語が独自の発達を遂げているシンガポールのような国もあります。ある程度ベースとなる発音はありますが,それぞれの国や人々の個性があって当たり前だし,逆に多様性があっていいのだと思います。LやRの発音を気にし過ぎるよりも,ブツ切れ・棒読みにならないように抑揚をつけて,単語と単語をつなげて話すようにすると英語らしく聞こえるものです。ただ,もしかしたら小学校3年生から外国語に触れ始めている最近の子どもは,それほど自分の発音を気にしていないのかもしれません。いつまでも,そんな小さなことを気にしているのは,昔の教育で育った古い考えの大人たちだけなのかもしれませんね。

次回も身近な英語教育に関する話題を読者の皆様に提供したいと思います。よろしくお願い致します。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop