『この夏の星を見る』 人の生き方は認識で変わる!? コロナ禍を描いた物語を鑑賞して思うこと

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は、コロナ禍に生きる若者たちが"今できること"を模索する姿を描いた『この夏の星を見る』をご紹介します。
まだコロナは終わったわけではないのに…

©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会
コロナ禍のこと、もう忘れかけていないだろうか。
「ステイ・ホーム」が標語となり、必要最低限でしか外には出ず、在宅勤務が当たり前になり、日々の感染者の増減を固唾をのんで見守っていたあの頃。マスクがどこに行ってもなくて、しょうがなくて手作りしたり。どこに行っても店はシャッターを下ろし、街がゴーストタウンのようになっていて、いつまでこれは続くのだろう…… と不安しか感じられなかった2020年のあの時期。
別にコロナは終焉したわけではない。実際、先日も病院に行った時に医者や看護師に「今、コロナが流行しているので、気をつけてくださいね」と注意喚起された。
けれども街では、もう誰も店に入る時にアルコールで手を消毒したりはしない。2024年夏は電車の中など公共機関ではマスクをつけているのは常識だったけれど、今はマスク着用者はほぼゼロ。
コロナは過去のもの、もう乗り越えたもの、仮にかかったとしても「あー、かかっちゃったんだ」程度で済むものに、意識の中ではなってしまっている。
いやいやいや。現在かかっても後遺症はあるし、当時から今も後遺症に悩まされ続けている人だっているのに。何を終わったと感じているのか。
意識の変化。これには本当に驚かされる。
映画はコロナ禍の生徒たちと彼らを見守る大人たちが織りなす物語

©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会
『この夏の星を見る』は、誰もが最もコロナに怯えていた、2020年から2021年を中心にした物語だ。東京都渋谷区、茨城県土浦市、長崎県五島市を舞台に、その時の中学生や高校生、そして彼らを見守っていた教師や大人たちの心境が描かれていく。
幼い頃から星が好きだった溪本亜紗(桜田ひより)は、小学校の頃にラジオで聞いた茨城県立砂浦高校の綿引先生の月や宇宙に関する話、憧れの宇宙飛行士・花井うみか(堀田茜)の「絶対に夢は諦めない方がいい」という言葉に影響を受け、星に対する強い思いを膨らませていき、砂浦高校へ進学。綿引先生が顧問を務める天文部に入部する。そこには同じ団地の別棟に住む飯塚凛久(水沢林太郎)もいた。亜紗の目標は花井を超えること。そして凛久の目標は、座ったまま見られるナスミス式望遠鏡を手作りすることだった。
かくして2019年、楽しい1年目の部活動がスタートする。そこで合宿しながら、夜空の星を手製の望遠鏡でいかに早く見るかを競う「スターキャッチ」という競技があることを知る。
しかし2020年。亜紗や凛久の生活、いや国民全体の生活を一変させたコロナの蔓延が始まってしまう。部活動どころか登校すらできない毎日。登校できるようになっても部活動にはさまざまな制限がかかり、今までのような活動がほぼできなくなってしまう。
映画はそのあたりから、登場人物が増えていく。渋谷の中学校ではサッカー部が廃部となり、行き場を失った安藤真宙(黒川想矢)が同じクラスの中井天音(星乃あんな)に誘われて理科部に入ることになる。あるいは長崎・五島列島で吹奏楽部にいた佐々野円華(中野有紗)は、自宅が旅館を営んでいたがために、周囲から手酷いバッシングを受け、親友の福田小春(早瀬憩)からも距離を置かれることとなる。それで大泣きをしていたところを野球部の武藤柊(和田庵)に見られ、彼から天体観測会に行かないかと誘われ、星の世界の美しさに魅了される。
このコロナ禍で何ができるのか!?

©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会
そう、いずれもコロナによって「今まで」とは違う状況に押しやられていく子どもたちの姿が描かれるのだ。あれもダメ、これもダメ。そんな中で自分たちに「何ならできるか」!?
黒板に大きく書かれたその文字を見てため息をつく亜紗。そんなところへ思わぬ電話が。全国のいろんな学校に送っていた「スターキャッチ」の案内資料を見た安藤真宙から、参加したいという申し出がきたのだ。緊張しながら電話した真宙が参加の了承を得て、持っていたサッカーボールの入ったネットをぶんぶん振り回して喜びを表現する様、電話を受け取った亜紗が綿引先生を探して校内を駆け抜けていく様。そのカットバックが気持ちいい。物事が動く瞬間の、なんともいえない喜びと情熱が見事に表現されているからだ。
かくしてオンラインで全国の人たちと「スターキャッチ」ができると気づいた亜紗たち天文学部の部員は、これこそが「今できること」であると気づき、そのことに夢中になって行動していく。

©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会
そしてついにリモート会議を活用して、各地で同時に天体観測をする「オンラインスターキャッチコンテスト」がスタートする。この日のために、練習を積み重ねる円華ら五島列島の生徒たちや、円華に想いを寄せる男子生徒たちのフレッシュな恋。なぜか急に工場などに頼らず「自分ひとりでナスミス式望遠鏡を作る」と言い出す凛久の姿。台詞による説明は驚くほどにないのだけれど、それぞれが抱える心の動き、喜びも楽しさも悲しみも鬱屈も、すべてが会話というわかりやすい「声」の表現でなく、役者の演技で、監督の演出で「画」として見せていくのである。
これぞ映画だ。
映画としての面白味が詰まった作品なのだ。
意識を変えれば世界が変わる!!

©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会
しかもだ。コロナが始まってからは、役者たちはずっとマスクをしっぱなし(映画全体で言えば8割がマスク姿)で演技をするのである。目しか表情が見えない中での演技。それでも伝えるべきことはちゃんと伝わってくるし、だからこそリアリティにも直結し、観ている側にシンパシーを与えてくれるのである。
その上でこの映画は大事なことを教えてくれる。それが「意識」のこと。確かにコロナは多くのことを奪った。私たちの生活を大きく変えた。ネタバレになるから全部は言えないけれど、映画の登場人物もたくさんの日常を奪われている。でもそれを「奪われた」という意識のままでいたなら、これはもう先へ進めない。失望、恨み、妬み、そんなネガティブな感情しか生み出さないからだ。
だが実際は彼らはオンラインによる「スターキャッチコンテスト」を作り上げることで、全国津々浦々の人々とつながることができた。それは綿引先生を始め、各学校の顧問の先生や、協力してくれた観測所の所長・才津勇作(近藤芳正)なども同じ。もしコロナ禍でなければ、先生たちも会うことすらなかったのだ。
そう考えていけば、決して悪いことだけではなかったのだ、コロナ禍の影響は。いろいろ奪われたこともあったけれど、新しい何かももたらしてくれた。店を続けられなくなり、新しい生活を余儀なくされた人もいるだろうが、その新しい生活で得られたことも多いはずなのである。
つまり考え方ひとつで物事は良くも悪くもなるのである。認識を変える。その柔軟性こそが、新しい世界への扉を開くことを、この映画は教えてくれる。ちょっとしたことだけれど目からウロコを体験させてくれるのが、この映画の素晴らしさであり、醍醐味なのだ。
ごく小規模な形でスタートしながら、口コミで話題となり、ロングラン上映になりつつあるのも納得。この夏、ぜひアナタも映画館で体感してほしい。
- Movie Data
監督:山元環
原作:辻村深月
脚本:森野マッシュ
出演:桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな、和田庵、萩原譲、秋谷郁甫、近藤芳正、岡部たかしほか配給:東映
2025年7月4日より、絶賛上映中
(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会
『この夏の星を見る』公式サイト
- Story
2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大。
全国の学校では登校することすらできなくなる状況に。ようやく学校の登校は認められても、部活動は禁止されたり、活動時間が制限されたりと閉塞的な状況は続いていく。そんな中で茨城県立砂浦高校の天文部に所属する2年生・溪本亜紗は、リモート会議を活用し、各地で同時に天体観測をする競技「オンラインスターキャッチコンテスト」を提案。東京都の孤独な中学生・真宙は同級生の天音に巻き込まれてこのコンテストに参加することに。また家が観光業に携わっていたせいで、親友から距離を置かれた長崎・五島列島に住む円華は、新たな出会いを得てコンテストへ。そんな彼らが起こす奇跡とは!?
文:横森文
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横森 文(よこもり あや)
映画ライター&役者
中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。
2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。
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