2019.01.10
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AIがあるから英語は勉強しなくていいか

英語教師ならば,「なんで英語を勉強するの?」という本質的な問いを子どもからぶつけられたことがあるのではないでしょうか。 最近は,小学生からもそんなことを尋ねられます。子どもからそんなことを聞かれたら,あなたはなんと答えますか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭   常名 剛司

AIが英語教育を変えるのか

数年前に市の教員研修プログラムでマレーシアに1ヶ月間英語研修に行かせてもらいました。マレーシアの英語教育センターで教えてもらった英語に関するAIテクノロジーの発達に驚かされたことを今でも鮮明に覚えています。iPadにインストールされた「Google翻訳」のリアルタイム翻訳を使って,iPad内蔵のカメラを向けた身の回りの英語が,マレー語にリアルタイムで翻訳されたのを見て,ここまでAIが進んでいるのかとびっくりしたとともに,「もう英語の勉強なんかしなくてもいいじゃん」と思ったものでした。

身近なAIでは,スマホのアプリなどのリアルタイム翻訳で,スマホに日本語で話しかけると,英語に翻訳してスマホの中のAIが英語で喋ってくれるものがあります。また,日本語を検索エンジンに打ち込めば,即座に割と正確な英語で翻訳できます。AIがあれば,英語の勉強なんてしなくてもいいんじゃないかと,みなさんも思ったことはありませんか?

英語の勉強をなぜするのか

子どもたちはこう考えます。「別に英語ができなくたって,ここは日本なんだから,みんなが日本語を学べばいい。英語ができなくても何も困らない。現に今の生活で英語を使うことは全くないし,英語ができなくても困っていない」いや,むしろ子どもだけでなく,大人もそう考えている人が相当数いるとも言えるでしょう。確かにそうかもしれませんが,今困っていないからといって,この先も困らないとは言えません。また,最低限生活に困らない程度でいいのかという疑問も思い浮かびます。

①世界で最も使われている言語だから

およそ60程度の国が英語を公用語や準公用語としています。英語を話す人々の合計は18億人程度と言われています。もちろん世界に存在する言語の中で最も使用人口が多いです。これは,英語ができれば70億人以上の世界人口の中の25%に当たる18億人と道具を使わないで意思の疎通ができるということです。1億2千万人が使用する日本語だけでは,世界人口の1%しか意思疎通ができないのです。ちなみに英語の次に使用者数が多いのが中国語(北京語),ついでヒンズー語になるそうです。いずれの言語も使用者の地域が偏っていて,現在のところ世界共通語とは言えません。英語ができると世界の18億の人々と友達になれます。日本語だけなら1億2千万人だけです。どこに行っても「英語ができない」「言葉が通じない」というコンプレックスやストレスから解放されますよね。

②英語ができないと生活に困る時代がやってくるから

東京オリンピックや少子化による労働者人口の減少を補う政策などにより,日本を訪れる外国人が急増しています。日本政府観光局(JINTO)の平成29年の調査(※1)によると,ここのところ訪日外国人客は過去最高を更新し続けて年間3千万人に迫る勢いです。つい先日,日本政府が外国人労働者受け入れ拡大の方針を決定しました。急増する外国人を生活者として受け入れていくということです。日本の人口が1億2千万人なのに,その1/4に当たる人々が日本に来るのです。コンビニや居酒屋で働く店員が外国人であることが普通に見られるになっている時代です。子どもたちが働く職場に,外国人がいることは普通にあることでしょう。

(※1日本政府観光局(JINTO) 訪日外客数・出国日本人数データ)

③自分で話さないとニュアンスが伝わらないから

かつてゆとり教育時代に算数の教科書の問題に電卓のマークが記載され,立式ができれば計算は電卓でやればいいという時期がありました。電卓という文明の利器を使って,計算というある程度単純な部分は機械に任せて,立式などのより高度な思考を必要とする部分を学習するという風潮がありました。ところがどうでしょう。その結果,計算練習をないがしろにしたために子どもたちの基礎・基本の力が損なわれ,その単純と思われた計算でさえ満足にできないという自体が多々見られたのです。漢字の学習は,辞書やパソコンがあるから必要ないのでしょうか。そうではないと思います。昨今のAI翻訳の時代に「もう英語を自分で学習する必要がない」というのは極論です。AIを通してコミュニケーションをとることで,微妙なタイムラグが発生してしまい,ポンポンと言葉のキャッチボールをするような会話はできません。日本人同士が面と向かって日本語で話したって,誤解や齟齬が生じてしまうことは多々あります。それが,AIによるロボットが翻訳した言葉なら,なおさら細かなニュアンスなど伝えられる訳がありません。コミュニケーションは,自分の言葉で自分の思いを語るから,言いにくいことでもなんとか分かってもらえるのです。子どもが問題行動を起こした時に,小さな問題ならば連絡帳に少し起こった出来事を書くくらいでいいでしょう。もう少し大きな問題の時は,電話を使います。さらに大きな問題の時は,家庭訪問をして顔を見ながら話をするでしょう。それは,顔を見ながら自分の言葉で話をすることでより正確に伝えたいことを伝えられるからですよね。教師ならばそんな経験をたくさんしてきていると思います。

④英語ができると自由になれるから

アフリカに住んでいた時に,よく一緒にテニスをしていたアメリカ人の友達がいました。その人は,アメリカ人だったのですが,スイスの企業の駐在員としてUAEで仕事をした後に,タンザニアに赴任していました。英語ができると世界中のどこに住んで,どんな仕事もできるのだと目を見開かれました。教師の仕事も同じです。英語ができれば,世界中にあるインターナショナルスクールや現地校で教師をすることができます。日本という枠ではなく,世界をフィールドに自由に生きていけます。子どもたちにもそんな可能性に気付かせてあげたいと思っています。

英語は単なるツールであるという言葉をよく耳にしますが,そのツールが使えることでどれだけ自分の可能性を広げることになるのか。夢が広がりますよね。

次回も身近な英語教育に関する話題を読者の皆様に提供したいと思います。よろしくお願い致します。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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