2017.08.29
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大学入試の変化にジタバタしない!~授業改革先取りセミナーの報告をかねて~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

大学入試が変わるというインパクト

平成32年度からセンター試験にかわり「大学入学共通
テスト」が実施されます。英語の「4技能評価」、国語や
数学の「記述式問題」の導入などが話題になっていますが、
今年(平成29年)5月16日、ついに「大学入学共通テスト」
記述式問題のモデル例が公表されました。
共通テスト実施初年度に受験するのは今の中学3年生、
来年度高校に入学する生徒たちです。
記述式問題モデル例は採点基準も公表されており、
実際にどのように指導していくのか、ここから具体的に
考えていくことになります。もっとも中高一貫校では
私学中心に、今の中3が中学校に入学した2015年度
から新しい取り組みを始めている学校も多いようです。
学校教育の目標は大学入試でいい結果を残すこと
だけではないですが、大学入試がかわるということは
学校現場に大きな影響を与えています。
学習指導要領の改訂も控えていて、ここから各学校は
自校の教育力を今まで以上に問われることになります。

こうした背景もあり、この夏、日本教育新聞社とナガセが
タッグを組んで実施している夏の教育セミナー(今年で
4回目)のテーマは「新テストに向けた主体的・対話的で
深い学びにつながる授業改革」でした。
全国12会場で実施されているこのセミナーはすべての
会場で、文科省関係者の方による講演、国数英3教科
のモデル問題解説、トビタテ留学JAPAN紹介、分科会
(国数英)という内容で実施されています。私も8月7日
に博多で登壇させていただく機会を得ました。

今回はその時の話題を中心にしながら、新入試導入の
背景を考え、入試対策という小手先のことにふりまわされ
ない教師の指導のあり方について考えたいと思います。

教科を越えて共有する課題があるのかもしれない

博多での教育セミナーは英語科の講師として安河内哲也
先生が登壇されました。個人的に安河内先生の本は愛読
していたので、お会いできてうれしかったですが、
それはさておき安河内先生のプレゼンは英語教育について
門外漢の私にも大変わかりやすいものでした。
(さらに実はトビタテJAPAN!のプレゼンをしたのは本校
から文科省に出向している水口先生でした。まさかの
共演で、このセミナーに2人も講師を出す学校は他にない
だろうと話をしてお互いに励ましあいながら乗り切りました)。

安河内先生は英語の力を見るにあたって4技能(読む・
聞く・話す・書く)がいかに大切かということを強調され
ました。そして世界の大学は4技能しか認めていない
ことを強調されました。今の日本の英語教育は2技能
(読む・聞く)に偏っているが、学習指導要領は4技能
を明記しており、現状は大学入試による影響が大きい
と言われました。

もっともセンター試験でも4技能は意識されており、
アクセントの問題や文の並べ替え問題の出題は
話す・書くを問うためだそうです。しかしながら、
テストは対策も実施されます。アクセント問題や
文の並べ替え問題がいくら4技能の話す・書くを
意識しても、予備校や塾、学校などによるテスト
対策を経て、受験生はマークを塗るだけ、そして
英語が話せない大学生を量産してしまっている
ということでした。自分自身がセンター試験を受験
したときのことを思い出し、また今の自分の英語の
現状(話せない)も考えると大変納得できる説明でした。

私は数学の新テストの傾向として、数学を数学的文脈
でしか使えないということが明らかになった「OECD
生徒の学習到達度調査〜2012年調査分析資料集〜」
の結果も紹介しながら「問題の背景の明示」
「考え方や何がわかればいいのかを聞く」「活用を聞く」
の3点を指摘しました。
国語の滝井先生のプレゼンもあわせて考えたときに、
国数英の3教科が共通して抱えている課題があると思いました。
3人のプレゼンから改善すべき点を考えると、
(テストで点がとれても)英語が話せない、文章が書けない、
数学で学んだことを数学のテストでしか使えないということ
になります。これらを一言で表現すると「学んだことの活用に
課題がある」ということなのかもしれません。

スポーツでは基礎の練習をするだけでなく、その基礎を
試合などで使い、その結果を次の練習につなぎます。
基礎練習ばかりするようなところがありません。
このようにスポーツの世界では当然のように行われている
「学んだことを活用し、次の学びにつなぐ」というプロセスが
教科教育ではまだまだ不十分、またはテストの中での活用
にとどまっているのかもしれないと思いました。

安河内先生は「入試をどう変えても対策はされる」と言われ
ました。しかし対策がされても、4技能テストが実施されれば、
テスト対策の中で実際に生徒が英語を話し、英語を書く場面
が多数生まれる、それは決して否定されることではないとも
指摘されました。私はこの視点は大切だと思います。
数学のテストをどう変えてもその対策はされるだろうし、
パターン演習の形にしたがる人はいるかもしれません。
でもその過程で数学の知識が生きていく上で重要だと分かる
場面が生まれるなら、それは悪いどころか、今でも熱心な
先生が実践されていることです。新テスト実施で、そうした
実践が広がり、生きていく上での数学の重要性が今まで以上
に認知されるかもしれない。そのように考えられるように
なりました。

重要なのは入試の変化よりも高大接続!

ここまで書くと、では新テストにむけてどうやって指導したら
いいのだろうという疑問がわいてくるかもしれません。
このことを考える前に、新テスト導入の背景をおさえる必要
があります。
「学校間接続の課題」。大学入試センター審議役の大杉
住子先生はセミナーの冒頭でこのことを強調されました。
多様な高校の教育課程の多様な大学のカリキュラムを
どのようにつなぎ、質の高い学びをどのように保証して
いくのか。この問題意識を理解しなければ、今回の
新テスト実施を含む改革は理解できません。
そして大学入試ばかりが取り上げられる今回の教育改革
が、実は高校や大学すべてにかかわるということにも
気づかないかもしれません。実は現在大学でも大きな
改革が進行中なのです。

そもそも学力には3つの要素があります。それは
①「基礎的・基本的な知識・技能の習得」,
② 「①を活用して課題を解決するための思考力・判断力・
表現力など」,
③ 「主体的に学習に取り組む態度」です。
従来の入試では①ばかりが重視されていました。
一方で③についてはテストで測りにくいものです。
今回の調査書の改訂はこのためです。
テストで測りにくい③の学力を入試という選抜、さらに
いえば高大接続の資料として使うための調査書が
必要となり、そのための改訂なのです。
ここまで考えると新テストで②が重視されることの意味が
分かります。そして今回のセミナーの各教科からの
プレゼンからも、②は日本が育てるべき学力なのです。

入試問題を変えることは別の意味もあります。鹿毛先生の
「学習意欲の理論」によると、人の主要な動機付けは
「外発的動機付け」「内発的動機付け」「達成動機付け」
の3つありますが、入試は「達成動機付け」そのものです。
そして達成動機付けの場合、内容の理解のレベルは
課題や評価方法の要求に依存します。たとえば丸暗記知識
が要求されるなら、内容理解は丸暗記レベルの浅い理解
にとどまるのです。逆に深い学びが要求されれば、内容理解
も深くなるということです。だから大学入試という仕組みその
ものがなくならないことを前提とするならば、深い学びを要求
するような入試問題にすることで、学習者は深い学びをする。
つまり入試によって生徒の深い学びが実現できる可能性が
あるのです。

入試改革の背景には高大連携という問題意識があり、その
背後にはこれからの社会を見据えた次期学習指導要領が
ある。今回のセミナーには登壇者として参加させていただき
ましたが、結果的にこうしたことが理解できる1日でした。

具体的な指導、それは「教科を通じて育てたい力は何か」
を明らかにし、それを可能にする授業を考えることにほか
なりません。数学の分科会では授業実践を通じて、
ここについても詳しく説明しましたが、今回は省略します。
「何をどのように学び、何ができるようになるのか」。
この問いを考えた上で授業をすることこそが、結果的に
新入試対応の授業改善につながるように思えてなりません。
大事なことは私たち教員の見る視線でしょう。
自分の教科だけを見て、目の前の大学入試だけを
考えるのか、生徒の将来を見据え、他の教科の考え方や
実践にも触れた上で、自分の教科を考えるのか。
この少しの視線の違いが積み重なった時に大きな差に
なるのでしょう。

セミナーの報告については、9月の日本教育新聞で紹介
される予定です。よろしければご覧ください。

お読みいただきありがとうございました。今回は自分たちの
学校のこれからの教育実践の誓いもかねて書きました。
ここに書いたものは残ります。数年後実践を振り返った時に、
ここに書いたことが具体化できていると胸を張って言える
ように、また実践を積み重ねたいと思います。

私の連載は次回で最後となります。最後は少し大きなテーマ
で書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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