2017.06.06
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アクティブラーニング×教科の未来

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

教科横断型の分科会

「あなたは授業を通してどんな生徒を育てたいですか?」

今回はこの問いの答えを考えながら読んで
もらえたらと思います。

前回は3月末に東京大学で開催された「授業改善
リーダーのためのアクティブラーナーズサミット2017」
について報告しました。今回はサミットの中でも、
特に授業についての分科会の報告を中心にします。

教科教育を通して自然とアクティブラーナーを
育てていくための、教科の垣根を越えた極意に
ついて考える。こんな大きな目的で分科会は
設定されました。司会は中原淳先生、報告者は
東京都立両国高校の布村奈緒子先生(英語科)、
東京都立駒場高校の木村裕美先生(家庭科)、
そして酒井(数学)の3人でした。 

学校の中心である各教科の授業。
授業がどうあるのかはこれからの学校のあり方を
考えるときの中心テーマであるべきでしょう。
一方で参加型授業の実施率が教科によって
大きな差があることからもわかるように、
教科の特性ということは無視できません。
しかしながらアクティブラーナーを育てる
ということは、学校全体で教科を越えて取り組ま
なければ成果が見えないことも事実です。
またマナビラボのスタッフの方も取材をする中で
「教科ごとの実践や課題が学校の教師に共有
されていない」ということを感じるケースが何度も
あったとのことでした(本当にその通りだと思います)。
教科を越えて共通する課題と教科特有の課題、
これらはわけて考える必要がありますが、
特に高校では授業の話は同じ教科の教員と
することが多く、教科を越えて話をして自分の
教科を少し客観的にみるという機会はありそうで
ありません。

「アクティブラーナーを育てるという教科の特性を
越えるべきテーマを考えるのだから、参加者も
報告者もあえて教科横断型にする」。
こうした考えのもとに、分科会は設定されました。

3人の報告内容

はじめに布村先生から英語の実践報告が
ありました。布村先生はご自身の経験から、
いわゆるアクティブラーニング型授業の良さを
語られました。そしてご自身はコミュニカティ ブ・
ランゲージ・ティーチング(CLT)をしていると
言われました。CLT には
「意味のやりとり(negotiation of meaning)」
という考え方が基礎にあり、それを必ず
言語活動に入れなくてはいけない。
英語で参加型授業という時に、それが単なる
リピート・アフター・ミーで、思考を伴っていない
ケースも少なくないようですが、大切なことは
思考を伴うやりとりなのです。

そのため布村先生は授業でWhyを大切にされ、
生徒が意見を述べるときの型として、
「OREO」(Opinion:意見, Reasons:理由,
Explanations:説明, Opinion:意見)を意識
させているとのことでした。

「思考を伴う」。これは数学でこそ実現できること
だと思っていた自分にとって、英語でこのような
実践がされていることには大変驚きました。

布村先生はマナビラボのインタビューでも
「英語はツールにすぎない」と繰り返し語って
おられましたが、発表を聞き、この発言に大変
納得しました。まず大切なのは、(言葉でなく)
興味・関心や 自分なりの問題意識で、
それについて自分はどう考えるのか、
説明したり伝えたりしたくなったときに英語が
必要になるのです。つまり授業の中でも英語で
コミュニケーションをとる「必然性」があるという
ことが重要。布村先生の授業実践の背景にある
考えは数学にも共通して言えることだと強く
感じる報告でした。

次に報告したのが自分でしたが、数学でこそと
思っていた「思考」を先に言われてしまったので、
それに対抗して(?)まずは「数学は最も
グローバルな言語である」ということを伝えました。
また数学は結果的に役に立っているが、
それが結果でしかなく、そもそもは多くの人が
「解きたい」「知りたい」「明らかにしたい」という
思いを人生の目標にかえて取り組んできたから
今がある学問です。だから数学は存在そのものが
アクティブラーナーの夢が集まったものであること
を説明しました。その後自分自身の授業実践や、
授業を通して目指していることについて報告しました。

たとえば数学で人が読んでもわかる答案を書くと
いうことは大変重要です。しかし一歩間違えれば、
生徒は減点されない答案を丸暗記しようとします。
布村先生は「英語でコミュニケ―ションを取る
必然性があることが大事」と言われましたが、
数学でもこれは同じで、きっちりした答案を書く
必然性があることが大事なのです。
そして生徒―教師のコミュニケーションはどうしても、
正解を持っている教師と正解を探す生徒という
構図になりやすいです。だからこそ授業でも
数学の中身についてのやりとりを生徒同士でする
という過程が大切で、それはもしかしたらアクティブ
ラーニング型授業と言われる授業かもしれません。
英語と数学に共通点を見つけた瞬間でした。

最後に木村先生から家庭科の実践報告が
ありました。家庭科は生活全般にかかわる学問
ですが、木村先生は「知識を活用しながら行動する
練習を授業で行う」ということを意識されています。
ポイントは行動でしょう。「行動したいと思う」、
「行動する計画を立てる」というレベルでなく、
「実際に行動する」レベルということにこだわって
おられるのです。そのため大学のリーダーシップ
教育のプログラムを活用しているとのことでした。

ある特定の人(クラブの部長、会社の社長など)に
必要だと勘違いされやすいリーダーシップですが、
そうではなく誰もが発揮できるもので、権限や役職
に関係なく大切なものです。そしてリーダーシップも
スキルなので練習が大切なのです。
木村先生は家庭科の授業の中で生徒が
リーダーシップを発揮できるように1年間の授業を
デザインされています。報告では生徒の感想も
紹介しながら、身体で感じる当事者意識を持って
ほしいこと、そして自分の人生はより良くできる、
自分が一歩踏み出せば世の中だって変えられる
ことを感じてほしいと強調されました。

数学でも、「まずやってみよう」と思う気持ちが
重要であることが多くの先生が言いますし、
獲得した知識をどのように活用するのかが大切
ということはずっと言われ続けています。
数学と家庭科で教えている内容は全く違うけれど、
根底にある「なってほしい生徒の姿」は
実は似ているのかもしれないと思った発表でした。

教科が違うのでアプローチは違う、だけど思いは同じ。
そして大切なことは手法ではなく、こちらの思い・ねらい
であり授業を通じて育てたい生徒像である。
こんなことを感じた報告でしたが、読者のみなさまに
伝わったでしょうか。

報告者3人の授業や考え方についてもっと詳しく
知りたい方は、マナビラボのページをご覧ください。

育てたい生徒像は教科を越える

3人の報告後、再び中原先生にマイクが戻り
グループワークの時間となりました。
テーマは「育てたい生徒像」。
みなさんならどのように答えられますか。

「人生にオーナーシップを発揮」「生涯まなび続ける生徒」
「知りたい!学びたい!学ぶことは楽しいと思う生徒」
「社会は自分たちでよりよいものにできる。知識は
創りだせるという感覚を持った生徒」
各班からの発表ではいろいろな意見が出ました。

これらを聞きながら思ったこと、それは
「育てたい生徒像があってこそ実践がある」
「育てたい生徒像は教科を越える」ということです。

アクティブラーニングという言葉が広がった時に、
形だけグループにしている授業が
「形あって学びなし」と批判されました。
表面的な言葉や実践には流行があるかもしれません。
しかし「育てたい生徒像があって実践がある」
ということは時代と関係ありません。
育てたい生徒像を考え、授業の中でそれを実践
しようとしたときに、授業は自然と参加型になる
だろうし、人はそれをアクティブラーニングと
呼ぶのかもしれません。

また「数学は一つのツールに過ぎない」ということも
大切です。偶然数学に興味を持ち、数学が好き
だった自分は、数学を通して生徒にいろいろな
メッセージを伝えています。木村先生にとっては
それが家庭科で、布村先生にとっては英語だった
ということなのでしょう。

同じ教科の先生とばかり話をしていると、
ついついその教科の世界の中だけで物事を
考えてしまいます。しかし学校という場で教科を
通して人を育てるということを考えたときに、
教科の世界だけでは完結しません。教員は
教科というツールを通して生徒にいろいろなことを
伝えますが「育てたい生徒像は教科を越える」のです。

布村先生や木村先生の報告を聞き、参加者との
ディスカッションを通じてこんなことを考えました。

「答えのない問いに立ち向かう」ことの大切さが言われます。
より良い教育とは?、より良い授業とは?、
こうしたことはまさに答えのない問いなのかもしれません。
だからこそ、最適解を見つけ実践し続ける、
これが成長し続ける教師というものなのかもしれません。

中原淳先生はアクティブラーナーを育てることは
日本教育の挑戦、世直しと言われました。
分科会での他の報告者の発表や参加者の議論
を聞いているとその意味が今までよりわかるように
なった気がしました。
教科を越えるということは仲間が増えるということ。
アクティブラーナーを育てるという共通言語のもと、
みんなで協力して挑戦していけるような気が
してきました。皆さんはこの報告からどんなことを
感じられたでしょうか。

お読みいただきありがとうございました。
気がつけば6月になりました。蒸し暑いこの時期、
いろいろしんどくなる時期です。

次回は話題をHRにかえて、この時期だからこそ
担任がするべきことについて書きたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

参考資料
  • 中原淳・日本教育研究イノベーションセンター編著 『アクティブ・ラーナーを育てる高校―アクティブ・ラーニングの実態と最新実践事例』 学事出版 2016
  • 山辺恵理子・木村充・中原淳編著『ひとはもともとアクティブ・ラーナー!: 未来を育てる高校の授業づくり』 北大路書房 2017

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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