2017.05.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

アクティブラーナーを育てる!~東京大学でのイベント報告を兼ねて~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

アクティブラーナーズサミット2017

「アクティブラーニングということばを聞くが、
 どの程度現場に浸透しているのか?」
「アクティブラーナーを育てる授業とは?」
「なぜアクティブラーナーを育てることが大切なのか?」

こうしたことに興味のある方はぜひこの記事を
お読みいただければと思います。読み終えた後に
この問いの答えが出ればうれしいです。


2017年3月26日、東京大学で「授業改善リーダーの
ためのアクティブラーナーズサミット2017」が
開かれました。会場のキャパシティーなどの関係で
広く宣伝されたイベントではなく、対象も
教育委員会指導主事の方・教育センターの
研修担当者・高校管理職の先生でしたので、
多くの方はサミットの存在さえも知らなかったかも
しれません。しかし今の日本の高校の実態を知る
という点でも、今後の授業作りなどを考える上でも、
貴重な情報がふんだんに盛り込まれたサミットでした。
今回と次回の2回にわけてサミットの報告をしたいと思います。 

冒頭で中原淳先生は「教育機関と仕事の世界の段差
が大きくなっている。言いかえれば学生を仕事の世界に
出すときに必要な力が高度化している」ということを
指摘されました。企業での人材育成を研究されていて、
今の実情をよくご存じだからこその指摘でしょう。
同時に「(かつては存在した)終身雇用・
単純エスカレーター型の終焉」も指摘されました。
入れば終わりではないということは個人の主体性を
要求します。このときに大切なことは、
長い仕事人生を自分事としてどう生きるのかです。
そして社会の変化が激しく、学んだことがすぐに
陳腐化することを考えると、学び方そのものを
知っていること、学び続けることが大切になります。

自分はロストジェネレーションと言われる世代で、
かつてはなんとなく存在した「受験さえ勝ち抜けば、
大学では何をしていても就職できる。
就職さえすればそこでずっと面倒を見てもらえる」
などの神話が崩壊していく場面に直面しながら
生きてきました(中原淳先生も同世代)。
明治以降の近代化によって職業は選べるように
なりましたが、今あらためて、自由とセットについてくる、
自分の人生を自ら主体的に選ばないといけない
ということの難しさに直面しているのかもしれません。

アクティブラーニングのいま

社会が大きく変わる中で、学校はどうなって
いるのでしょうか?
サミットでは中原淳先生の講演に続いて、
木村充先生から全国調査のデータをもとに
アクティブラーニングの今が報告されました。
たとえば以下のようなことです。

1)参加型授業の各教科での実施率は(  1  )%
  (2015年度調査)。
2)2015年度調査と2016年度調査で参加型授業の
実施率を比較すると、一番実施率が伸びた教科は
( 2 )である。

みなさんは、上の問題の答えは何だと思いますか。
サミットではクイズ形式で、参加者に問いを投げかけながら、
こうしたことについて報告されました。
どのような学校が効果をあげているかなども
報告されています。
こうしたことはすでに報告書や映像として
まとめられています。興味のある方はぜひとも
マナビラボのページをご覧ください。
(ちなみに1の答えは43.9%、2の答えは数学です)

報告のあとはテーマ別ワークショップが行われました。
テーマは以下の6つです。
「アクティブラーナーを育てる授業作り」、
「アクティブラーニングの評価法を考える」、
「アクティブラーニング×教科の未来」、
「データを踏まえた授業改善の進め方」、
「アクティブラーナーを育てる学校づくり」、
「高校生と語る未来の学校」

研修の形を変えることの大切さ~伝え方を考える~

みなさんは研修という言葉を聞いて
どんなことをイメージしますか?

「講演や実践報告を聞き、一人で頭に詰め込んで、
帰る。帰ったら報告書を一人で書く」
こんなイメージではないでしょうか。

先に木村先生の報告について少し紹介しましたが、
今回のサミットでは伝え方・研修の形というものも
意識されていました。

「聞く・聞く・聞く」の研修ではなく、「聞く・考える・
対話する・ふりかえる」という形の研修にする。
木村先生の報告はサミット主催者のこの思いが
形になっていました。

報告は、出されたクイズに、自分で答えを出し、
答えを聞いて周りと対話をしながら進んでいく
というものでした。こうした報告では延々と資料の
説明をされることが多いのですが、今回は違いました。
その結果報告内容が自分の中に浸透していく
ことを実感できました。
一方でどうしても報告できる量は減りますので、
発表側はどれを伝えるのかの取捨選択が大変
だったとも後で聞きました。
調査結果については冊子も配布されましたので、
もし細かな情報が必要ならばいつでも調べる
ことができるようになっていたことも重要なポイント
だったように思います。研修のあり方を変える。
実は非常に大切なことなのかもしれません。

教育現場にいる立場として恥ずかしい話ですが、
学校では「アクティブラーニングだ!
みんな主体的になれ!」と言いながら、
生徒にメッセージが届いていないことに気がつかずに
ずっと演説ばかりしている先生もいるのが現状です。
これはアクティブラーニングの名を借りた、
超講義型授業とでも言えばいいでしょうか。
しかしこう書いている私自身、自分の説明で生徒が
わかったという顔をすると満足するのは事実で、
自分が語りたくなってしまうことは数多くあります。

一方的に話をして教えこんでも案外伝わらない
という現実、生徒たちは気づく力も学ぶ力もある
という生徒への信頼。こうしたことはもっともっと
強調されてもいいのかもしれません。
そして教員として、研修などに学ぶ側として参加
した際には生徒の気持ちになることができます。
今すぐできることは、学び手側になる機会を得て
生徒の気持ちになり、その上で自分の授業が
どうすればよりよいものになるのかを考えること
なのかもしれません。

このサミットで私は「アクティブラーニング×教科の未来」
という分科会で、中原淳先生司会のもと、
両国高校の布村先生(英語)、駒場高校の木村先生
(家庭科)と一緒に報告させていただくという機会を
いただきました。この分科会は参加者との
ディスカッション含め、大変密度の濃いものでした。
「教科は関係ない!考えていることは同じだ!」
これは報告した3人が共通して感じたことです。
これからの取り組みを考える際の重要なポイントが
満載の時間でした。

分科会の内容については、次回報告したいと思います。
お読みいただければうれしいです。

次回もよろしくお願いします。 

関連リンク
参考資料
  • 中原淳・日本教育研究イノベーションセンター編著 『アクティブ・ラーナーを育てる高校―アクティブ・ラーニングの実態と最新実践事例』 学事出版 2016
  • 山辺恵理子・木村充・中原淳編著『ひとはもともとアクティブ・ラーナー!: 未来を育てる高校の授業づくり』 北大路書房 2017

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop