2017.05.03
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

教師のキャリア形成~6つの局面から考える~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

自分の教師としての局面はどこ?

前回は専門家としての教師のキャリア形成について書きました。
大切なポイントとして以下の2つのことも書きました。
1)教師のキャリア形成には6つの局面がある
2)時間の流れとともに次の局面に成長するものではない。
 (成長できる先生とできない先生がいる)

今回は教師のキャリア形成の6つの局面について、それぞれの
局面の特徴や固有の課題などについて書きたいと思います。
読者のみなさんが教員なら、自分にあてはめながら読んで
いただければと思います。アメリカで研究された知見ですが、
その多くは日本にも当てはまると思います。

第一局面から第三局面~教師の前半期~

第一局面
(特徴)
正採用手前や教育実習、新採1年目の時期がこの局面に
あたります。この局面の先生は授業を進める上での基礎
などを身につけていきます。当初は自信がなく、先輩を
見るたびに圧倒されますが、徐々に自信もつけていきます。

(この時期の課題)
この時期の課題は学生から教師、学校から仕事への移行です。
まずは教室の現状に対応して授業を実施しつつ、教員としての
いろいろな業務をきっちりこなすことが大切です。
基礎的な教育技術を身につけることもこの時期の課題
になります。

(次の局面に進むために)
学んできた理論と目の前の実践を結びつけること、日常の
仕事をきっちり行うこと、メンターの教えを受けること、
こうしたことを経て次の局面に進むことができます。

第二局面
(特徴)
2年目や3年目あたりの、新人ではないけど見習い期間と
言える時期の先生がこの局面にあたります。自分で教える
内容を計画実行し、熱意や期待に満ちあふれ、いろいろなこと
を学び試していきます。一方で万能感を持ったり、
理想主義に走ってしまうことがあるのもこの時期の特徴かも
しれません。

(課題)
この局面では終日押し寄せる責任に圧倒される感覚を持ちます。
この時期に学校で活躍し、認められ受容されることや、
押し寄せる責任を自分の仕事で果たしていくことがこの時期の
課題になります。


(次の局面に進むために)
ワークショップなどで学ぶこと、教師同士での学びの場に
参加することなど、コミュニティーを形成すること。
こうしたことを経て、学校の外の人ともつながりながら、
次の局面に進んでいきます。

第三局面
(特徴)
一通りの仕事をこなし、一人前の仕事ができる段階です。
はやい人ならば4年目くらいでこの局面に到達するかも
しれません。この局面では生徒と一緒に活動し、
心の交流をすることに幸せを感じます。そして同僚とも一緒に
チームとして仕事を進めることができます。

(課題)
この時期の課題はスキルというよりも、精神的な部分です。
仕事上孤立しないこと、自分自身を成長させる機会をしっかり
確保すること、教職に対する情熱を持ち続けること
(倦怠感が生まれる時期でもある)、これらがこの時期の
課題です。

(次の局面に進むために)
自分の専門性の到達点や興味を明確にし、学ぶべきことに
気づくことが大切です。その上で、同僚との高めあいや、
相互に学習する機会への参加で最新の研究や優れた実践を
知ること、学内外での活躍(実践報告など)の場を持つこと、
こうしたことを経て次の局面へと進んでいきます。

ここまで前半期について書きましたが、いかがでしょうか。
時間の流れとともに次の局面に成長するものではないという
ことも伝わったでしょうか。第三局面に到達できる先生の方が
圧倒的に多いとは思いますが、残念ながらすべての先生が
ここに到達するわけではないというのが現実でしょう。
そして第三局面のところに書いた「次の局面に進むために」を
見れば明らかなように、次の第四局面へは少し高いハードルが
存在することも事実です。相互に学習する機会に自ら参加し
優れた研究を知ること、活躍の場を持つこと、
こうしたことはそんなに簡単ではありません。
しかし学び続けている教師には必ず訪れることです。

自分自身をふりかえると、新人で右も左もわからなかった
自分に丁寧に指導してくださった先生方、一生懸命に仕事を
することしかできなかった自分を認めてくださった先生方、
こうした先輩の存在があってこそ、一歩ずつ進んでこれたという
ことを感じます。恩返しではなく、恩送りという形で、
育ててもらったことへの感謝を行動にできればと思います。
読者のみなさんはいかがでしょうか。

第四局面から第六局面~偉大なる先生を目指して~

第四局面 
(特徴)
いわゆる主任・部長級とでもいうべき局面でしょうか。
生徒の反応を見て、当初の予定を修正しながらよりよい実践が
できる段階です。幅広い生徒に対応でき、他の地域の同じ局面
の教師と連携します。学内外のいろいろな組織で指導的役割を
果たします。
(第四局面の教員がそろったら強いだろうなあと感じます)

(課題)
忙しい時期ということもあり、専門的成長を遂げる時間を
見つけることが課題になります。同時に専門的才能を他の先生
たちと分かち合いたいという思いを満たすことも課題となります。


(次の局面に進むために)
学ぶ場を確保すること(サバティカルや県・国レベルの研修)、
新人へのメンター・指導役をすること、専門的学会誌などへの
投稿、チームのメンバーとして学校経営上の意思決定をする
こと、こうしたことを経て、次の局面へと進んでいきます。


第五局面
教員の指導者とでもいうべき局面でしょうか。第四局面に加えて、
情熱やリーダーシップやエネルギーがあり、使命感を伴った熱意
があります。


(課題)
省察する時間と学習する機会を確保すること、次から次へと
訪れる新たな挑戦に取り組むことが課題になります。
また年齢的なこともあり、家庭のことや身体的なことなど職務に
ささげられなくなる状況になりやすいこともこの局面の課題です。

(次の局面に進むために)
次の局面というより、成長し続けるためにという方が正確でしょう。
学会や国の組織で活躍すること、大学の授業担当や若手への
ワークショップ主催、新たなレベルの授業実践やコンサルのよう
な活動などをすることで、成長し続けることができます。

第六局面
定年退職後の局面です。定年退職しても専門的な知識を持ち、
教職への思いがある先生をイメージしてもらえればと思います。


(課題)
退職後なので、貢献の機会を見つけることや、新たな役割や
責任を果たすことが課題になります。新鮮で多彩な専門性に
挑戦することもこの局面の課題です。


(次の局面に進むために)
もう次の局面はありませんので、成長し続けるためにということ
になるでしょう。チューターや大学の非常勤講師、教育委員の
ような役割を務めること、若手のメンターとなり、
時にはワークショップを開催すること、教育研究会の役員をする
こと、こうしたことで成長し続けることが可能になります。

6つの局面を次の方向性を考える羅針盤に

6つの局面はどうでしたか。今の自分はどの局面だと思われ
ましたか。教師のキャリア形成は、アメリカの研究ですが、
教師として生きていく上で、自分の現在位置を確認し、
次への道を考える羅針盤のような役割を果たすということが
伝わればうれしいです。

民間企業では部長になってから部長としての仕事を考えるの
では遅いと言われます。常に一つ上の立場になったつもりで
仕事を考えろとも言われます。教師も同じでしょう。
自分自身一つ上の局面のことを考えながら、日々修行を
重ねたいと思います。そして次の世代を担う若手がこの6つの
局面を確実に進んでいけるように、微力ではありますが、
精いっぱい頑張ろうと思います。
キャリア教育にかかわったおかげで、教師のキャリアにも興味を
持つことができたと思っています。役割ではなく専門職として
教師のキャリアを重ねていきたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。
教師のキャリア形成についてはひとまずここまでにします。

3月26日に東京大学で「高校におけるアクティブラーニングの
「いま」と「これから」~『授業改善リーダーのためのアクティブ
ラーナーズサミット2017』」が開催されました。自分も少しだけ
プレゼンの機会をいただきました。次回から2回にわけてこの
サミットについて報告したいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop