2017.04.17
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教師のキャリア形成を考える

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

(役職ではなく)専門職としての教師のキャリア形成とは?

「キャリア教育は狭い意味で職業を考えるものだけではなく、
生き方そのものを問うものである」ということは少しずつ
共通認識になってきているように思います。
同じように、社会人のキャリアも、仕事上の身分・役職や
出世というものだけではありません。

多くの民間企業では役職が変わると仕事も変わり、
それを全うできるだけの能力を磨く必要があります。
教師はどうでしょうか?役職ということに限ってみると、
管理職になるのか、そうでないのかという道しかないよう
に思います。だから教師のキャリア形成については
あまり語られてこなかったのかもしれません。

しかし一方で、同じ担任であっても若手とベテランでは、
その力量に大きな差があることも多く、
教師にもキャリア形成(仕事を通じて職業能力を習得する活動)
のプロセスがあるように思えます。そしてそのキャリア形成は、
教頭・指導主事など役職の問題ではなく、教師としての力量
そのものにかかわっているように思います。

現場の教員から教育委員会を経て管理職になるというような
役職としてのキャリア形成を考えるのではなく、
「専門職としての」教師のキャリア形成を明らかにする。
実はこのことは、学び成長し続けようとする多くの先生にとって、
自らの次の成長を考える大きなヒントになるように思います。
管理職になるかどうかは、その人の考え方やタイミングに左右
されるところも大きいでしょうが、どんな役割を担うとしても、
教師として成長し続けることの大切さは変わりません。

みなさんは教師のキャリア形成のプロセスについて
どのように考えられますか? 

生涯成長し続ける教師の発達モデルを明らかにする~アメリカの挑戦~

生涯を通した教師のキャリア形成を明らかにする。
アメリカで多くの教師の調査をふまえた研究がすすめられ、
その結果が書籍として出版されました。
「教師」と一言で言っても、スペシャリストとして教師が
位置付けられることの多いアメリカと、
ジェネラリストとして位置付けられることの多い日本では
少し違いがあるかもしれません。しかし、教師という言葉が、
実践者として児童・生徒の前に立ち、教科指導をはじめと
する教育活動に携わる人たちを指すことが多い
アメリカだからこそ、(役職ではなく)専門職としての
教師のキャリア形成を明らかにできたのかもしれません。

この研究の成果は早稲田大学の三村隆男先生によって和訳され
「教師というキャリア」というタイトルで出版されています。
今回と次回の2回で教師のキャリア形成について紹介したいと
思います。これを読まれる方が学校の先生なら、
自分はどの段階だろう、成長するために次に必要なことは
何だろうということをイメージしていただければと思います。

教師のキャリア形成を考える際のポイントは2つ

教師のキャリア形成を紹介するにあたり大切なことが2つあります。

1)教師のキャリア形成には6つの局面がある

多くの教師を調査することによって、教師のキャリア形成には
第一局面から第六局面の6つの局面があるということが
明らかになりました。教師は専門職としての成長を進め維持
しながらこの道筋をたどっていくのです。
それぞれの局面を日本にあてはめると、第一局面は教育実習生
や講師の時期、第二局面は3年目まであたりの見習い期、
第三局面は教師として一通り仕事をし、一人前になる時期、
第四局面は主任や部長を経験する時期、第五局面は指導的な教師、
第六局面は定年退職後というようになるでしょうか。
この6つの局面については次回詳しく紹介しますが、
第四局面以上の教員がそろった学校が教育力の高い学校で、
それは可能であるということも指摘されています。

2)時間の流れとともに次の局面に成長するものではない。

1)で書いたように教師のキャリア形成には6つの局面があり、
第一段階から教員生活が始まります。しかし成長モデルは、
数年たてば次の局面に到達するというシンプルなものでは
ありません。それぞれの局面に固有の課題があり、
それをクリアしていくことによって次の局面に到達するのです。

専門家としての教師の成長を維持するのが、
「ふりかえり」→「新たな実践」→「その実践を内面化する」
というプロセスです。このときにフィードバックも大切です。
このプロセスこそが教師の成長を促進します。

逆に、「ふりかえり」→「新たな実践」のプロセスから
心理的に身を引いてしまうと、成長はストップします。
本の中ではこれを「ひきこもり」と名付けています。
初期のひきこもりに対しては、同僚や管理職の介入で脱却
できることも多いのですが、ひきこもりが慢性化すると
否定的な感情が表面化してしまいます。そうなると、
時として学校の教育プログラムの改善を進める上で、
目に見える妨害者となることもあります。
そして最終的に専門職としての教師の成長は終わります。  

向山洋一は20年以上前に出版された本の中で
「教師は20年経験したから20年もの技量があるというもの
ではない。20年の経験をしていても新卒程度の技量の人もいる
(それ以下の人もいる)。反対にさすがにすごいと思わせる
教師もいる」と指摘しています。
厳しい指摘であれど的を射た指摘です。
今回紹介した教師のキャリア形成からもこのことは説明できます。
スタートは同じ第一局面であったとしても、
成長を維持するプロセスを繰り返し、それぞれの局面固有の
課題をクリアして成長し続けている教員は、
20年もたてば経験とともに第4局面以上に到達し、どんな役割を
担ってもさすが!と思わせるだけの力量を発揮できるでしょう。
一方ひきこもりになってしまい、第一局面や第二局面で成長が
止まってしまう教員も残念ながら0ではありません。
それこそが「新卒程度の技量の人」なのです。


「教職とはキャリアに伴う成長を伴うものであり、優れた局面へ
確実に移行するためには、段階を踏まなくてはならない」。
書きながら自分を省みると、経験年数にふさわしい局面に進めて
いるのか不安にもなってきます。
しかしながら次の学習指導要領は教師の成長を強く求めています。
ここで明らかにされた6つの局面を参考にしながら、
自らの課題を考え、成長を維持するプロセスを繰り返すことで、
今より成長することは可能です。
これからも修行を重ねたいと思います。

ここまで読まれたみなさんは、「自分はどの局面だろう」
「一般的に自分の局面での課題は何だろう」ということが
気になっているころと思います。
こうしたことについては次回に書きたいと思います。

次回の原稿は5月3日アップ予定です。新年度も始まり心新たな
この時期に、まずは成長を維持するプロセスをまわしませんか。
自分に言い聞かせるために書きました。

お読みいただきありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします。

(参考文献)

教師というキャリア (三村隆男(訳))

授業の腕を上げる法則 (向山洋一)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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