2017.02.27
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

高校3年生という可能性~大学入試改革と同時に考えるべきこと~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

私事になりますが、現在高校3年生の担任をしています。
前回と今回の2回に分けて、高校3年生の過ごし方を
テーマに書いていますが、これが書けるのも、
まさに今の自分が直面している問題、
自分ごとだからだろうと思ったりします。
「課題を自分ごとにすること」、生徒にとってはもちろん
教員にとっても大切なのかもしれません。

前回の内容(大学入試改革と同時に考えるべきこと)

「大学入試が変われば、高校の教育は変わる」。
前回はこの言葉がどの程度正しいのかということ、
そして本当に変えるべきは大学入試だけだろうか
ということの問いかけから書きました。
みなさんはどう思われますか。

 たしかに高校生は高校を卒業する直前
(場合によっては卒業後)まで、大学入試の突破に
向けて頑張っています。しかし今ではそれは
高校3年生全体の30%あまりでしかないのです。
さらに高校3年生はクラブを引退する時期です。
クラブを引退し、進路も決まってしまった生徒にとって、
次の目標はどうあるべきなのでしょうか。

一方で高校という場の可能性の大きさも忘れては
いけません。朝や帰りのSHRで担任の先生が
生徒の顔を見て指導できるのは、高校が最後です。
教育という点で可能性の大きい高校だからこそ、
高校3年生の最後まで、生徒の学校生活の
デザインを考えてもいいのではないでしょうか。

受験というハードルを越えることで成長することも事実で、
最後まで受験を頑張る生徒はそれでいいのかも
しれません。受験というハードルに向かう生徒たちを
どう頑張らせるのかは、大学入試改革で議論される
べきことでしょう。しかしそれだけでは十分ではない、
そこに当てはまらない高校生も多い。
前回はこのようなことを書きました。
個人的には、入試だけでなく、大学(専門学校・就職先)
との接続という点で高校の教育をどう変えるのか
という部分の議論にも、もっと光が当たるべきだと思っています。

前回の記事については以下のページをご覧ください。
https://www.manabinoba.com/tsurezure/015793.html

今年度の挑戦と失敗

今年度の本校高3の取り組みについて紹介したい
と思います。
「本校のように推薦で多くの生徒が大学に進学する
学校にとっては、高校3年生の過ごさせ方こそが大切。
特にクラブ引退後の過ごし方が鍵である!」
このようなことを考えてから、少しでも思いを形にしたい
と思うようになりました。幸い今年度、高校1年生・
2年生と持ち上がった学年を3年生でも担任として
担当できることが決まりました。

一連の取り組みを「セカンドキャリアプログラム」と
名付け、教頭や主任とも相談の上、少しでも進めて
いこうとことになりました(予算などは全くないのですが)。

高校3年生になる直前には「先輩講演」として、
クラブ引退後の生活の過ごし方に成功した先輩と
失敗した先輩を招き、生徒はもちろん教員にも
クラブ引退後の大切さが伝わるような企画を実行しました。
そして3年生になり、クラブを引退する生徒も出てくる
時期に学年集会の場で
「高校3年生は進路を決定する時期であり、
またあらたなキャリアを実行するとき」とクラブ引退後の
セカンドキャリアの大切さを伝えました。
その中では、今は授業・テスト・学校行事+部活を
頑張っている人が多いけれど、クラブを引退すると、
クラブに費やしていた時間がフリーになる、
その時間の使い方が勝負であるという話をしました。
さらにセカンドキャリアは実は大人にとってもすごく
重要な問題で、濡れ落ち葉にならない定年後の
生活は大切だということも伝えました。
そして前回紹介したHくんの例など、高校3年生と
いう時期が持つ可能性の大きさも伝えました。

ところが、、、、

大切なことが抜けていたために、今年の
セカンドキャリアプログラムは失敗しました。
確かに高校3年生になってプロジェクトに取り組んだ生徒、
クラブ引退後に新しいスポーツを頑張った生徒も
いましたし、生徒や教員の間でも「セカンドキャリア」
という言葉が使われるようになったなどの前進は
ありましたが、全体としてはまだまだだと思っています。

抜けていた大切なこととは何だと思いますか。

今年を終えてわかったことは

「クラブ引退後の具体的なことをクラブ引退後に
考えたら遅い」ということです。

職員室で年配の先生とセカンドキャリアについて
話をしていたときに、「定年後のことを定年後に
考えても遅いって言われるからなあ。もしかしたら
一緒かもしれない」と言われ、このことに気づきました。
今年度の取り組みをふりかえると、生徒全体に
対しての話などはしたものの、個別に引退後の目標
を書かせたりはしませんでした。
その結果多くの生徒はクラブ引退後少したってから
セカンドキャリアのことを考えることになるのですが、
それでは遅かったのです。

クラブ引退後を大学進学後や就職後に置き換えても
同じことが言えるのではないでしょうか。

「大学進学後のことを大学に行ってから考えたら遅い」
「就職後のことを就職してから考えたら遅い」
どうですか?

将来のことを考えさせる指導の意味、
キャリア教育の重要性にも気づいた瞬間でした。

今年度の取り組みは上手くいったと言えませんが、
生徒や教員の中で「セカンドキャリア」が共通言語
になったことは大きな進展だと思っています。
これから数年かけてより具体的な形にしたいと思います。

教員・親以外の大人とのかかわりが高校3年生の鍵かもしれない

最後まで大学受験を頑張るわけではない生徒たちを
想定して高校3年生の時間の過ごし方をデザインする。

このときに、学校と社会をつなぎ、生徒たちが
教員や親以外の大人と出会うことが大切です。

社会福祉協議会の方とお話をすると、
「高校生との接点がない」とよく言われます。
小学校や中学校では何らかの形で地域とかかわる
生徒たちも、高校になると地域から切り離されて
いる現状があるとのことです。
もちろん高校は地域の学校に進学するわけではない
という事情もあります。しかしそれよりは高校生の
実態として、クラブ、課題、大学入試、LINEなどで
忙しく、家と学校(+塾・予備校)の往復に
なってしまっていることが大きいのではないでしょうか。

しかし高校3年生になると、自分たちで大人顔負けの
ことをする力を持っている生徒は少なくありません。
働き手としても高校3年生は十分に役に立ちます。
クラブを引退し、進路が決まった高校生の力を
必要としているところは実は多いのではないでしょうか。
そして高校生もそのような活躍できる場を必要
としています。いろいろな形が考えられますが、
教員や親以外の大人と出会うこと、そうした場を
デザインすること、ここに高校3年生の
セカンドキャリアを充実させるヒントがあるように思います。

12月に「高校生のPBLサポート会議」という、
自分たちでプロジェクトを行っている高校生の活動を
支援する場がありました。NPOカタリバ主催の
「マイプロジェクト」に向けてのイベントでした。
本校からも4人の生徒が参加させてもらいましたが、
参加した生徒たちは大学生や大人との関わりで
大きな影響を受け、その後の取り組みは大きく変わりました。
生徒たちが学校外の大人とかかわる可能性を感じた瞬間でした。

高校生が教員や親以外の大人と出会い、
一緒にプロジェクトを進める。そんな場が多数できれば、
日本全国の高校生はもっと大きく成長できるように思います。
そして忙しい高校生だけど、最後まで大学受験を頑張る
生徒以外にとっては、3年生のクラブ引退後という
時期は学校の外とつながるチャンスなのです。

大事なことは学校で抱え込まないことでしょう。
生徒がクラブを引退し、進路が決まっても、
教員の仕事が減るわけではなく、教師に余裕はない
という現実的な問題もあります。
次世代を育てるという大きなテーマについて、
高校3年生というチャンスに注目して、
学校外の人も含めて、大人みんなで取り組む、
こんなことが実現できればいいなと思います。

みなさんはどう思われますか?

次回で連載はラストになります。

今年度沖縄を訪問する機会があり、そこでこれからの
教育改革を進める大きなヒントをもらいました。
次回はこのことについて書きたいと思います。


お読みいただきありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop