2017.02.08
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大学入試改革と同時に考えるべきことは何?~入試が変われば高校の教育が変わる?~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

入試が変われば高校の教育は変わる?

この原稿がアップされるのは2月8日(水)。
高校はセンター試験を終え、私大入試も一段落、
ここから国公立前期入試という時期でしょうか。
ニュースでもセンター試験が報道され、
同じ仕事をしている友人からも、センター試験や
私大入試に向けての様々な取組み報告を聞きます。
自分自身のことを思い出しても、高校3年生の
1年間は悲しいかな大学受験に向けて頑張った
記憶しかありません。文化祭?体育祭??
一応ありましたが、、(ごく普通の公立高校出身です)。

一方で今年のセンター試験に関する報道では、
「残りわずかとなったセンター試験」という表現も
よく使われていました。

大学入試が変わる。

このことの中高現場へのインパクトは大きく、
2020年の大学入試改革に向けてすでにいろいろな
動きが始まっています。
特に中学校を持つ私学では、入試改革初年度に
あたる学年に対しての教育で
今までと違う取り組みが目立ってきています。

つい先日も神戸大学が「志」入試の導入を発表しましたが、
このように筆記による学力試験だけではなく
活動歴や志望理由等も活用する入試が国立大にも広がっています。

「大学入試が変われば、高校の教育は変わる」。

みなさんはこの言葉はどの程度正しいと思いますか。
そして本当に変えるべきは大学入試だけでしょうか?

今回と次回2回に分けて、このことについて書きたいと思います。

高3=最後まで大学入試を頑張るのは本当?

「高校3年生は卒業後までセンター試験や私大入試、
国公立2次試験があるから、教師も生徒も
クラブ引退後は他のことを頑張るのではなく、
最後(卒業)まで入試に向けて力を注ぐ」。

一見正しいように見えるこの言葉ですが、
どの程度現状を反映しているのでしょうか。

平成26年度学校基本調査によると、
大学・短大進学率(現役)は53.9%です。
一方で同じ年の大学入試を見ると、
一般入試で入学した学生の比率は56.6%。
かなり荒っぽい計算ですが、全体を1としたときに、
全体の54%の57%は0.54×0.57≒0.31なので、
一般入学を頑張る、つまり3学期になってもなお
大学入試のための勉強が必要な高校生は
全体の30%程度しかいないということになります。
就職する生徒、専門学校に行く生徒も、
そのほとんどは年内には進路が決定します。
浪人生の存在などを考えると、最後まで
受験勉強をする生徒はもう少しいるのでしょうが、
少子化とともに大学に入りやすくなり、
多様な入試制度が存在する中で、
早くに進路が決まる高校生が増えている
ということは紛れもない事実なのです。

現在の大学入試改革はあくまでも一般入試
としてくくられている部分の入試をどうするのか
という議論をしています。
しかし最後まで受験勉強を頑張る高校生は
約30%しかいないというこの数字は、
大学入試を変えてもその影響力は
わずか30%程度の生徒にしか及ばない
ということを示しています。
仮に大学入試改革が大成功したとして、
現在最後まで勉強を頑張る層の生徒たちの
学びや経験の質が大きく向上したとしても、
それは全体の30%程度に過ぎない。
では残りの70%の生徒はどうするのか?
このことはあまり指摘されません。

確かに大学進学実績によって学校の評判が
大きく変わることは事実です。
学校に大きく影響する大学入試改革に
注目が集まるのはやむを得ないのかもしれません。
しかし入試だけでなく、大学との接続という点で
高校の教育をどう変えるのかという部分の議論にも、
もっと光が当たるべきだと思います。
大学入試改革が高校と大学の接続を
よりよいものにするという問題意識から出発
しているからよけいにそう思うのかもしれません。

高校という場は、毎朝の登校や授業の出欠まで
日々細やかに大人がチェックできる人生最後の
教育機関です。そして高校だからこそ行事への参加
なども一定の強制力をもたせることが容易です。
大学が高校のようになっている例も最近よく聞きますが、
それは問題を先送りしているだけではないでしょうか。
教育という点で可能性の大きい高校だからこそ、
高校3年生の最後まで、生徒の学校生活の
デザインを考えてもいいのではないでしょうか。

高校3年生という可能性

6年前に生徒から教えられたことがあります。
キャリア教育部の企画として「夢プランコンテスト」
というものを実施していました。生徒から夢を募集し、
どれか一つを学校として応援するというものです。
そのときのリーダーHくんは、タイの高校とコラボ
しての環境改善運動に取り組みました。
タイの高校生とのコラボでは英語でのやり取りも
必要ですし、校内でプロジェクトにかかわる
メンバーを増やすことも必要です。
しかし彼は仲間を増やし、大学とも連携しながら
プロジェクトを進めていきます。

Hくんは中学校から本校に入学し、学習はもちろん、
テニス部でもキャプテンとして頑張っていました。
その頑張りがあっからこそのプロジェクト成功とも
いえるのですが、高校3年生というところもポイントです。
Hくんは5月にクラブを引退し、大学には推薦で
入学することを決めていました。
つまり、自分のエネルギーのほとんどを
プロジェクトにあてることができたのです。
実際Hくんは「クラブに注いでいたエネルギーを
すべてプロジェクトに向けた」と語っていました。

「クラブが終わってからの時間の過ごし方
ということについて考えさせられた」。
Hくん卒業後、本校の教頭がこのように言いました。
私もまったく同感で、大学に推薦で行くということは、
部活動引退後も高校3年生の最後まで
いろいろなことに挑戦できるということだと
Hくんに教わったように思います。

しかし今の全国の高校で、高校3年生という時期
は有効に使われているでしょうか?
高3で部活を引退し、さらに進路が決まっていく
生徒たちを見て、
「進路が決まってから生徒たちがだれている」
という発言が出ることはあっても、
実は彼らが力を持て余していることには
気づいていない高校も少なくないのではないでしょうか。

たしかに進路が決まっても定期考査など
通常の学校生活は続き、生徒たちが完全にフリー
になるわけではありません。
進学先からの入学前課題もあるでしょう。
何より生徒が部活動を引退しても教員の仕事が
減るわけではなく、生徒の部活動引退後の
ことなんて考える余裕さえもないのかもしれません。

しかし人生の中で、会社定年後のセカンドライフ
をどう過ごすのかはすごく重要です。
そしてそのはじまりは実は高校にあるのではないか、
最近こう思うようになりました。
クラブ引退後、進路もほぼ決まった状態での
残り少ない高校生活は、セカンドライフと似た面が
あるのかもしれません。そして高校3年生は、
高校として教育できる最後のチャンスです。
このチャンスをどのように活用するべきなのでしょうか?
そして本校のように推薦で多くの生徒が大学に
進学する学校にとっては、高校3年生の
過ごさせ方こそが学校の特色になるのでは
ないだろうかとも思っています。

Hくんの活動については以下のページをご覧ください。

http://www.ujc.ritsumei.ac.jp/ujc/news/2010.php?eid=00601
http://www.ujc.ritsumei.ac.jp/ujc/news/2010.php?eid=00827

今年度本校ではこうした問題意識から、
高校3年生の過ごし方というものを生徒に
考えさせようと取り組みました。
クラブへの入部率が高く、推薦で大学に進学する
生徒が多いという状況から、特にクラブ引退後の
セカンドキャリアということについて
生徒に問いを投げかけました。
この取り組みについては次回書きたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。

 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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