2016.12.15
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学びを変える! 広島県の壮大な挑戦

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

今から1年あまり前のことになります。
8月下旬にクラブの試合を終えて携帯電話を見ると
学校から留守番電話が入っていました。
「広島県の府中高校から研修講師に来て
ほしいと電話があった」とのことでした。
「研修講師??府中なのに東京でなく広島??」
最初はそんなことを思いました。
翌日改めて電話でお話をすることができました。
それが中居先生との出会いでした。
キャリアガイダンスで見た「学ぶ意味を考える授業」を
実際にやってみたい。まずは教員対象に学ぶ意味を
考える授業を実施してほしい、そしてその後生徒対象に
実施するときに講師として来てほしいとの依頼でした。

学ぶ意味を考える授業を校外で実施。
キャリアガイダンス編集長の山下さんとは産能大
フォーラムで一緒に授業したことがありましたが、
自分だけというのは経験がありませんでした。
そもそも校内研修は受ける側なので、
自分が講師でいいのかという不安もありました。
そんなことを思いつつ学校で教頭と相談すると、
「いい機会だからお役にたてるのなら、
日程調整して行ってきたらいい」と言われ、
思い切ってお引き受けすることになりました。

結果的に中居先生や谷田先生、村上校長、
寺田課長とも出会え、そして府中高校や広島県の
大変すばらしい取り組みを知ることができたので、
あのとき「No」と言わなくてよかったと思っています。
そして府中高校の取り組みを見て、
学ぶ意味を考える授業はこのように活用することも
できるのだということに気づかされました。

「学ぶ意味を考える授業」を位置付けた総合的な学習(自己創造プロジェクト)

広島県では、広島版「学びの変革」アクション・プラン
に基づく新たな教育を創造するために「学びの変革」
パイロットハイスクールを指定し、「課題発見・
解決学習」に関するカリキュラム開発や
「学びの変革」を推進する中核教員の養成などを
行っています。
府中高校は探究コアスクールに指定されています。
府中高校では授業改善の取り組み、
総合的な学習の時間だけでなく特別活動と部活動や
学習の仕方にもストーリーを作成して、
3年間の成長モデルを見える化していること、
教科をこえたICEモデルの推進などなど
様々なことに挑戦されており、
取り組みレベルの高さに圧倒されました。
言葉としては聞いたことがある「校長(管理職)の
リーダーシップ」というものも、村上校長とお話し
させてもらう中で、これがリーダーシップなのだと
実感することばかりでした。
その府中高校ですが、総合的な学習の一環として
自己創造プロジェクトに取り組まれていて、
高校2年生の秋のテーマが「なぜ学ぶのか」でした。
当時高校2年生の学年主任だった中居先生は
キャリアガイダンスで学ぶ意味を考える授業を見て、
自分の学校でも実施したいと思われ、校長の許可
をとり、私に連絡をくださったとのことでした。
「自分の学校でやりたい。だから来てほしい」ではなく、
「自分の学校でアレンジした形の授業をしたい。
だからまずは教員に授業してほしい」という依頼
からもその思いの強さは伝わってきました。

9月末に教員研修という形で私が先生方に授業を
させていただき、その後11月に中居先生が
メインファシリテーター、私がサブという形で
高校2年生全員を対象に「学ぶ意味を考える授業」
を実施しました。前半はキャリアガイダンス掲載
のものとほぼ同じ授業ですが、後半は市川伸一先生
の論をモデルに議論する内容を組み立てた、
まさに府中高校版にアレンジした授業となりました。

広島県の挑戦、府中高校のその後

「学びを変える」「コンピテンシーの育成を目指した
主体的な学び」。言葉でいうのは簡単ですが、
実践へのハードルは極めて高いです。
今回府中高校とご縁ができ、広島県が本気で
このテーマに取り組んでいることがよくわかりました。
11月の高校2年生対象の授業には広島県教育委員会
の寺田課長も来られていたのですが、
寺田課長の所属が「学びの変革推進課」。
教育委員会でこんな部署名を聞いたのは初めてでした。
研究指定の取り組みも、各校で取り組みを進める
のはもちろん、同時並行で中核教員の育成もされていました。

広島県は平成31年度、大崎上島に全寮制中高一貫の
グローバルリーダー育成校(GL校)を開校されます。
GL校のパンフレットもつい先日公開されました。
こうした大きな取り組みと並行して、地道に学びの変革
にも取り組んでいる。
GL校にスポットが当たりがちですが、このことは
もう少し広く知られてもいいように思います。
そしてこうした地道な取り組みを着実に進めている
ことこそが教育県たるゆえんなのでしょう
(このあたり、本校も学ぶべきところが多いと感じました)。

府中高校では特別授業終了後に、時間をおいての
振り返りを実施し、さらに新年に学びへの決意を
書かせることも実施されました。
特別授業が単発の取り組みではなく、カリキュラムの
中にしっかりと位置付けられていました。
(ここも本校が見習うべきところだと感じています)
そして今年度、自己創造プロジェクトはより進化しました。
「学ぶ意味を考える授業」は高校1年次に実施し
(そのために教員研修も実施していたのです)、
高校2年生ではシティズンシップ共育企画・代表の
川中大輔先生を講師に迎え、
「学ぶことは社会をどうつながっているのか?」
をテーマとした取り組みをされたのです。

TTPではなく、TTPSが大切!

ある実践を徹底的に真似をして(ぱくって)実践する
(TTP)、それは悪いことではありません。
そしてある取り組みを実践し、そこに一定の成果
があれば、次年度もまったく同じことをしようと
考えたくなるのが人間の性なのかもしれません。
しかしそれだけでは不十分であることを府中高校
から学んだ気がします。
大事なのは「TTPS」、徹底的にぱくって、
それを進化させる(進化させ続ける)ことです。

「変化の激しい時代だからこそ、学び続ける力が大切」。
よく言われることですし、広島県の学びの変革
アクションプランでも強調されています
(文科省が発表している文書でも同様です)。
たしかにその通りでしょう。そして私たち教員は
生徒にこのようなことをいうことが少なくありません。
しかしこの言葉は他人事ではありません。
生徒にだけ学び続ける力求めるのではなく、
教師も身を持って示すべきことです。
もう少し「自分ごと」として大人からこの言葉が語られる
ようになれば、学校も教育ももっとよくなるでしょう。

府中高校でこうした取り組みが可能な背景に、
校長のリーダーシップ、現場リーダーである主任級の
教員の熱意と姿勢、それらを受けて前向きに頑張る
職場風土などがあることは事実です。
でも一方で(リーダーシップあふれる校長の存在がなくても)
実は現場の一教員でも、よき職場風土をつくることは
できるでしょう。SNSなど他校の教員ともつながりやすく
なっている今だからこそ、このことは以前よりも
やりやすくなっているのではないだろうかとも感じます。

「TTPS」。
自分自身おかげさまですばらしい先生と出会い、
よき実践の資料をいただけることも少なくありません。
TTPSをして、お互いに高めあえていけるよう、
実践を重ねていこうと思います。

お読みいただきありがとうございました。
2016年の掲載はこの記事で終わりになります。
次回は1月です。新年はじめなので、
人生全体にかかわるような記事を書きたいと思います。

今年1年ありがとうございました。
よいお年をお迎えください。

 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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