2016.10.21
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

働くことについて考える授業の作り方

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

なぜ「働く意味を考える」授業を教員がするのか?

前回、働く意味を考える授業のリメイクということについて
書かせていただきました。

10月10日発行のキャリアガイダンス(リクルート)にも
取り上げていただき、「自分たちも作ってみたい」という
声を多くいただきました。同時に「なぜこんな教材を思いついたのか」
「どうすればこんな授業が作れるのか」という声もいただきました。

今回は、これを読んだ方が授業を作れることを目標に、
教育つれづれ日誌を書いてみたいと思います。

多くの場合、学校では外部講師を招いての講演会で
「働く意味について考えさせる」ことを実施しているようです。
それは大切なことでしょう。しかし外部講師を招くとなると、
日程調整・費用などの事務的な問題に加えて、どんな方をお招きしても、
講演内容がその方の働き方に大きく左右されてしまいます。
教員が話を聞くだけでお客様になってしまうという欠点もあります。

教員も一社会人であり、日々働いています。
しかし忙しく、ストレスも多い日々の中で「なぜ働くのか」という問いを考える
機会はあまりありません(これは教師だけに限ったことではないでしょうが)。
しかし自分自身、教員ではない人たちと話をする中で、
教師として働けることの良さや、教育・教師の大切さを実感するときは
少なくありません。そして教師の多くは、「生徒のため」
「教育を通して社会を良くする」などある種のロマンを持って
この仕事を選んでいることも事実です。
「働く意味を考える授業」を教師が作るということには、
「教師が働く意味を考える機会を作る」という隠れたねらいもあります。
今回作った授業の1時間目で最後の5分間、教師が自らの仕事の魅力
について語る場面がありますが、生徒に対して「教師という一社会人として語る」
ということはもちろん、語ることで自分の原点を見つめなおすというねらいもあります。

このように書いてきましたが、学校内部の世界で生きている教員だけが
生徒とかかわる限界はもちろんあります。
本校でも外部講師の方の講演は多数実施していますし、
CSLでも働くことについて考える授業の初回は外部講師の方をお招きします。
「外部講師による授業+α」のαの部分を考えることこそが教師の役割だと考えています。

授業完成までの手順

山を登るとき、まずは頂上を見上げませんか?

ゴールを確認してから一歩を踏み出す。
自分は授業づくりも全く同じだと思っています。

「ゴールを設定すること」。
これが授業を考える時にはじめにすることです。
その授業が終わった時に生徒にどのようになってほしいのか?
授業を通してどんな力をつけたいのか(考えさせたいのか)?
こうしたことを考えます。
つまりはじめにすることは授業目標の設定です。

次に「評価」です。目標に到達しているのかどうかを、
どのように測るのか。
数学ならば「問○ができる」などわかりやすく設定することも
できますが、キャリアの授業ではそんなに簡単ではありません。
でもここで目標への到達度をどう測るのかが明確になるか
どうかが授業の完成度に大きく影響するように思います。

ここができたら「素材」を探します。
簡単ではないですが、授業の目標や評価がはっきりすれば、
探すべき素材のテーマがわかります。そうするとアンテナが立ち、
ふとした瞬間に見つかります。本やインターネットなど資料検索は
容易な時代です。探すべきテーマを持っているかが大事だと
感じています。偶然見たTVで「使える!」という素材に出会うことも
あります。

次に素材を活かし、ゴールへ到達する「組立て」を考えます。
この組み立てが指導案やワークシートに反映されます。
もちろんこのプロセスは一方向ではありません。
素材を見て授業の組み立てを考える中で、当初考えていた目標が
変わることもあります。

ここで授業は仮完成ですが、CSL授業の場合、ここから
パワーポイント作成という仕事もあります。また、一度仮完成した
指導案で教員対象に授業をやってみたほうがいいでしょう。
今回も教員対象に授業をする中で、「将来と現在のつなぎが弱い
から、もう少し将来の仕事と今の学校生活とをつなぐワークを入れ
よう」などということに気づきました。
そして授業実施、ふりかえり と進んでいきます。

ここに書いたことをきっちり理論・体系立てたものが
「インストラクショナルデザイン」でしょう。
いろいろな入門書もありますので、詳しくはそちらをお読みください。「逆向き設計」の理論もあてはまるのでしょうか。
いずれにせよちゃんと理論もあるので、そんなに間違ったことは
していないのだと思っています。

授業を作り上げる

キャリアガイダンスで取り上げていただいた今回の授業は
上の手順で作りました。
今回は若手の徳地先生にも大きく関わってもらうと決めたので、
徳地先生に目標・生徒に考えさせたいことや大雑把なシナリオを
まず考えてもらいました。ゴールをもう少し具体化して、
授業の目標を3つ決めました。さらに「評価」としてワークシートの
どこで目標到達度を測るのかを決めました。

今回の授業では1時間目はいろいろな大人の事例から働く意味を
考えると決めていました。そしてマズローの欲求段階説が考えを
整理するのにいいだろうと思いました。そんなことから、
大人への働く理由アンケート、好きなことを仕事にしている人
(広島の黒田投手)、働きたくない人の意見などを素材として
使いました。また「エジプトのピラミッドの話」「レジ打ち女性の話
(動画)」は必ず使いたいと思っていたので、授業の中に入れました。
さらにRITA-LABOさんとコラボできたおかげで、JALの事例を
教材で使えたのも大きなことでした。

2時間目はジグソー法的なワークで深めてほしいという思いが
ありました。またこの時間に働くことを「自分ごとにさせたい」と
考えていました。ワークで読みこませる資料にはテーマが必要です。
何度かの検討を経て「家族」、「自己実現」、「社会を変える」、
「しんどいけど楽しい」とキーワードが決まり、それにあわせた
資料を見つけることができました。

今回一番の問題は「自分ごと」にするということでした。
働くことを生徒たちの今の高校生活とつなぎたい。

そんなときヒントになったのは田坂広志さんの「仕事の報酬」という
本でした。仕事の報酬は「成長」「目標」・・・・「地位」「友人」「仲間」
「未来」。

この本を読んでいて大きなことに気づきました。
それは「働くことは生きること」ということです。
このことに気づいたときに、生徒たちも高校生として生きていると
いうことに気づきしました。人生も高校生活も有限で、そんな中で
人は少しでも有意義な時間を過ごそうとしています。そのために働き、高校でもいろいろなことに挑戦します。高校生と働くこととが少しだけ
つながった瞬間でした。

文章にするときれいにまとまりますが、授業づくりは難しい作業でした。特にキャリアガイダンスの山下編集長とは何度もお会いし、
そのたびに授業内容の打ち合わせをしました。お金+αという考え方、ブックオフ社長の話、家族を取り上げることなど山下編集長との
打ち合わせからうまれたものは少なくありません。何より教員と
接する機会が多い自分にとって、教員ではなく仕事を創りだすという
社風のリクルートで長年お仕事をされている山下さんとの話は
貴重なものでした。さらにRITA-LABOの方との打ち合わせで
理論的な整理もできました。学外の方と協働で授業を作ることは
大変だけど教師として大きな経験になるということを実感しています。

一度作った授業ですが、実施してみると改善点にも気づきます。
CSLで高校1年生に授業する前に、少し改善しようと考えています。
今回のプロセスも、授業作りについて研究されている方から見ると、
足りない部分もあるでしょう。ご助言いただければうれしいです。

お読みいただきありがとうございました。

私事ですが、東京大学の「マナビラボ」チームのメンバーと一緒に
10月2日に九州大学の教育方法学会に参加・発表させていただき
ました。テーマは「高等学校におけるアクティブ・ラーニング型授業
の展開〜全国実態調査の事例と個別の事例から〜」です。

次回はこのことについて報告したいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop