2007.09.18
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

カレーのふるさと 【食と歴史】[小6・社会科]

第十四回目のテーマは「カレーのふるさと」。キャンプの定番、カレーにある深い歴史を探りましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

カレー スパイス

 カレーは子どもたちが大好きなメニューの一つです。調理が簡単で大量に作ることもできるのでキャンプの必須メニューともなっています。
インドのローカルな食べ物であったカレーは、18世紀に植民地支配をしていたイギリスによってヨーロッパに紹介され、そののち世界中でポピュラーな食べ物となっていきました。身近な料理のカレーですが、意外な一面を持っています。
6年生社会科の「文明開化」の学習にカレーを取り上げてみました。

カレーの具は何だろう?

 「カレーライスの絵を書いてみよう」という活動から授業は始まりました。ワークシートにはお皿の絵だけが描かれています。子どもたちはカレーの具やご飯、ルーを楽しそうに描き出しました。

「カレーには何が入っているかな」と聞くと、子どもたちからは
「タマネギ」、「ジャガイモ」、「ニンジン」などが出てきました。
「大事なものが入っていないよ」と再び聞くと、
「ご飯!」
「そうそう」
「カレー粉!」
「これも忘れていたね」
こうして「米」、「ニンジン」、「肉」、「カレー粉」、「タマネギ」、「ジャガイモ」というカレーの材料が確認できました。

カレーの具のふるさとはどこ?

 次に「これらの材料はいつごろどこから来たのかな」と問いました。
米は弥生時代に中国、朝鮮から入ってきたことはすぐにわかりました。他の食材については説明をしました。
「ジャガイモは17世紀にインドネシアのジャガトラ港からオランダ船によって伝えられました。原産地は南アメリカのアンデス高地です」
「タマネギは18世紀にオランダ船によって長崎に伝えられました。原産地は西アジアと言われています」
「ニンジンは中国から17世紀に日本に伝えられました。原産地はアフガニスタンです」……
と、進めていきました。
 

 そして「肉はどうだろう」と問いかけると、
「明治になって食べるようになった!」
「そうだね」
「資料集に『牛すき』ってあったよ!」
「そう、文明開化によって肉を食べる習慣が広がりました」と話を続けていきました。
 

「では、カレー粉はどこから来たのかな」
「インド!」
「インドはカレーの生まれた国ですが、日本に来たカレーはインドからのものではありません。どこから来たのでしょう。食べ物が日本にやってきた時期には特徴があるからそこから考えてみよう」
 

「日本が外国と盛んに貿易をしているときだ!」
「安土桃山から江戸!」
「明治のはじめ!」
 

「じゃあ、相手国は?」
「オランダ!」
「中国!」
 

「明治時代ならどこでしょう」
「ヨーロッパに違いない!」
「イギリスかな?」
「そうです。日本のカレー粉はイギリスから輸入されました」

ワークシート「カレーライスで歴史を学ぶ」
ワークシート「カレーライスで歴史を学ぶ」

文明開化のカレーの中身って?

 「明治になって、日本人はカレーを食べるようになりました。さて、そのころのカレーはどんなカレーだったと思いますか」
子どもたちは当然、明治時代までに日本に入ってきている「ジャガイモ」、「ニンジン」、「タマネギ」は使われているものだと考えました。
 

 ここで明治5年の『西洋料理通』と『西洋料理指南』に載っているカレーのレシピを紹介します。材料を読み上げると子どもたちはびっくり。
なぜなら「バター、長ネギ、生姜、ニンニク、海老、鯛、牡蠣、鶏肉、赤蛙」というレシピだったからです。
 

 タマネギではなく長ネギを使い、ジャガイモやニンジンを入れず、鯛や赤蛙も具にするカレーを知ると、みんな大変驚きます。今では定番のジャガイモ、タマネギ、ニンジンは、当時はまだ一般的ではなかったのです。

戦争がカレーを広めた

 そしてカレーが一般に広がるのは日露戦争を境にしてからです。子どもたちに
「カレーが一般に広がるのは、ある大きな事件があったからです。なんでしょうか」
そう聞くと、
「有名人が食べた」、「震災があった」となかなか鋭い発言があります。そこで、
「カレーのよい点は何だろう?」と問うと、
「おいしい」
「はやく作れる」
「栄養がある」
「たくさん作れる」
「どこでも作れる」
「だれでも作れる」
「キャンプで作るよね」
「あっ戦争だ!」
「そうです。軍用食品として最適だったので軍隊に採用されました。戦争が終わると元兵士たちが家族にカレーの作り方を教え、どんどん広がっていきました。身近な食べ物にも深い歴史があるんですね」
 

 自衛隊の船では毎週金曜日にカレーを食べるのだそうですが、それはイギリスの海軍をまねしたという話をテレビで見たという子どもがいました。
身近なカレーから食文化の発祥や伝搬、変貌や交流の歴史に関わる興味深い事実を学ぶことができました。

(文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえ、みうらし~まる〈黒板〉)

授業の展開案

カレー粉はターメリックやクミンなどたくさんのスパイスから作られています。どんなスパイスが使われているかを調べてみましょう。
 

毎日食べている野菜はどこから来たのでしょうか。野菜の来歴を調べてみましょう。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop