2007.04.17
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コンニャクと灰 【食文化と科学】[小6・総合・理科]

第九回目のテーマは「コンニャクと灰」。理科の学習を通して伝統的な食品作りの中にある"科学"への理解を深めましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

灰はおもしろい

蒟蒻

 6年生の理科の学習では水溶液の性質を学びます。「水溶液には、酸性、アルカリ性及び中性のものがあること」「水溶液には、気体が溶けているものがあること」「水溶液には、金属を変化させるものがあること」が内容です。アルカリということばは、アラビア語の「灰」に由来しているそうです。灰は教材としても興味深く、灰を水に浸したときに得られる上澄みをあく(灰汁)といい、強いアルカリ性を示します。

 また灰を使うとえぐみ、渋味、苦味などの原因となる成分(こちらも「あく」と呼びます)を除くことができます。これを「あく抜き」といいます。さらに昔話の『花咲か爺さん』に出てくる灰はカリ肥料なのだそうです。「枯れ木に花を咲かせましょう」とは、お爺さんが草木灰を撒いて、樹勢の弱っていた桜の木に栄養を与え、花が咲くようになったということを意味しているといいます。

 そこで歴史学習の農業技術の進歩・発展の中で草木灰を活用したことと、理科の酸・アルカリの学習の両方をつなぎながら、さらに調理の知恵としての灰を取り上げて学習しました。子どもたちは先人の努力に驚くと共に、灰を使った調理法が科学的にも根拠があることを知り、納得していました。

 教科の内容を理解させるために取り上げた灰の教材でしたので、灰のアルカリ性を確かめれば理科の時間は終わりでしたが、ここでおもしろい話が飛び込んできたのです。

コンニャクを固めるのに灰を使う!? 

コンニャクを固める
コンニャクを固める

 「コンニャクを固めるのはソバガラの灰でないといかんな。昔はいろりの真ん中の灰を使いよった。あく(灰汁)を入れてよく混ぜて、手が重たくなるくらいになったらあくをつけながら丸めるんじゃ・・・」。

 これは地域のお年寄りの方に聞いた話です。ソバガラとは収穫した後のソバの茎のことです。あくは、ソバの茎を燃やしてできた灰を水に入れて作る上澄み液のことです。ふだん食べているコンニャクはコンニャク芋をゆでてどろどろにつぶして作ります。固めるのに、なぜソバガラの灰を使うのだろうか、そんな疑問が生まれました。

 調べてみると、市販のコンニャクは凝固剤として石灰が使われていることがわかりました。石灰は水に溶かすと強いアルカリ性を示します。もしかしたらソバガラの灰はアルカリ性が強いのではないかと気がつきました。コンニャク作りを教えてくださる地域の方からも「あくがうまく作用しているコンニャクは、なめてみると渋くてぴりっとする」という話を聞きました。これはアルカリ性の強い水溶液の特徴です。

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ソバガラの灰のアルカリ性を調べる

 そこで、ソバの茎の灰はアルカリ性が強いことを確かめる実験を行いました。地域の農家からいただいた枯れたソバの茎を燃やして灰を作り、稲藁の灰、重曹、石灰水のpHと比べてみました。結果は、稲藁の灰9.7、重曹8.3、石灰水12.6、ソバガラの灰は10.7でした。確かにソバガラの灰の上澄み液は高いアルカリ性を示したのです。

 

コンニャクはすごい

コンニャク作りを学ぶ
コンニャク作りを学ぶ

  その後、コンニャク作りにも挑戦しました。3年モノの生イモの皮をむき、煮る、ジューサーにかけてつぶす、あくを入れて固める、ゆでる、の工程を経てコンニャクを作りました。子どもたちは地域の方の巧みな手さばきに感心しながら、薄くスライスしただけのコンニャクをしょうゆでおいしそうに食べました。

 「うまくゆでられるか」、「あくを入れて固まるか」、「あく抜きができるか」、というコンニャク作りの難しさも実感したようです。子どもたちは教えていただいたおばあちゃんのことを「すごい!」と言っていました。手さばきだけでなく、「ソバガラの灰の強いアルカリ性を利用してコンニャクを固めている、科学を理解しているんだ!」と幸せな誤解を伴って地域の方を尊敬するようになったのです。

 生のコンニャクイモは、ネズミでも食わないほどまずいといいます。それを灰のアルカリ性を利用して固める先人の知恵と食文化の深さに深く感心する学習となりました。

(文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえ、みうらし~まる〈黒板〉)

授業の展開案

調理では灰をあく抜きのもととしてよく使います。その他、灰はどのように利用されているか調べてみましょう。
 

コンニャクは収穫できるまで3年かかります。コンニャクの栽培の様子を調べてみましょう。

 

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