2007.01.23
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水あめ作り 【科学・食品】[小6・理科]

今回は食物をよく噛むことでどのようないいことがあるか、徳島県阿波市立市場小学校教諭・藤本勇二さんの実践事例をもとに理科6年生の「消化と吸収」の学習から発展的に扱った3時間の学習を紹介します。「食」にかかわる伝統的な知恵を科学で明らかにしてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

「だ液は汚いもの」という見方を変える

 「消化と吸収」では、食物が体内で消化・吸収されるしくみを学びます。よく噛むと消化がよいというのは、「だ液の中にある酵素がデンプンを糖に変えるため」です。このような働きをする酵素を「消化酵素」といいます。ご飯を口の中でよく噛むことで、かすかに甘みを感じるようになりますが、これはだ液に含まれるアミラーゼという酵素によって、ご飯の主成分のデンプンが糖に分解されたからです。

 口に入った時点から消化は始まっています。食物にだ液がよく混ざり、だ液に含まれる消化酵素により消化が促進されて、胃腸の負担を少なくするのです。だ液は食物を消化するために大切な働きをしています。しかし子どもたちは、だ液を汚いモノ、不要なモノと考えています。そこで簡単な実験をします。

 おかゆを透明なカップに入れてヨウ素液をたらします。青紫色に変化することを確かめた後、だ液を落とします。青紫色に染まっていたおかゆが次第に透明に変化します。この実験を通してだ液に対する子どもたちの見方が変わっていきます。

 「1日1.5リットルのだ液が出ていると知ったときは驚きました。僕ははじめだ液は汚いと思っていたけど、実験をやって見るとだ液にはこんなにすごい働きがあり、味を感じることができるのもだ液のおかげだということがわかってよかったです」とひとりの子どもは感想を述べました。

胃腸薬や大根おろしで水あめを作る

  デンプンが酵素によって甘い糖に変化するという過程は、水あめを作る工程と同じです。そこで水あめを次のような手順で作りました。

 まずジアスターゼという酵素が含まれている胃腸薬を使って実験を行います。デンプンに水を入れてよくかき混ぜ、電子レンジでチンしてのり状にし、透明になってくることを確認します。酵素は高い温度では働かないためしばらく冷まします。胃腸薬(消化酵素剤入りタカジアスターゼ100%のものがよい)をのり状のデンプンに入れると、しだいにさらさらになってきます。水のような状態になったら鍋に移して焦がさないように弱火で熱します。ドロドロになったらできあがりです。

胃腸薬を使って水あめを作る 大根で水あめ完成!
胃腸薬を使って水あめを作る 大根で水あめ完成!

 続いてサツマイモに大根おろしを加えて水あめを作る方法にも挑戦します。胃腸薬に替えて、大根おろしに含まれるジアスターゼを使って、水あめを作るのです。サツマイモの皮をむいて輪切りにし、柔らかくなるまで蒸します。ボールの中でつぶしたサツマイモに熱湯を加えていもがゆを作り、そこに大根おろしを混ぜ、発泡スチロールに入れて保温します。5時間ほど保温していると糖化が起こります。液をふきんなどでしぼり、鍋でこげつかないように煮詰めてあめ状にします。

 子どもたちは、「おでんの大根の味がするよ」、「最後に大根の味が残るけど、甘い、美味しい、黒砂糖の味だ」と言って大喜び! また「大根おろしを入れてあめができることにびっくりした。うまくできているなあ」、「大根おろしを入れてあめができるなんて不思議だ」と驚いていました。

先人の知恵がいっぱい詰まっている七草がゆ

七草がゆ

  さらに七草がゆについて次のように説明しました。

 春の七草を知っていますか。「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」のことです。緑の乏しい季節に若い芽をふきはじめる七草を選んで1月7日の朝に食べる風習は平安時代からあったそうです。

 「すずしろ」は「大根」のことです。大根には、ジアスターゼが多く含まれています。ジアスターゼは、お餅やご飯を食べ過ぎてしまった時などに消化を助けてくれる働きがあります。胃腸薬もそういう薬ですね。白いかゆの中に緑の若菜という彩りのよさだけでなく、正月のごちそうで弱り気味の胃を休めるということや寒い冬に不足しがちなビタミンCを七草で補うという合理的な意味もありました。七草がゆには、先人の知恵がいっぱい詰まっているのです。

 理科の学びを通して「だから~なんだ」という実感のある食育を支えることができます。

(文:藤本勇二 イラスト:みうらし~まる

授業の展開案

大根だけでなく、どんなものにジアスターゼが含まれているかを調べるため、もやし、ミカン、リンゴ、キウイなどで試してみましょう。
 

ジアスターゼは加熱すると作用が失われます。大根おろしは生で食べる方法が一番効果的です。水あめを作るときに冷まさないで胃腸薬や大根おろしを入れて確かめてみましょう。

 
 

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