この はしの むこうに(vol.2) 【食とくらし】[小2・生き方]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第111回目の単元は「この はしの むこうに(2)」です。
日本では1秒当たり793膳の割り箸が消費されていると言われています。皆さんも、割り箸を使ったことはあることでしょう。しかし、「割り箸を使う」ということは同時に「捨てる」ということも意味します。割り箸になる木材も命。箸でいただくものもまた、命です。子ども達に、命を口に運ぶ道具の重みを知って欲しいと思い、「マイはし」作りに取り組むことにしました。
食と命を子どもの願いをもとにつないでいった、2年生「領域:生き方」の授業実践「この はしの むこうに」(全21時間)を4回に渡って紹介します。第1回に続き、第2回は、「マイはし作り」です(領域「生き方」とは、生活科〈3年生からは総合的な学習の時間〉、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習。詳しくは記事末の筆者プロフィールをご参照ください)。
捨てられるヒノキの端材を使って
マイはしを作ると言っても、どなたにお願いすればよいのか。情報をたどっていくと、地元福岡市にあるリサイクルプラザの「臨海3Rステーション」で、捨てられるヒノキの端材を使ってマイはし作り教室を不定期に行っているという情報をキャッチしました。しかも、材料費は100円です。命の授業をするにあたり、捨てられるヒノキの端材もまた命のかけらです。早速、臨海3Rステーションの方々に協力を依頼しました。
いよいよマイはし作り当日。まず、 ゲストティーチャーの方々から見せて頂いた色々な木材に触れる所から始まりました。
「いい匂い!」
「木によって匂いが違うよ」
大歓声が上がります。
「今日は、ヒノキという木を削ってお箸を作りますが、その削りカスを家に持って帰ってお洗濯のネットに入れてからお風呂に浮かべると、とてもよい香りがしますよ」
ゲストティーチャーからの一言に、子ども達はさらに目を輝かせます。
子ども達全員が作業台の周りに集まりました。もちろん、かんなで木を削ったことのある子どもは一人もいません。目の前には、箸の先が細くなるように、土台が斜めになった箸削り専用の木枠と職人さんが使うものと同じかんなが置いてあります。そして、個々の手の大きさに合った長さのヒノキの端材も(前もって長さを知らせて用意してもらいました)。この、まだ割り箸みたいなヒノキの端材 を、これから8歳の子ども達がかんなで削るのです。
子ども達は、今から自分がすることを一心に見つめています。
「お箸の面が四つあるでしょう。どの面も10回ずつ削る。これだけでいいのですよ」
ゲストティーチャーがかんなをかけると、ヒノキの香りがフワっと漂ってきました。
「うわっ、先生! いい匂い!」
「木は生きているんだね」
子ども達は、爽やかなヒノキの香りに癒やされながら、いつの間にかニコニコしながらゲストティーチャーの動きに合わせて削った回数を数えていました。
自分の箸を自分で作る
ここからが本番。友達とペアを組み、自分で箸を削ります。
「1、2、3、4……10! はい、次の面だよ」
「ええっ、お箸を右に回したっけ、左に回したっけ。どの面を削ったかわからなくなったよ」
等々、一喜一憂しながらかんなをかけていきます。
うまくかんなで削れない時には、コツを教え合い、自分達で見事に箸を削ることができました。ちょっと削りすぎて、先が竹串のように細くなった子どももいましたが、自分で削ったものが1番最高です。削りカスをしっかり集めて、見かけなんて気にすることなく、次の作業に進みます。
「先生、割り箸みたいだったのが、本物みたいになってきたよ」
「ツルツルしてきたよ、気持ちいい!」
「2本の太さを揃えるのが意外に難しいな……」
色々なつぶやきがあふれる中、子ども達はせっせとやすりをかけていきます。目の粗いやすりから、目の細かいやすりへと。
「自分の箸だけじゃなくて、家族の分も作ってあげたいな」
という声でした。名前を入れて、目の前の箸が「マイはし」となったからこそ出てきた思いです。
「先生、マイはしで早く給食を食べたいです!」
「この箸で食べたら、どんな味がするんだろう」
子ども達の期待は最高潮になっていました。そこでゲストティーチャーが一言。
「この箸を長く使ってもらうには、布にオリーブオイルを染み込ませて磨き上げる作業がいります。そうすると、オイルがちょうどよく水気を弾くので長く使えますよ」
「そうかあ、今のままじゃ割り箸と同じ色だからね」
と、子ども達は納得しました。
マイはしを仕上げて、さあ、いただきます!
「先生! もういいですよね。今日は、マイはしで食べられますよね」
「1日乾かして水で洗ってから、明日の給食で使いましょう」
「ええ~! もう1日……。早く食べたいなあ」
その時、待ち切れない子ども達の中の一人が、あることに気づきました。
「先生、明日はカレーだからスプーンです」
「ええ~! じゃあ、あさってですか」
がっかりする子ども達でしたが、
「せっかくマイはしで食べる1回目の給食だから、和食の日にしよう」
ということになり、和食の日まで待つことにしました。
待ちに待った和食の日。味噌汁にご飯、レンコンのはさみ揚げという絶好のメニューです。
「いただきます!!」という大歓声の後、マイはしでご飯をパクリ!
「先生! おいしい! なんで、いつもと同じ給食なのにおいしいの?」
「いつもの給食より10倍おいしい!」
「嫌いなものがあるのに、マイはしだと食べられるよ!」
「ずっと、この箸で食べる」
「家でも使いたい!」
何ということでしょう。自分で作った箸には、こんなにも子ども達においしさと感動を届ける力があったのです。これは、教師にとっても嬉しい誤算でした。給食はもちろん、完食! 残食ゼロ!
第2回は、ここまでです。次回は、マイはしで食べ続けた子ども達の変化「持ち方と食べ方」についてお話したいと思います。
山田 深雪(やまだ みゆき)
福岡教育大学附属福岡小学校 教諭
現任校勤務2年目。言語文化部(国語科)担当。
心から思うことや考え抜いたことを自分の言葉で伝えることを通して、人や社会とのつながりを築くことができる子どもを目指して日々実践を進めています。
領域「生き方」は平成25年、26年度の2年間「文部科学省教育課程特例校」の指定を受けて、生活科(3年生からは総合的な学習の時間)、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習です。本校は新たに、平成27年度より4年間、文部科学省研究開発学校の指定を受け「未来社会を創造する主体としての子供の育成」をめざし、新しい6領域の教育課程編成の中においても領域「生き方」の学習を継続しています。
平成28年2月12日(金)・13日(土)の教育研究発表会にて、研究1年次の成果を公開しました。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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