七輪やかまどで食事を作ろう~昔の道具と人々のくらし~ 【食とくらし】[小3・社会科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第110回目の単元は「七輪やかまどで食事を作ろう~昔の道具と人々のくらし~」です。
昔と今の台所の絵を比べる
教科書に記載されている昔と今の台所の絵を比べることから学習はスタートしました。昔の暮らしはどのようなものだったのか、絵を見てわかったことをノートに書きます。また、どのような道具があり、その道具は何に使うものなのかを考えました。子ども達は、
「この道具、見たことある」
「昔の道具は木で作られているものが多いみたい」
などとつぶやきながら、興味を持って、昔と今の台所の違いを比べていました。子ども達からは、次のような気づきや感想が出てきました。
- 昔は機械がなく、木や竹でできた道具が多い。
- 昔は家族皆で働いている。水は、井戸から運んでいる。
- 昔の道具(七輪やかまど)を使って、食事を作ってみたいな。
昔と今を対比させながら、昔の台所の様子や道具に着目させ、昔の道具について自分で調べたり、実際に使ったりしようとする意欲を高めることができました。
七輪を使って焼く
「七輪を使って昔の暮らしを体験します。何を焼いて食べますか?」
と、2時間目に問いかけると、餅、魚、肉、ナスやトウガラシなどの野菜という意見が出てきました。その中から、季節に合うものとして、餅と魚(サンマ)を選び、それぞれ焼いて食べることにしました。
初めに七輪で餅を焼きます。数日前に学校で臼と杵でついた餅です。強火で焼いていたグループは、すぐに餅から煙が出てきて黒焦げになりました。そこで、次からは火加減に気をつけながら弱火でじっくり焼いていました。すると、しばらくしてから香ばしい匂いがして、餅の真ん中がプクッと膨らんできました。子ども達は、時間をかけてじっくり焼くと上手に餅が焼けることに気づくことができました。その後、焼きたて熱々の餅に、自分達で育てた黒豆のきなこをつけておいしくいただきました。子ども達は、
「家で食べるお餅より柔らかくておいしい」
「まわりのカリッとした所が香ばしい」
などと言いながら、おいしそうに食べていました。この体験を通して、以下のような七輪の火おこしのコツを学びました。
- けし炭を使うと火がつきやすい。
- 強火で焼くとお餅や魚が焦げてしまう。
- 弱火でじっくり焼くとお餅と魚が上手に焼ける。
七輪にはおいしく焼くための工夫がされている――という気づきと学びがありました。この活動で、昔の人々の知恵や当時の暮らしの様子を、子ども達に体験的にとらえさせることができました。
かまどを使った食事作り
3時間目からは、校区にある古民家のかまどや囲炉裏を使って料理を作ります。地産地消の良さに気づかせるために、自分達が育てた米や野菜、地場産のコンニャクや豆腐、お茶などを使った食事を作ることにしました。子ども達に
「地域で採れたお米や野菜などを使ってどんな料理を作りたいですか?」
と尋ねた所、
「ご飯と、具沢山の鍋を作りたい」
と言う意見が出てきたので、それに決定しました。鍋の名前は、城東小学校の「じょうとう」という言葉を付けて、「じょうとう鍋」にしました。
次に、じょうとう鍋にどんなものを入れたいかを話し合いました。子ども達は、ハクサイ、ニンジン、シイタケ、コンニャク、豆腐、猪肉など、自分の家や地域で作られているものをどんどん発表していきました。そして、その中から自分達で準備できるものを具材にしました。猪肉も保護者の協力により用意することができました。子ども達が決めたメニューは次の通りです。
かまどを使って作る食事のメニュー
- ご飯(自分達が育てた米)
- お茶(後川の寒茶)
- じょうとう鍋(猪肉、コンニャク、豆腐、ハクサイ、ニンジン、シイタケ等)
ご飯を炊く手順
(1) 米を洗ってかまに米と水を入れる。(2) 薪をくべ、火加減を見ながら炊く。
じょうとう鍋の手順
(1) 大きな鍋に水を入れる。(2) 火をおこし、切ったハクサイやニンジンなどの野菜を入れて煮る。
かまどを使ってご飯を炊いたり、鍋を作ったりする体験は初めてなので、子ども達は戸惑いながらも楽しく活動をしていました。一番苦労したのが火おこしです。新聞紙から豆がら(豆から実をとった後のさや・枝・茎)に、小枝から太い薪へと順番に火をつけていくのですが、太い薪になかなか火がつかず、何度も新聞紙からやり直していました。それだけに、太い薪に火がついてかまどに大きな火柱が上がると、子ども達は大喜びをしていました。
ご飯炊きでは、おいしいご飯を炊くために、
「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな」
と言いながら、火加減に気をつけて作業をしていました。白い泡が次々に吹き出してきた時には、焦げずに上手にご飯が炊けているか心配になって、
「蓋取ってお米を見たい!」
と言っていましたが、そこはぐっと我慢していました。
ご飯が炊き上がり、いよいよ蓋を取る時が来ました。そっと蓋を開けると、ぱっと白い湯気が上がり、その奥に真っ白なご飯が炊き上がっていました。炊き上がったご飯をしゃもじでかき混ぜると、周りにはほどよい焦げ目もついていました。
じょうとう鍋は、大きな鍋に昆布とカツオ節で出汁をとり、その中に切った野菜や豆腐などを入れて作りました。子ども達は、
「次、私と代わって」
と言いながら、おたまでゆっくりかき混ぜたり、アクを取ったりする作業を楽しんでいました。煮立ってくると、辺りには鍋のおいしそうな匂いがしてきました。
出来上がったじょうとう鍋で、ご飯をおかわりしている子がたくさんいました。多めに作っていたご飯と鍋も子ども達の食欲ですっかり空っぽになりました。
昔の道具を使った食事作りの感想
「ご飯をかまどで作る時に、火加減が難しかったけど、うまく炊くことができた。炊き立てのご飯は、とてもおいしかった」。
「城東小学校の校区で採れたハクサイやニンジン、地域で作られている黒豆味噌や豆腐、コンニャクで作ったじょうとう鍋を何杯もおかわりした。昔の道具を使っても、こんなにおいしい料理が作れるなんてびっくりした」。
「昔の人は、食事に手間をかけていたことがわかった。今は、炊飯器やコンロで簡単に食事を作ることができるから便利だと思う」。
「七輪やかまどなどの昔の道具を使うことを通して、過去の生活における人々の知恵や工夫に気づき、それらを使っていた頃の暮らしの様子について考えることができました」。
授業はこの後、「昔の道具を調べてみよう」「調べたことをもとに道具年表を作ろう」の学習へと発展していきました。
授業の展開例
- 昔のおやつと今のおやつを食べ比べしてみましょう。
- 自分の地域の郷土料理を調べて、レシピ集にまとめてみましょう。
高見 成幸(たかみ なるゆき)
篠山市立岡野小学校 教諭(実践時:篠山市立城東小学校 教諭)
地域の特産物を活用した授業を通して、食の楽しさを子ども達に味わわせると共に、ふるさとに愛着と誇りを持たせる食育実践を進めています。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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