2014.11.18
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門出を祝う「おせち」を作ろう 【食と文化】[小6・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第九十九回目の単元は「門出を祝う『おせち』を作ろう」です。

6年生総合的な学習の時間「上越の御馳走」では、それぞれの季節らしい郷土料理を作って食べてきました。主となる食材は毎回、子どもたちが自分の足で直接生産者を訪ね、購入しました。生産者の苦労や工夫等の話を聞くことで、それぞれの食材に込められた思いを知ることができたのです。

6年生のお正月は春からの中学校進学を迎える節目。これまでの「上越の御馳走」での活動を受けて、自分たちで門出を祝うおせち料理を3学期に作ることにしました。単元「門出を祝うおせち料理を作って食べよう(16時間)」の活動の概要を紹介します。本単元の配当時間は次の通りです。

第1次: 私たちの門出にふさわしいおせち料理を選ぼう(5時間)
……料理を考え、資料を作成してプレゼンテーションを行い、5品を選びます。

第2次: 御馳走集めに出かけよう(6時間)
……主となる食材の産地を調べ、生産者を訪ねて話を聞き、食材を購入します。

第3次: 御馳走を作って、食べよう(3時間)

第4次 : オリジナルレシピを作ろう(2時間)

門出を祝う「おせち」料理を作ろう

まず、自分達が食べたことがある料理名を出し合い、どの料理を作るか決めます。栗きんとん、伊達巻、黒豆、昆布巻き等、定番の料理の他に、ローストビーフやスモークサーモンなど洋風料理も出されました。中には、
「うちではおせち料理を食べない」
 という子どももいました。

次に、それぞれの料理に込められた願いを調べ、自分達にふさわしい料理を5品選びます。紅白の彩りでめでたさを表すダイコンとニンジンのなます、背中が丸まったエビは長寿、子孫繁栄を願う数の子等、子どもたちは家族に聞き取りをしたり、資料を調べたりしてそれぞれの料理の意味を知りました。そして、自分たちの門出を祝う料理として次の5品を選びました。一つ一つ、願いも込めました。

  • 栗きんとん……楽しく豊かな生活
  • 伊達巻……学業成就
  • 黒豆……こつこつと努力を積み重ねる
  • エビの塩焼き……健康(長寿を願うには早すぎるという意見で)
  • 車麩の揚げ物(車麩は上越の郷土食品、丸く輪になった麩)……中学校に進学したら友達の輪が広がるように

産地を調べ、訪ねよう

子ども達は、5種類の料理の主となる食材の栗、卵、黒豆、エビ、車麩の産地を調べ始めました。インターネットを使って調べる子どももいましたが、なかなか地元の産地までは調べきれません。家族や近所の人に聞いたり、小売店に行って産地を調べたりした方が有力な情報を得られました。中には保護者と一緒にJAが運営している交流館へ出かけ、店員さんに話を聞きながら調べてくる子どももいました。

その結果、栗は上越市三和区で栗園をしている方から、卵は6月の笹寿司作りでお世話になった上越市大潟区の朝日池ファームから、黒豆は上越市吉川区で農業法人を経営している方から、エビは上越市名立漁業協同組合からそれぞれ購入することになりました。車麩は上越市稲田地区で古くは盛んに生産されていたのですが、近年は後継者不足から工場数が減っていることがわかりました。現在生産している工場はどこも小さな工場で営業日に大勢の子ども達の見学を受け入れることが困難であるとの事情から訪問を断念しました。今回は、吉川区と名立区を訪ねて黒豆と甘エビを購入することにしました。

吉川区で農業法人を経営する大滝さんを訪ねました。大滝さんは、若い人が選択する職業の一つに農業があってほしいと願って法人化したそうです。農業や地域を守り続けたいという思いと共に、黒豆作りの苦労や工夫について話して下さいました。大滝さんの話を聞いた子ども達の感想の一つです。
「『作物は主人の足音を聞いて育つ』という言葉が心に残りました。それまでは普通に水やりをしたり、草取りをしたりしていれば作物は育つと思っていました。でもただ世話をするだけでなく、たくさん足を運び、声を掛けることが大切なのだと思いました」。

続いて、名立漁港に向かい組合長の小林さんから話を聞きました。地元の海ではエビだけでなく、タイやヒラメ、カニなど多くの恵みがとれることを教えていただきました。その一方、後継者不足や魚の消費量の減少等、漁業協同組合として抱えている悩みも話して下さいました。小林さんの話を聞いた子ども達の感想の一つです。
「朝3時に起きて、6時に出船しているということは、僕達が寝ている時から漁師さん達は頑張っているのだと思いました。小林さん達が早起きして頑張ってとったエビを大切に、ていねいに料理して、おいしくいただきたいと思いました」。

おせち料理を作って、食べよう

伊達巻作りに挑戦

伊達巻作りに挑戦

いよいよおせち料理作りです。それぞれの家庭で聞き取ってきた調理法を参考に、皆で協力して作ります。黒豆は下ごしらえをしたら、柔らかくなるまでひたすら煮込みます。時々アクをとったり、かき混ぜたりと、ゆっくり休んではいられません。栗きんとんは、あんを練る作業が大変です。腕が疲れてきました。それでも、門出を祝うため、一生懸命に練り続けます。伊達巻は、クラス全員が買ってきたものしか食べたことがなく、本当に自分達で作れるのか心配していましたが、調べたレシピをよく見ながら挑戦しました。ふわふわの伊達巻ができたときは皆から「すごい!」の声が上がりました。完成したおせち料理は、各々持ってきたお重に詰めて、各家庭で食べることにしました。
見事完成したおせち料理

見事完成したおせち料理

子どもの感想です。
「栗きんとんは『豊かな暮らしを願う』というのは本当になるのかなあと思っていました。けれど『それは本当だよ』と言うおばあちゃんの言葉を聞いて本当なのだなと思いました。家族と食べてお姉ちゃんも来年高校生になるので『二人が楽しく豊かに暮らせるといいね』とお母さんが言っていました」。

オリジナルレシピにまとめよう

活動が終わるとオリジナルレシピにまとめます。そこには、料理の作り方だけでなく、生産者の工夫や努力、作物に対する思いが書かれます。また、食べた感想や家族の言葉、考えたことや思ったことも書きます。こうすることで、子ども達が生産者に会って話を聞いたり、実際に料理して食べたりすることを通して得た、一人一人の学びを見取ることができます。
料理に込めた願い、作り方、食べた感想、家族の言葉等をオリジナルレシピにまとめる

料理に込めた願い、作り方、食べた感想、家族の言葉等をオリジナルレシピにまとめる

子どもの感想です。
「お母さんに『もう一度お正月を味わえた』と言ってもらったときは、私達が作ったおせちでお正月を感じもらえたことが嬉しかったです。同じクラスの皆で中学校へ行って、良いことがあるように門出を祝えて良かったと思いました。『皆』が大切だと思いました」。
授業の展開例
  • それぞれの地域に伝わるおせち料理と共に、お正月の習慣や行事等も調べてみましょう。人々が願い、守り続けてきた伝統を知ることで、お正月を迎える気持ちも変わります。
  • おせちの食材の生産者の方とはぜひ、事前打ち合わせをすると良いです。子ども達に伝えてほしい思いや願いを教師が知っておくことで、より有意義な出会いになります。

舘岡 真一(たておか しんいち)

新潟県上越市立飯小学校 教諭

総合的な学習の時間を中心に「稲作体験」や「ブタの飼育」「地元の御馳走探し」「文化祭でのおにぎり販売」等を実践。こうした体験を通して、子どもたちの“食”に対する意識が大きく変化し、「作る側」の思いや願いに目が向くようになる。国語科や社会科、理科、家庭科、道徳等の教科等に“食”を関連付けた授業にも取り組んでいる。2007年「地域に根ざした食育コンクール」農林水産大臣賞を受賞。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:舘岡 真一/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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