2013.07.16
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「いただきます」を考える 【食と言葉】[小・学活]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第八十三回目の単元は「『いただきます』を考える」です。

食事のあいさつ、「いただきます」「ごちそうさま」。心を込めて言っていますか? お題目のように唱えているだけに聞こえてくることがあります。この言葉に込められた願いに気づいてほしいと、小学校全学年で活用できる事例、「1枚の写真から『いただきます』の意味を考える授業」を紹介します。

1枚の写真から考える

「この写真をよく見てください。何の写真かわかりますか?」
 と1枚の写真(右写真上)を提示しながら聞きます。すると、子どもたちは
「花が飾ってあるからお墓ですか」
「私もそう思います」
「手前に何か書いてあります」
 と答えます。
「そうですね、手前に何か書いてあります。では、お墓のようなものをもう少し大きくしてみましょう」
 と言って写真を拡大して見せ(右写真下)、次のように聞いてみます。
「魚という文字が書かれています。その下は供養之碑と書かれています。供養という言葉を聞いたことがありますか?」
「お葬式の時に聞いた」
「お墓にお参りすることではないですか」
「よくわかりません」
 と子どもたち。
「少し難しい言葉ですので先生から説明します。供養とは、亡くなった人に対してお花やお菓子などを捧げてお参りすることです。碑というのは、石に刻んでたくさんの人に見てもらうものです。でも、この供養碑は人ではなく、魚です」

 と説明します。

供養碑に込められた思いを考える

続けて聞きます。
「どうして魚に花やお菓子などを捧げてお祈りするのでしょう?」
「人間は魚をたくさんとっているから」
「魚をたくさん殺して食べているから、感謝の気持ちを込めて作ったのだと思います」
「魚の命に感謝するためだと思います」
「魚がかわいそうだからです」
 子どもたちからたくさんの意見が出てきました。そこで
「皆さんに共通する言葉は、『感謝』が多かったですね。では、手前にあった看板に何と書かれていたか見てみましょう」
と言って、最初の写真の右側にあった看板の部分を拡大して見せます。
「これは、魚の会社の人が書いたものです。『魚を使って長年商売をしてきました。今、ここに商売ができるのは魚のおかげです。ここに感謝の祈りを捧げます』といったことが書かれています。つまり、魚に感謝するものなのです。この魚の供養碑のようなものが、他にもあると思いますか?」
 と問いかけます。

全国にはたくさんの供養費がある

子どもたちからは、
「魚があるのなら、肉もあると思います」
「私も肉のものがあると思います」
 といった意見が出ます。そこで、
「肉という意見が多かったですが、私たちが食べるものは肉だけですか?」
 と聞くと、
「野菜も果物も食べます」
「野菜の供養碑ってあるのかな」
「肉とか魚は生きているけど、野菜はどうかな」
「野菜だって生きているよ」
「やっぱりあると思います」
 と子どもたち。これらの意見を受けて、
「魚の供養碑の他にも、色々な供養碑があります。少し紹介しましょう」
 と言って3枚の写真を見せます。
  • 食肉の供養碑

    食肉の供養碑

  • 鶏肉の供養碑

    鶏肉の供養碑

  • 大根の供養碑

    大根の供養碑

「食肉の供養碑、鶏肉の供養碑、大根の供養碑、その他にも『クジラ』『鰻』『スッポン』『野菜』などの供養碑がありました。皆さんも探してみてください。全国にはたくさんの供養碑が建てられています」
 と説明を加えます。

「いただきます」の意味を考える

いよいよ本題に入ります。
「さて、今日の課題は、『いただきます』の意味を考える、です。『いただきます』には、どんな意味があるのでしょうか? 考えてください」
 と聞きます。
「人間は、生きている動物や野菜を食べないと死んでしまうので、『いただきます』は感謝する言葉だと思います」
「動物だけじゃなく野菜も食べています。全部生きています。だから命をいただいていることだと思います」
「『いただきます』は、『ありがとうございます』と同じだと思います」
「『いただきます』の時には手を合わせます。やっぱりお参りと同じ感謝する言葉だと思います」
 と子どもたち。
「たくさんの意見が出て大変嬉しいです。先生はこう考えます。『いただきます』は『あなたの命を私の命に代えさせていただきます』ではないかなと。動植物の命は、私の体の中で生きています。あなたの命を無駄にしません。という意味だと考えています。皆さん、これからは食事のあいさつ『いただきます』を、心を込めて言いましょう」。

低学年ではここまででいいと思いますが、高学年になったら理科で学習した食物連鎖と関連して考えさせます。肉食動物、草食動物、微生物、植物は全て連鎖しているが、人間はこの中に入らないことなどを考えさせます。草食動物は植物を食べます。肉食動物は草食動物を食べます。肉食動物は死んだら微生物に分解され植物を育てます。しかし、一般的には人間は死んだら火葬されこの循環には入りません。肉を食べ、野菜を食べ、魚を食べる人間だからこそ、感謝して食物を食べる必要があるのです。

授業の展開例
  • 「ごちそうさま」には、どういう意味があるのでしょうか? 考えてみましょう。
  • 目の前にある食べ物、何人の人がかかわって私たちの所に届くのでしょう。

江口 敏幸(えぐち としゆき)

東京都杉並区立三谷小学校栄養教諭、並びに杉並区学務課保健給食係兼務

平成20年より国産食材だけで給食を作る国産給食の実施、国産給食を教材に5年生社会科で日本の食料自給率について実践。
理科、生活科と関連づけた年間栽培計画を作成し1年間を通して栽培活動を実施。そのほか、ケチャップ、梅干し、みそ、たくあん作りに取り組んでいます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:江口敏幸/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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