2013.04.16
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あなたの好きな水は? 【食と暮らし】[学級活動]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第八十回目の単元は「あなたの好きな水は?」です。

私たちの最も身近にあり、世界共通の食材とも言える水。しかし、その種類や味は様々です。

私たちは、水を飲んだり食事をしたりなどしながら、1日に約2~2.5リットルの水分を体に取り入れています。こうして体に取り入れられた水分は、私たちの体をつくる水分となります。このように、私たちの体に深く関わっている水ですが、あまりにも身近な存在であるためその大切さを見過ごしてしまいがちです。多くの子どもたちにとって、水道水もコンビニエンスストア等で買う水も、また飲食店で出される水も、どれも同じ「水」ではないでしょうか。

そこで、水を飲み比べる活動を取り入れた学習を行えば、水が持つ特徴の違いに気づき、人間と水、ひいては環境とのつながりについて関心を高めることができると考えました。子どもたち自身が、水との付き合い方を考えるきっかけとなるように「聞き水」を教材とした学級活動の学習を紹介します。

色々な水の違いに気づく

始まりは水を見せることからスタート。「もしかすると、何かが混じっていて味がついているかもしれない」「謎の水溶液かもしれない」と子どもたちの期待は膨らみます。しかし、
「これは本当の水です」
 と告げると
「なんだ……」
 と期待外れの様子。しかし、この落胆が聞き水を行った後に感動へと変化するのです。

子どもたちは、私たちが生きていくために必要な水分を飲んだり食べたりして体に取り入れていることを知っています。
「いつも皆が飲んでいる水は、どんな水が多いですか?」
 と尋ねてみました。子どもたちは、
「水道水」
「井戸水」
「ミネラルウォーター」
 などを挙げながら、
「水道水は飲めない……」
「うちの台所には水道水と井戸水の蛇口があって、夏は井戸水の方が冷たい」
 など、“水の違い”を語り始めました。

4種類の水の「聞き水」開始

4種類の水の「聞き水」開始

そこで、色々な場所から集めてきた四つの水を見せながら
「これらの水を飲み比べて好きな水を選ぼう」
 という活動を提示しました。子どもたちは、A・B・C・Dの四つの水を自分の机に運びながら
「なんか、おもしろそう!」
「どれも透明、何か違うの?」
「Bは変なにおいがする」
 などと興味津々です。

準備が整った所で聞き水開始。それぞれの水の味やにおい、舌触りやのど越しなどを確かめながら気づいたことをメモしていきます。「甘い」「冷たい感じがする」という印象を書きとめる子どももいれば、
「Bを飲んだ後でAやCの水を飲むと、口の中が爽やかになるよ」
「Dの水は、のどが『いがいが』するよ」
 と発見を語り合ったり、
「Bの水は炭酸? 水は中性だけど、Bは(炭酸水のようだから)酸性じゃないかな」
 という理科の学習を踏まえた疑問をつぶやいたりする子どももいました。最後に、四つの水を好きな順にランキングし、自分が1位をつけた水の所にネームカードを貼りました。

水の好みや感じ方は様々ある

聞き水の結果、Aの水を1位に選んだ子どもは10人、Bの水は1人、Cの水は12人、Dの水は1人と大きな差が生じ、子どもたちから驚きの声が上がりました。そこで、「どうしてその水を1位に選んだのか」について意見を交流していきました。
全員の聞き水の結果を黒板に貼る

全員の聞き水の結果を黒板に貼る

まず、Aの水を選んだわけから尋ねると
「家のミネラルウォーターに似ている」
「後味がよい」
「冷たい感じがした」
 ということが挙げられました。「冷たい感じ」という意見については、AとCの水で迷った子どもたちが
「Cも冷たい感じだったから迷った」
 と言いながらうなずいていました。水の温度はすべて常温で同じなのですが……。

次に、においや風味が独特なBを選んだ子どもの意見。
「炭酸っぽいところがいい。この水飲んだことがあります。船小屋鉱泉(=ふなごやこうせん ※福岡県筑後市南部の天然高濃度含鉄炭酸泉)でしょう? あそこにいくとコップが置いてあって……」
 と水の正体まで見事に言い当てました。それに対して「Bの水は苦手」という意見が多数出てきました。
「Bの水は、なんか、血の味がする」
 という意見に
「血というか、雨上がりの階段の手すりみたいな感じ」
 というソムリエ並みの解説が登場。すると、
「ああ、鉄っぽい」
「Bの水には鉄が関係しているかも……」
 と水の正体を推理する発言も飛び出しました。

そして話題は一番多かったCの水へ。待ってました! とばかりに
「Aの水と迷ったが、Cの水の方が冷たい感じ」
「普通においしい」
「Cの水は前に飲んだ味のような……」
 という意見が出てきました。特に「前に飲んだような味」に大きくうなずく子どもが多く、付け加えて
「Cの方が自然を感じる『山の水』のような感じがした」
 という声も。中には
「Cは消毒っぽくないから、Aの方がミネラルウォーターじゃないか」
 と、ミネラルウォーターは工場でペットボトルに入れて商品化する際に消毒していると思い込んでいる子の意見も出てきて、さらに推理が深まります。

最後に、Dの水を選んだ子どもの
「AやCと味は似ているが、感触がなめらか」
 という意見が出されました。一方、Dの水の感触を
「違和感」
「のどに残る」
 と表現する子どももいて、「好みや感じ方は一人ひとり違う」ということにも気づいていきました。

水の正体からつながる疑問や気づき

ここで、子どもたちに
「『硬度』という言葉を聞いたことがありますか?」
 と尋ねました。子どもたちが首をひねっているので
「『硬度』とは、水の中に含まれるカルシウム塩やマグネシウム塩の量を表したもので、A~Dの四つの水は『硬度』が大きく違います」
 と説明し、硬度数を表す直線を使いながら、「軟水・中硬水・硬水・超硬水」という水の種類を教えました。すると、「Bの船小屋鉱泉水の硬度が一番高い」という予測が飛び交いました。

いよいよ水の正体を徐々に明かしていきます。
「Aの水は硬度36の軟水、Bの水は硬度676の硬水……」
 と言うと、子どもたちは、Bの水が超硬水ではなかったことにがっかりしました。しかし、Cの水の硬度が軟水であることを告げると、
「ああ、だからAとCの水で迷ったのか!」
 と歓声が上がりました。そしてDの水の硬度が1551であることを告げると、子どもたちは大盛り上がり。Dの超硬水の味や感触を確かめていました。

すると子どもたちから
「先生、どうして硬度に違いがあるのですか?」
 という疑問が出てきました。そこで
「理科の時間(土地のつくりと変化)に見た、滝の出来方のビデオを思い出してごらん」
 と問いかけると、
「地層の中のカルシウム塩やマグネシウム塩の量が違うからだ!」
 と気づきました。そこからさらに、
「じゃあ、A~Dの水はどこの水なのですか?」
 と新たな疑問が噴出。
「そこが知りたい!」
 と子どもたちのわくわくは沸騰寸前です。少し勿体ぶりながら、
「Aの水は、山梨県の日本アルプスのミネラルウォーター」
「Bの水は、鉄分豊富な地元筑後の船小屋鉱泉水」
「Cの水は、皆がおいしいと言って飲みに行く学校の中庭の井戸水」
「Dの水は、スイスのミネラルウォーター」
 であることを告げます。Cの学校の中庭の井戸水を1位に選んだ人が最も多かったことから、子どもたちは自分たちが「飲み慣れた水」を最も好んだことに驚いていました。「水に慣れる」という言葉通りです。

また、ヨーロッパの国々では硬水が生活の主流であることを伝えると、
「ヨーロッパの人々の体はどうなのですか? 硬水を飲んでいても大丈夫なのですか?」
 と、水と人の体の約60%占める水分を関係づけて疑問を発する子どももいました。
「AとDのミネラルウォーターはどこで手に入れたのですか?」
「硬度0の水ってあるのかな?」
「料理によって水を使い分けたら……」
「リトマス紙で調べたい」
 等々、始めは「なんだ水か」程度の存在だった水ですが、聞き水を通して自分の体をつくる水について関心を持ち、見直すきっかけとなったようです。併せて、身の回りに当たり前にある水と自分のかかわりを意識することができました。

学習のまとめを書く

子どもたちの学習のまとめを紹介します。

「私は水に種類があるなんて知らなかったのですごいなと思いました。今度から水を買う時は、どこでできたかとか硬度は何かとかを見て買ってみたいです」。

「最初はそんなに違いはないだろうと思っていました。でも、改めて水をじっくりと飲むと違うものなんだと知りました。私は硬度が一番低いものが好きでした。甘くて一番飲みやすかったです。軟水が自分に一番合うのだなと思いました。次から水を買う時は、軟水を選びたいです」。

「私はCの水(学校の中庭の井戸水)が一番好みでした。人によって好みが違って、私が飲めないなと思った水を好んだ人もいました。それぞれの生活の中で飲み慣れているものをおいしいと感じたのではないかと思います」。

授業の展開例
  • 安全な水の供給のための国際協力・支援について調べましょう。水の大切さについてより一層考えるきっかけとなります。(6年 社会・ユニセフ募金活動)
  • 軟水と硬水それぞれの語源を調べましょう。語源は、「豆を煮ると固くなってしまう水」と「軟らかく煮える水」から来ています。実際に煮てみると効果的です。(国語)

山田 深雪(やまだ みゆき)

福岡県筑後市立筑後小学校 教諭

現任校勤務1年目。5年担任。研究主任。国語科と総合的な学習の時間を中心として授業実践を進めている。本実践を行った前任の筑後市立二川小学校では、「久留米絣PR大作戦!」と称し、郷土の伝統を地域や全国へと発信する実践を行った。日々の学校生活の中で継続して取り組める食育実践をつくりたいと日々奮闘中。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二 文:山田深雪:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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