2013.02.19
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清涼飲料水と上手に付き合おう 【食と算数】[小6・算数]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十八回目の単元は「清涼飲料水と上手に付き合おう」です。

清涼飲料水は私たちの生活の中にごく自然にあります。お菓子を食べる時、のどが渇いた時など、水やお茶、牛乳を飲むよりも清涼飲料水を飲む方が多い、という人もいるのではないでしょうか。子どもたちも同じです。多くの子どもたちは清涼飲料水が大好き。放課後、家に帰って、友だちと遊んで、外食で……と、様々な場面で飲む機会があります。自覚もなく飲んでしまうからこそ、清涼飲料水が持つ特徴を正確に把握し、上手に清涼飲料水と付き合っていく態度を育てる必要があります。子どもたち自身が、清涼飲料水との付き合い方を考えるきっかけとなるように、「清涼飲料水に含まれる砂糖の量」を教材とした算数科の学習を紹介します。

4種類の清涼飲料水を実際に飲み、砂糖の含有量を考える

子どもたちがよく目にする500mlのペットボトルを見せながら、最近飲んだ清涼飲料水について尋ねてみました。パッケージを外した4種類の清涼飲料水を見せると、早速、
「○○だ!」
「あの色は○○に違いない!」
 と、商品名を挙げていました。水の色やペットボトルの形、キャップの色で商品を見抜けるほど、子どもたちにとって清涼飲料水は身近なのでしょう。
4種類の清涼飲料水

4種類の清涼飲料水

パッケージの代わりに青、緑、黄、白と名前を付けた4本のペットボトルを見せながら、
「一番たくさん砂糖が入っているのはどれだと思う?」
 と尋ねました。商品の見当をつけている子どもたちは、思い思いに予想を言います。その中に
「飲んでみたらわかる! 実際に飲んでみたらいい!」
 と言い出す子がいました。その声を拾って、
「飲んでみたい? 飲んだらわかる?」
 と切り返すと、
「飲みたい! 飲みたい! 飲んだらわかる!」
 と、大きな声が返ってきます。
「では……」
 と、清涼飲料水の入った紙コップを教室に持ち込み、実際に皆で飲んでみることにしました。
実際に飲んで砂糖の量を考える

実際に飲んで砂糖の量を考える

味を確かめ、においや色などから商品名に見当をつけながら、班ごとに砂糖の含まれている量が多い順番を考えました。各班の予想は黒板に残し、自分たちの舌の確かさを確認できるようにしました。次に、
「砂糖は温度が低いと甘く感じないそうです。皆の舌は本当に正確かな? 間違ってない?」
 と、子どもたちの予想に対して問い返しました。さらに
「どうしたら絶対! と言えるかな?」
 と尋ねると、蒸発させて砂糖を取り出す、作った会社に聞く、といった理科や社会科における解決方法が出されました。
「算数的に解決するにはどうしたらいいかな?」
 と切り返すと、
「パッケージを見て、成分表を見たらわかる!」
「1本当たりの砂糖量を出して比べたらいい!」
 といった意見が上がり、単位量あたりの考え方が出てきました。そこから、算数的な解決を目指していきました。

ヒントカードをめくって、算数で考える

「では、1本当たりの砂糖の量を考えるヒントを教えましょう」
 と持ちかけて、6枚のヒントカードを紹介しました。この6枚のうち、4枚は正確な情報、2枚は何も書いていないハズレカードです。これらを裏側にして黒板に貼りました。

4枚のヒントカードの情報は、次の通りです。

  • 「青」清涼飲料水のヒント:500ml中54g
  • 「緑」清涼飲料水のヒント:100ml中10g
  • 「黄」清涼飲料水のヒント:「白」清涼飲料水の15分の11倍
  • 「白」清涼飲料水のヒント:「白」清涼飲料水と「緑」清涼飲料水の比は6:5

「青」清涼飲料水と「緑」清涼飲料水のヒントは水の量を変えることで、比例の考え方を引き出そうとしました。「黄」清涼飲料水のヒントは分数のかけ算や割合の考え方を、「白」清涼飲料水のヒントは比の考え方を、それぞれ引き出そうとしました。

代表者がヒントカードを引く

代表者がヒントカードを引く

このように、これまで学習してきた二つの量を扱った計算や考え方を、課題解決に使えるような情報として提示したのです。代表者が一人ずつ前に出てきてヒントカードを引きました。子どもたちはおみくじ感覚で、ハズレが出てもヒントが出ても大盛り上りでした。

一人目の代表者が引いたのは白のヒントでした。このヒントを見た瞬間、
「予想外れた!」
 とつぶやいた子がいました。
「どうして?」
 と聞くと、
「6:5と書いてある、ということは白が6だったら、緑は5ってことだから、この時点で白の方が砂糖の量が多いってこと!」
 と説明してくれました。次に出たのは黄色のヒントでした。
「15分の11倍ということは、1よりも小さい分数をかけているから、白よりも黄色の方が少ないってことか!」
 とつぶやく子がいたので、
「どういうこと?」
 と、全体に広げることにしました。つぶやきの内容を理解できた子2~3人にそれぞれ、まだ理解できていない周囲の子たちに説明してもらいました。

ここまで来て、予想が当たっている可能性がある班はゼロになってしまいました。4ヒントの計算の結果、青は54g、緑は50g、黄は44g、白は60g、と正確な砂糖量が出ましたが、子どもたちは自分たちの予想が外れたこともあって、大した驚きも感動もありませんでした。

砂糖の量を実感する

計算して正確な結果を得たにもかかわらず、驚きもせず、淡々としていた子どもたち。そこで、1本のスティックシュガーを見せながら
「見たことある? これ1本で何gだと思う?」
 と尋ねると、子どもたちは
「見たことある! コーヒーの時に使う砂糖!」
 と、興味を持ち、何gかを予想しました。
「正解は3gです」
 と教えると、
「えぇっ!! 3g?」
 と驚き、
「じゃあ、清涼飲料水にはそれが何本入っているってこと!?」
「めっちゃ多いやん!」
 と言い出しました。さっと計算してみると、一番多い清涼飲料水ではスティックシュガー20本分程度の砂糖が入っていることに気づきました。
「そんなに多いの? 砂糖ばっかり!」
 と、さっきまで計算しても特に反応を示さなかった子どもたちも実感できたようです。

そこでさらに「1日20gが適切な砂糖の摂取量」であることを伝えます。すると、
「1本飲むだけで超えてしまう!」
「さっき飲んだ清涼飲料水で、今日の砂糖全部とったかもしれない!」
 と、声が上がります。砂糖を摂取するメリット(エネルギー摂取)と、過剰摂取するデメリット(集中力低下など)を伝え、清涼飲料水を飲むことは見方を変えれば、砂糖を摂取することでもあることを確認しました。すると、
「先生、どうしてそんな砂糖が多い清涼飲料水を売っているの? そんな清涼飲料水を売らなかったらいいのに」
 と、販売者側の意図を疑う子も出てきました。ただ、販売する側は「1本を一度に飲み切りなさい」とは絶対に言っていないことを伝え、どれだけ飲むのか、いつ飲むのか、何を飲むのか、それは一人一人に委ねられていることを伝え、子どもたちは自分次第であることを改めて実感しました。

学習のまとめを書く

以下に子どもたちの学習のまとめを紹介します。

「ヒントがあったので、今まで習ったことを使うことができた」。

「いつもは、買ってきたら適当にごくごくと飲んでいたけれど、改めて勉強すると体にダメなことがわかりました。だから、今度はしっかりと調節したいです」。

「楽しくおいしく、いい勉強ができた」。

「自分の清涼飲料水生活を振り返って、僕はもっと糖分に気をつけた方がいいと思いました。僕は炭酸飲料が大好きなので1日に1本飲んでしまうのではなく、1日に3分の1ぐらいを飲むようにしたいです。1日砂糖20gを目安にしていきたいです」。

授業の展開例
  • 比の学習を基に、ドレッシングの原料を混ぜて、実際に作ってみましょう。その際、「ノンオイル」や「●●g、▲▲カロリー」等の商品のキャッチコピーを教材に取り上げると、おいしさと健康の両面を考える学習になります。
  • スポーツドリンクを作ってみましょう。パウダーと水の量を変えて数種類の濃さを作り実際に飲み比べてみたり、それぞれのカロリーや糖分を考えたりすると、実際に作る時の参考になります。

竹本 晋也(たけもと しんや)

兵庫県西脇市立重春小学校教諭

現任校勤務3年目。6年担任。兵庫型教科担任制のため今年度は算数と理科を担当している。総合的な学習を中心として研究実践を進めている。2012年11月には本校を会場として、北播磨地区の「食に関する教育研究会」を行った。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二 文:竹本晋也:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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